なぜ『ちいかわ』で人間関係を学ぶのか? 小学生から大人まで絶賛される実践的Q&A本の実力

 10月22日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で51位にランクインしていたのが、『ちいかわ お友だちとのつき合いかた』(KADOKAWA)である。タイトルの通り、ちいかわを題材に友人との付き合い方や対人関係のトラブルの解決方法を書いた、子供向けの書籍だ。

急増する「ちいかわ学習本」の実力

 それにしても最近のちいかわの関連書籍は多い。本書に関連してAmazon上に出てきたものだけでも「英単語」「ひらがな」「47都道府県・日本地理」「慣用句・故事成語」「四字熟語」「ことわざ」「英会話」「大人の心理テスト」「占い」などなど、知らないうちに凄まじい量の書籍が出版されている。この世にちいかわを通して学べないものは何もないのでは……と思わされる物量だ。特に子供向けの学習関連書籍でのちいかわ率はグイグイ上がり続けており、ちいかわのキッズ人気、とりわけ女児人気の高さを思い知らされるものがある。

 『ちいかわ お友だちとのつき合いかた』も、それに連なる一冊だ。初版は2024年3月と2年以上前だが、SNSを検索すると長期間にわたって話題になっており、一連のちいかわ関連本の中でも特に評判のいいものであることがわかる。今回自分も読んでみたのだが、確かにこれはよくできている……と思った。

 タイトルには「ちいかわ」とあるが、実のところ本書においてちいかわの存在は挿絵的なものであり、基本的にはちいかわたちの関係をキーに本と読者が対話するQ&A形式の内容となっている。4ページごとにひとつのテーマについて考えていく構成で、どこから読み進めてもOK。対象読者である小学生の間での人間関係の構築や、発生する可能性がある対人トラブルについて、ちいかわをフックに学ぶことができる。

 まず第一章では「友だちとは何か」「どうすれば友だちができるのか」という点からスタート。さらに友人とのコミュニケーションの取り方や、人間関係について悩んだときの自分の内面との向き合い方、友だちと自分の両方を大事にする方法など、「友だち」という概念から出発して広く人間関係構築・維持・トラブル回避について解説している。言葉遣いなどは小学生向けにわかりやすく書かれてはいるものの、これがなかなか、大人が読んでも「そうだよなあ」と思ってしまうような内容なのである。

 たとえば、「友だちというほどではない、同じクラスの知り合いと道でばったり会ったらどうするか」というトピックを扱う章では、「あいさつをする」「知らないふりをする」「話をする」「えしゃくをする」といった選択肢を用意。読者が選んだ選択肢に対して、それぞれ解説を加えている。「知らないふりをする」という人間関係構築に関してはややマイナスな選択肢を選んだ子供に対しても、「声をかけるのは勇気がいるよね」「声は出さなくてもいいから、軽く会釈をするだけでも相手は嬉しいはず」とその気持ちに寄り添い、さらに次のページでは「とりあえず笑顔でいれば、友だちじゃなくても心を開きやすくなるよ」とまとめる。

 大人になればなるほど、この単純なアドバイスが沁みるところがある。自分はフリーランスで仕事をしているのだが、結局のところ仕事につながるのは愛想だよな……と歳を重ねるごとにしみじみ実感することが多い。それに対して本書は、冒頭から「笑顔で挨拶する人のことを嫌いになる奴はいない」と教えてくれるのである。他のトピックに関しても、読者の気持ちに寄り添いつつ堅実な選択肢と解説と結論が用意されており、少なくともこの本を真面目に読んで書いてあることを素直に実行すれば、人から嫌われる可能性はガクッと減るだろうな……と思わされるものがある。そこまで親しくない知り合いとばったり会うのを、ついめんどくさがってしまう自分にとっては、耳がいたいところも……。さすが学校心理学や障害児教育の専門家である、加藤裕美子氏が監修しているだけのことはある。

子どもだけでなく大人の心も救う「ちいかわ」

ナガノ(イラスト)、加藤裕美子(監修)『ちいかわ お友だちとのつき合いかた』(KADOKAWA)

 もうひとつ感じるのは、どのような題材の入口にもなれる「ちいかわ」というコンテンツの偉大さだ。本書は別にちいかわたちが活躍したり酷い目に遭ったりするストーリーがあるわけでもなく、これまで描かれてきた作品内から引用されたイラストが、そのページで扱っているテーマに合わせて随所に散らばっているだけである。ただ、なんとなくイラストを見ているだけでも「この話題をちいかわに引き付けて考えたらどうなるかな……」と連想してしまうところがあり、これにはちいかわの作品世界の広がり、そして単にかわいいだけではなく、ちょっとダークな設定や気まずい状況も扱うという作品内容が関連している。「たとえ友だちと意見が違っても、気まずさを引きずらずにまずは話し合ってみよう」みたいなけっこう複雑な状況にも、ちいかわやハチワレのキャラクター性が噛み合うのである。

 女児にも幅広い人気を得つつ、噂話や意見の食い違い、言葉遣いのマナーやトラブル時の謝罪など、人間関係に関する複雑なあれこれを引き付けて考えられるキャラクターというのは、それほど存在しないのではないか。そう考えると、「ちいかわを通して友だち付き合いを学べる本を出そう!」という発想もかなり妥当な気がしてくる。もちろんちいかわ人気に乗っかっているという側面もなくはないが、それだけではないんじゃないか……と思わせるものがあるのだ。

 「けっこう複雑な題材でも、子供がそれを学ぶための入口になれる」という点は、ちいかわのすごいところのひとつ。それを万全に生かした本書は、人間関係のトラブルも増えてくる小学生には効き目が抜群だろう。また大人が読んでも、人間関係構築の原点に立ち返れる内容でもある。年齢問わず、「なんだか人付き合いってめんどくさいな……」と思っている人に読んでほしい一冊だ。

■書誌情報
『ちいかわ お友だちとのつき合いかた』
イラスト:ナガノ
監修:加藤裕美子
価格:1,210円
発売日:2024年3月13日
出版社:KADOKAWA

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