書籍『ネットフリックスの時代』インタビュー(後編)

「Netflixは新しい競合の形を考えている」西田宗千佳が各配信サービスの特性を解説

 Netflixの革新性を綿密な取材とデータ検証によって解説した書籍『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』の著者・西田宗千佳氏のインタビュー後編。前編【「クリエイターはより自由に表現できる」西田宗千佳が語る、Netflixと配信コンテンツの可能性】では、なぜNetflixがハイクオリティなオリジナルコンテンツを次々に制作できるのかを、その制作システムや状況などから解説してもらった。後編では、Netflixの競合とされるHuluやAmazonとの関係性や、それぞれの特性、さらに今後それらのサービスがどのように浸透していくかまで、詳しく話を聞いた。

「競合という考え方自体が変化している」

西田宗千佳氏

──Netflix以外にもHuluやAmazonがSVOD(定額制動画配信)に参入し、それぞれコンテンツを増やしたりと内容を拡充しています。いずれはどれかひとつのサービスが勝利するのでしょうか。それとも、いくつかのサービスが共存するのでしょうか。

西田:競合に関しては、実は各社ともに、どこか1社だけが生き残るとは考えていないんですよ。NetflixのCEOであるリード・ヘイスティングスが部下に言ったところによると、自社のサービスは100%のものではなく、他社のサービスも100%のものではないうえ、両方を契約したとしてもケーブルテレビよりはずっと安い料金なので、ふたつ以上のサービスを契約する人もいるというのが、彼らの考え方だそうです。また、もうひとつのポイントとして、たとえばNetflixのオリジナルドラマを観終わって、ほかに見たいコンテンツがなくなったら一時的に契約を休んでもらってもいいとさえ考えているそうです。でも、次に新しいドラマの配信がはじまったら、また帰ってきてもらえるように、サービスの設定をしていると。常に「我々のサービスだけを観てください、ほかは観ないでください」という姿勢だと、結局はサービスの内容が硬直して、顧客を逃がすことになるというのが、その理由です。1社のサービスしか使わせないように、他のサービスを押しとどめるようなビジネスモデルは、もはや通用しないんですね。それよりも、いかに他社のサービスとの棲み分けをするか、ということがポイントになってきています。

──棲み分けを特に意識しているサービスは?

西田:Amazonはその点が非常に分かりやすくて、他社との併用を厭わないやり方です。Amazon Prime VideoというストリーミングサービスをTVで観るために「Fire TV」デバイスを自社で売っています。その中にはHuluもNetflixも全部入っているんですよ。そのデバイスを買ってくれれば、Netflixを4Kで快適に観ることができる、とまで宣伝している。つまり、Netflixを観るためにAmazonの機械を買ってくれるかもしれないし、Amazonの機械を買ってくれればAmazonのビデオも観れるので、どちらにしてもいつか、Amazonとしても儲かるという発想なんです。Netflixも同じく、Amazon Fire TVに協力的で、Amazonのデバイスでも良いから、Netflixも観てくださいという姿勢です。契約を一度やめても、わざわざデバイスを買い替えたりしないで済むようなスタイルなので、その方が結果的に長く使ってもらえる可能性が高いんですね。これは、競合という考え方自体が変化していることの現れだと思います。消費者もスマホなどで、複数のサービスを同時に利用するのが当たり前になってきたので、これからはおそらく、どれを並列で使用するかを選ぶ時代になっていくと思います。

──Netflixでオリジナルドラマを観て、Huluで最新のテレビドラマを観たりするわけですね。その辺りは音楽のストリーミングサービスと違う点かもしれません。音楽の場合は、ひとりのユーザーがひとつのサービスを選ぶ傾向がありますから。

西田:音楽の場合には、Google PlayでもApple Musicでも、あるいはAWAでも、同じ音楽がたくさん入っています。しかも、音楽は同じ作品を何度も聴くものなので、一度使ったサービスからほかのサービスに乗り換えるということはあまりしません。その分、ひとつのサービスを継続的に使ってもらえる可能性も、映像のそれに比べればずっと強いと言えます。でも映像については、どれかひとつのサービスということはなく、たとえば、アニメが少し好きな方はNetflixとdアニメストアとか、そういうふうに性質が違うものをパラレルで利用する、という感じになるでしょう。

──来年の2月から始まるGEOは、アダルトコンテンツを入れることを発表して話題となりましたが、そのインパクトはどれくらいでしょう。

西田:GEOのアダルトコンテンツについては、正直、それほど決定打にはならないんじゃないかと思います。そもそもアダルトコンテンツは、スマホやPCでこっそりと観るものになっていますし、DMMが圧倒的なシェアを誇っています。また、アダルトほど個人の嗜好に合わせてコンテンツのバリエーションを揃える必要があるものはないのですが、GEOのそれは月に50本なので、その本数でユーザーが魅力を感じるかというと、難しいところではないでしょうか。VHSの時代には、アダルトコンテンツがハードやサービスの普及を牽引したとも言われましたが、いまはそういう現象は起きないと思います。ただ、GEOやTSUTAYAはいわゆるマイルドヤンキー層に支持されている会社なので、その辺りの顧客は掴みやすいかもしれません。NetflixやAmazonはどちらかというとインフルエンサーが使用していますが、dTVはマイルドヤンキー層の支持が厚く、うまく棲み分けができているので、GEOやTSUTAYAを選択肢にいれる層も一定数はいるでしょうね。

──本書の中では、約470万人のユーザーを抱えるdTVのオリジナルコンテンツ施策が詳しく分析されています。

西田:dTVは携帯電話の契約時になんとなく契約したユーザーを、人気のある映画作品のスピンオフなどで、濃いコンテンツ消費の世界に誘うという戦略をとっています。Netflixなどがはじめから海外ドラマなどの濃いコンテンツで加入を促すのと違い、まずはサービスに入ってもらって、間口の広い作品から次第にマニアックな方向へ向ける、という考え方ですね。あの漫画のスピンオフとか、このドラマのスピンオフという作品の方が、イチからマーケティングする必要がなく、幅広い人々に訴えかけることができますし、テレビ局や東宝、東映などの映画会社と組んで、彼らのメインビジネスのプラスになる形でオリジナルコンテンツを作るのは、双方にとってメリットとなります。

関連記事