『健さん』日比遊一監督インタビュー
「高倉健さんは、ひとつの役しかできないけれどスターだった」 『健さん』監督が語る、その偉大さ
2014年11月10日に逝去した映画俳優・高倉健の美学に迫った映画『健さん』が、8月20日に公開された。本作は、降旗康男、山田洋次、梅宮辰夫、マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、ジョン・ウーら国内外20人以上の監督・俳優・ゆかりのあった人物たちの証言とともに、高倉健の知られざる素顔を追うドキュメンタリー映画だ。リアルサウンド映画部では、メガホンを取った日比遊一監督にインタビューを行なった。ニューヨークを拠点に写真家としても活躍する日比監督は、本作で“高倉健”をどのように切り取ろうとしたのかーー。撮影時のエピソードや日本映画界の現状などについてもたっぷりと語ってもらった。
「恐れ多くも、絶好のチャンスだと思いました」
ーー監督はそもそも高倉健さんと交流があったのでしょうか?
日比:全くないんですよ。ただ、大ファンだったので、何度か手紙を書いたことはあります。10通くらい書きましたね。いつも元気をもらっていますとか、普段からいつも映画を拝見させていただいていますとか、次の作品も楽しみにしています、というような内容ですね。かなり一方的だったので、ファンレターに近かったです。僕は海外生活が長いのですが、最初の頃は英語が話せなかったり、友達ができなかったり、いろいろ苦労したんです。そんな時に高倉さんの映画や言葉からすごく元気をもらったので、感謝の気持ちを込めて書いていましたね。残念ながら返事をもらったことはありませんけど。
ーー高倉健さんの作品に触れることになったきっかけは?
日比:最初は任侠ものでした。みんなそうだと思うんですけど、やっぱり若い頃はカッコいいものに憧れていたんですよ。僕は俳優になるために名古屋から東京に出たのですが、当時はほとんど映画を観たことがなかったんです。そんな時に映画俳優の卵のクラスメイトにオススメされた映画の中に、任侠映画があって。当時はまだ都内にもオールナイトで映画を上映している映画館がいくつかあって、そこに通っている中で初めて高倉健さんが出演されている映画を観て、「カッコいい人がいるんだな」と思っていました。高倉健さんは俳優仲間の間では、ひとつの役しかできない、ある種大根役者だと思われていたところがあるんです。ただ、それってある意味、スターに共通していることだと思うんです。クリント・イーストウッドもブルース・リーもそうじゃないですか。でも、何回も観ているうちに、「ああ、こういうことだったのか」って思い知らされるんですよね。シーンごとに早送りして高倉健さんの姿を観たりして、元気をもらったりしていましたね。
ーー高倉健さんのドキュメンタリー映画を撮ってくださいというオファーがあった時は、どのような感想を抱きましたか?
日比:恐れ多くも、絶好のチャンスだと思いました。僕なんかよりももっと巨匠の監督さんや、高倉健さんに近い人が撮るべきだと言われるのも覚悟の上で、ファンを代表して挑もうと。他の人が撮るよりも、僕が撮ったほうが絶対にいいというぐらいの思いでしたね。高倉健さんはもう手が届かないような存在だということは散々言われていたので、じゃあどのようにすごかったのか、それを映画にしたいなと。自分自身も知りたかったし、そういう映画にするんだったら、自分がやるのが1番いいかもと思いましたね。悩むというよりも、こんなチャンス2度とないと思ったので、絶対自分にしかできない映画にするつもりで臨みました。でも自分が本当にすごいことをやっているんだなと実感したのは、実際やり始めてからでしたね。
ーー確かに錚々たる方々が出演されていますよね。誰に出てもらうかは監督が決められたのでしょうか?
日比:誰に出ていただくかはすべて僕が決めさせていただきました。真っ先に出てもらいたいと思ったのは、やはりマイケル・ダグラスです。映画に出ているのは25~26人ですが、実際は40人近い方々にインタビューをしました。実を言うと、1番最初に撮ったインタビューがマイケル・ダグラスだったんです。だから相当緊張しましたよ。アカデミー賞受賞経験のある大俳優で、偉大なプロデューサーでもありますから。なので彼の言葉は非常に重く感じましたね。本当はリドリー・スコット監督にもインタビューをしたかったのですが、スケジュール的に難しくて実現しませんでした。僕ひとりのプロジェクトだったら1年でも2年でも待ちましたけど、チームでやっている以上それはできなくて。だから残念でしたけど、そこは自分の中でも納得させてやりました。
ーー映画では高倉健さんについての知られざるエピソードの数々が出演者の方々の証言によって明らかになっていきます。
日比:初めて聞く話がすごく多かったので、1人の映画ファンとして、皆さんの言葉には本当に鳥肌が立ちました。言ってしまえば、自分自身が1番聞きたかったんだと思います。僕はそれをカメラに収めただけで。中でも、ジョン・ウーのインタビューはすごいですよね。これまで一緒に仕事をしてきた大スターたちを演出する際、彼は高倉健さんのことを考えていたという。それを聞いて、自分が日本人で本当によかったと思いました。
ーー『単騎、千里を走る。』で高倉健さんと共演したチューリンさんが軸になっているような構成も面白かったです。
日比:今の若い人たちって、“高倉健”という名前は知っていても、彼のことをそこまで知らないんですよね。当然、高倉健さんと繋がりのあった著名人の方をナビゲーターにすることはできたんですが、若い人に観てもらうために、観客の目線でストーリーを伝えなければいけないと思ったんです。チューリンさんは『単騎、千里を走る。』で高倉さんと共演していますが、俳優ではないので観客と同じ目線で入っていけるんですよ。任侠映画を観たこともないような人ですから、映画館で映画を観るシーンでは、本当に初めて映画を観る若者のような表情をしてたのが印象的でした。