年末企画:今 祥枝の「2016年 年間ベストドラマTOP10」
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2016年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマの三つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は2016年に日本初上陸した作品(シーズンものは、リミテッド・シリーズのみ)の中から、執筆者が独自の観点で5本をセレクト。第十回の選者は、『海外ドラマ10年史』(日経BP社)の著者である海外ドラマライターの今 祥枝。(編集部)
1.『FARGO/ファーゴ シーズン2』
2.『ザ・クラウン』
3.『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』
4.『ナイト・オブ・キリング 失われた記憶』
5.『クレイジー・エックス・ガールフレンド』
2016年日本初上陸作品及びリミテッド・シリーズ(1シーズンで物語が完結する)はシーズン毎が対象、という編集部規定に則り選んだベスト5。数年前に比べて、Netflixを筆頭とするオンライン・ストリーミング・サービスのおかげでさらに多くの新作・未上陸だった秀作が視聴できるようになり、本当にすごい時代になりました。時間との闘い。(※メイン画像は『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』)
ベスト10にするなら以下5作を追加。
6.『アメリカン・クライム』
7.『高い城の男』
8.『ウエストワールド』
9.『ロンドン・スパイ』
10.『ストレンジャー・シングス』
あらゆる意味において、米国テレビ界の2016年を代表する作品は『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』と『ストレンジャー・シングス』だったと思う。前者は超売れっ子、ライアン・マーフィー(『アメリカン・ホラー・ストーリー』『glee/グリー』)がプロデュース。事件の再現性のクオリティにも驚かされたが、多くの人が知るセンセーショナルな題材を人種問題を前面に出して、きっちりと今の時代にアップ トゥ デイトしたアレンジの巧みさも見事。ジョン・トラヴォルタらスターをみる楽しみもありつつ、初回の掴みはオッケーからのラストまで一気に見せ切る。誰もが面白く観ることができるキャッチーさも含めて、これぞテレビドラマの鏡。
同時に本作がこれほどまでに賞レースを席巻しているのは、やはり人種差別、偏見や司法における不正の横行、扇情的なマスメディアの報道のあり方等々の当時の社会的問題が、現在でも過去の話になっていない点を再認識させられた社会派の要素にある。これはHBOの『ナイト・オブ・キリング 失われた記憶』(クリエイターの一人、『ザ・ワイヤー』のリチャード・プライスのディテールの描写、キャラクターに厚みを与えるダイアローグは絶品)、ABCの『アメリカン・クライム』(地上波でこれをやるのはスゴイ)にも通じる。こちらの2作の方が、わかりやすい対立構図ではなく、米生まれ、米育ちのマイノリティーに対する『マイクロ・アグレッション』の描写も実に巧みで、演者の絶妙な「やな感じ」には上手いわーとしか言えない。偏見や差別行為が、ひとりの人間の人生を破滅させるばかりか、その周囲の多くの人間の人生をも狂わせるのだということを、今一度よく考える必要性を感じさせる秀作だ。
米ドラマはその時々の世相や社会問題、時事ネタを反映することが常なので、トランプ大統領誕生後は、よりこのテーマを扱う作品が増えるのではないだろうか。
Netflixは、世界を相手に地上波(万人向け)、ケーブル(通向け)、オンライン・ストリーミング・サービスならでは(ビンジウォッチング)の全てを網羅するようなライナップになりつつある。日本のサービスの場合、日本の作品がそれほど多くはないが、海外ドラマ好きからするともう十二分。『ザ・クラウン』は題材的にさほど興味はなかったけれど、2話目以降はイッキ見。よく”映画的”として『ハウス・オブ・カード』などを「13時間の映画」と評するのを見かけるが、個人的には「13時間の映画」は観たいとは思わない。1話1話が映画1本を観るようなカタルシスがあり、かつシリーズものとして連続性の醍醐味がある、というのが個人的に好きな作り方かつ評価の基準でもあり、そういう意味では『ザ・クラウン』はダントツだった。ゴシップ要素の強い題材を、劇的に盛り上げないのはHBO的な作り方だなとも思う。
