『キングダム』李信はなぜ覚醒した? 馬陽から朱海平原まで、進化につながった名勝負3選

※本稿は『キングダム』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

 中国の春秋戦国時代を舞台に描かれた人気漫画『キングダム』。本作は、主人公の信(李信)が幼少期から掲げている夢「天下の大将軍」を目指し、各国の強敵と激闘を繰り広げていく物語だ。

 信は最新刊にて、1万人規模の軍を率いることができる将軍に昇格しているが、最初は何の後ろ盾もない「下僕」という身分であった。また『キングダム』においては、兵士が将軍になるまでに伍長、什長、百人将、三百人将、千人将、三千人将、四千人将、五千人将、将軍……と序列があるため、戦場に出てからも長い道のりであることがわかる。本稿では、そんな信の昇格や進化に繋がった戦いを3つ紹介したい。

馬陽の戦い

 まずひとつ目が馬陽での戦いだ。この戦では、信が将としての初陣でありながらも、元六代将軍の王騎から『飛信隊』の名、将軍の心得、妖刀や名刀と揶揄される矛を与えられるエピソードがある。

 しかし王騎は、趙の李牧の策略と龐煖により戦死。信にとって憧れであり目指すべき理想像として掲げた者の死に、信が何かを決意した描写が描かれている。最新刊においても、信は「王騎将軍なら」と考えているシーンが多い。

 またこの戦いの中で、古参の尾平の弟である尾到が討ち死にした。仲間を死なせてしまった重責や将としての働きなど、多くの経験をしたこの戦いは、今の飛信隊の原点になったと言えるだろう。

黒羊丘の戦い

 黒羊丘の戦いについても紹介したい。この戦いの前に信は、函谷関・蕞城防衛戦や、魏国侵攻の著雍の戦い、毐国襲撃を経て、微かな違和感や勝機を肌で感じ取る本能型としての目覚めや、五千人将への昇格を果たした。上途の戦いでも信は大きな成長を見せている。しかし、あえて黒羊丘の戦いを挙げたのは、信と飛信隊の精神的成長が理由だ。

 飛信隊は結成された当初から略奪や陵辱といった行動を禁止していたが、黒羊丘の戦いでは、尾平が趙の民間人のブレスレットを拾ったことで、信の怒りをかってしまうシーンがある。信は「ガキ二人で胸高鳴らせた誰より強くてかっこいい天下の大将軍に…俺は本気でそういう将軍になりたいと思ってる。そして、飛信隊もそういう隊でありたいと思ってる」と静かに語っており、飛信隊では人間性も求めていることがよくわかる。

 この出来事をきっかけに、尾平はあらためて信についていくことを決心し、飛信隊へ再加入。また信の話を聞いていた隊員たちも、禁止していたルールの真意を知り飛信隊と信はより強い結束を見せた。信と飛信隊が改めて決意したシーンは、読者の心にも何らかの影響を与えたはずだ。

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