一方で、ビンジウォッチングの特性を生かして1シーズンを一本の映画として、あえて作るといった挑戦はNetflixの最も野心的なパートだろう。ジャンルとしても放送では中々難しい『センス8』の流れを汲んだ『ストレンジャー・シングス』、そして『The OA』と続く作品群は、どこへ話が向かうのか?と思いながら、終わってみればパズルが完成しているという感じ。これぞイッキ見向きだし、今後に展望のある方向性だろう。チャレンジングという意味ではAmazonの『高い城の男』、HBOの『ウエストワールド』も難しい題材に果敢に挑んでいる。ツッコミどころはあるが、前者はリドリー・スコットのビジュアルセンスが圧巻、後者もビジュアルはもとよりジョナサン・ノーラン節全開の哲学的思索に富んだコンセプトに圧倒された。
前後したが、『FARGO/ファーゴ』は映画に目配せしながら大胆にオリジナルの物語が展開するシーズン1も傑作だったが、時代も登場人物も違うがうっすらS1にもつながらるシーズン2も傑作。「これは実話である」から始まる冒頭から、殺戮三昧など凄惨な事件が起きるのにもかかわらず人を食ったようなラストに唖然としながらにやにや。映像、キャスト等々全てが完璧だが、才人ノア・ホーリーの脚本が絶品。同氏が手がける新作『レギオン』も来年2月日米ほぼ同時に上陸するので、こちらも楽しみだ。同作と『アメリカン・クライム・ストーリー』『ジ・アメリカンズ』ほかを輩出する米ケーブル局FXは、今年個人的に最も注目していた放送局でもある。『Nip/Tuck』でライアン・マーフィーの才能を世に知らしめ、作家性を尊重して思いっきりやり切らせる同社の姿勢は特筆に値する。
『クレイジー・エックス・ガールフレンド』は、”ナショナル・トレジャー”(言い過ぎのような気もするが)とも評される自作・自演のレイチェル・ブルームの才能に圧倒された。トリプル スレット(歌・ダンス・演技)+クリエイティブな才能も発揮するブルームは、ティナ・フェイやエイミー・ポーラーなどとともに覚えておきたい名前だ。作品自体は『アリーmyラブ』や日本のドラマ『逃げ恥』的な要素も強いミュージカル・ロマコメだが、キャラクターのイタさも壊れっぷりも段違い。最初はテンションの高さに腰が引けるかもしれないが、自己肯定感の低い人間が他人を受け入れることができるのか?というブルーム自身の体験を反映した恋愛の普遍的なあれやこれやは、明るくやってるけどグサグサと心をえぐってくるので侮れない。シーズン1ラスト4話ぐらいは、もう怒涛の恋愛トラウマ描写がイタすぎてサイコー。普通はそこまではやらないにしても、多かれ少なかれ誰にでも”あるある”だと思う。
既に規定文字数を大幅にオーバーしているので、残りは簡単に。今回は編集部の規定外だが、ドラマの醍醐味は何シーズンも続くシリーズものにあるとも思う。キャラクターの変遷を追う楽しみ、長寿シリーズをまっとうした時の達成感は得がたいものがある。また、毎シーズン高い質を維持することは至難の技で、そこにこそ作り手の優秀さ、層の厚さを感じる。以下は続きを首を長くして楽しみにしていた今年初上陸の新シーズンが、予想通りあるいは予想以上の出来だった作品。『グッド・ワイフ シーズン7』がまだ観終わっていないが、確実にベスト5には入るはず。
『ゲーム・オブ・スローンズ:第六章』『ジ・アメリカンズ シーズン4』『トランスペアレント シーズン3』『ホロウ・クラウン シーズン2』『HOMELAND/ホームランド シーズン5』『HOUSE OF CARD シーズン4』
年末年始の休みのお供にシーズン1から観るもよし。あまりにも作品数が多くて何を観て良いかわからないという人にとっては、ここで挙げた作品が参考になればと思う。
■今 祥枝
映画・海外ドラマライター。「BAILA」「日経エンタテインメント!」「エクラ」「MY STAR CLUB」「シネマトゥデイ」など雑誌・ウェブで連載。ほかプレス作成、劇場用パンフレットにも寄稿。時々ラジオ、映像のお仕事。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。Twitter
■作品情報
『アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件』
製作総指揮・監督:ライアン・マーフィ
プロデューサー:ジョン・トラヴォルタ ほか
脚本:ジェフリー・トゥービン ほか
出演:キューバ・グッディング Jr.、ジョン・トラヴォルタ、サラ・ポールソン、デヴィッド・シュウィマー、コートニー・B・ヴァンス、スターリング・K・ブラウン
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公式サイト:http://www.star-ch.jp/american-crime-story/?refid=drama