This is LASTが日本武道館へ忘れずに連れて行った“あの日の感覚” 今を生き、未来へ向かうバンドの通過点
This is LASTが初めての日本武道館公演『This is LAST one man live at 日本武道館 "通過点"』を10月15日に開催した。
菊池陽報(Vo/Gt)の恋愛を、ありのまま歌にしてきたThis is LAST。そんな個人的な歌を、リスナーは自身の恋愛や思い出と重ね、“自分の歌”として生活の隣に置き、一緒に歌ってきた。だからこそ、この日を待ちわびていたのはバンドだけではない。当日に向けて、SNSには「いよいよだ」「おめでとう」というファンの声があふれていた。ステージに立つのはバンドだが、ファンもまた自分ごととしてこの日を待ち、喜び、武道館へと足を運んだのだろう。会場のあちこちで、ロゴ入りのグッズを手に記念撮影をする姿が見られた。大好きなバンドの節目は、その音楽とともに暮らし、成長してきたファンにとっても大切な一日だったのだ。チケットは注釈付指定席に至るまで完売。満員の場内は、開演前から大きな期待に包まれていた。
ステージに派手な装飾などはなく、3ピースのバンドセットのみ。そこに菊池、鹿又輝直(Dr)とサポートベーシストの芳井雅人がゆっくりと歩いてやってくる。どことなく緊張感が漂うなか、3人が向かい合って大きく一音を鳴らすと同時に菊池が「武道館!」と声を上げる。ステージ両サイドの縦型スクリーンが点き、お馴染みのバンドサウンドが走り出す。「恋愛凡人は踊らない」で、初めての日本武道館公演の幕が開いた。張り詰めていた空気は一瞬で解け、ステージにも客席にもいつものThis is LASTの温度が満ちていく。菊池が煽れば、1曲目ながら大きな歌声が場内に広がった。
活動初期からの人気曲で始まったライブは、彼らの意識がリスナーへと向き始めた頃の「もういいの?」、ドラマ主題歌の「沼超えて湖」「火の花」へ。バンドの歴史をたどるように、さまざまな時期の楽曲が次々と鳴らされていく。どの曲でもリスナーは笑顔で体を揺らし、手を打ち鳴らした。
キャッチーな楽曲で場内があたたまったところで、菊池がひとつ息を吐く。始まったのは「ベイビー」だ。ここまでは音や歌詞世界を客席とシェアしていたが、バラードになった途端、世界は“僕と君”だけになる。ともに歌い、手拍子を重ねていたリスナーも、ただじっと彼らの音に耳を澄ませた。菊池は『通過点』というタイトルについて、「ここを通過して、その先に行きたいなという、俺たちの……”願い”というより、“計画”の気持ちを込めてつけました」と明かす。「今日は俺たちも記念日みたいなものでもあるなと思いつつ、『This is LASTってこんなバンドだぜ』っていう過去みたいなものも伝わったらいいと思うし、その先の未来が見えるようにしたいと思う。でも、何よりも今生きているThis is LASTを見せられたらいいなと思います」と、この日に懸ける思いを口にした。
そこから届けられたのは、彼らの真骨頂とも言えるバラードの数々だ。菊池と鹿又のハーモニーが惹きつけた「Strawberry」、スポットライトを浴びた菊池が歌い始めた「結び」、鍵盤やストリングスの音色が壮大に彩った「アイリス」。このブロックの最後に届けられたのは、This is LASTの名を一気に広めた「#情とは」。〈六畳一間の部屋の隅〉での思いを綴った失恋曲が、日本武道館という大きな会場に響きわたっていった。
2018年に結成されたThis is LAST。当初はメタルコアやパンクを鳴らすバンドだったが、ソングライターの菊池が当時の恋人に浮気された経験を「殺文句」として曲にしたことですべてが変わった。菊池は彼女との思い出が詰まった左耳にピアスをしなくなり、その理由を「左耳にピアスをしない理由」という曲に込めた。ピアスをしないかわりに、その曲を演奏し続けてきたのだ。しかし、バンドを続けるなかで人と出会い、街と出会い、いつしか胸に空いた穴が少しずつ埋まっていくのを感じるようになる。「もしかしたら俺の作る歌が、恋愛でなくても、同じように寂しいとか悔しいという思いをしている人の支えになるんじゃないかとか思い始めちゃったりして」。そう言って、菊池は笑う。「それと同時に心が埋まった気がしたから、俺は左耳にピアスをしたし、『左耳にピアスをしない理由』という曲を封印したんだけど……今日は特別にやっていいですか? あの日の感覚のまま、自分のためだけに歌います」――。こうして「左耳にピアスをしない理由」が数年ぶりに鳴らされた。真っ赤に染まったステージで、菊池が〈秋の夜長 君と歩く〉と歌い出す。この日が気持ちのいい秋晴れだったことさえ偶然とは思えなくなるほど、伏線が回収されていく。菊池の心の穴を埋めてきたリスナーが、今、武道館の客席を埋め尽くしている。その歌声に、鹿又のドラムが寄り添う。曲の終わり、菊池の横顔がビジョンに大きく映し出された。その左耳には、ピアスが揺れていた。そして、“あの日の感覚のまま”、バンドは初の全国流通盤の1曲目を飾った「愛憎」へとなだれ込んだ。
「恩を返したいからこそ、最低でも武道館をやってからじゃないと帰れないと思っていた」という地元・柏でのライブ『This is LAST one man live " Homecoming " at Live House DOMe Kashiwa』が告知されると、場内に晴れやかな空気が広がる。〈ずっと君のままでいい〉と歌う「ヨーソロー」。黄色い照明がまぶしく彩った「向日葵」が、会場をさらに明るく染めていく。「Any」ではギターを置いた菊池がハンドマイクで、一人ひとりの顔を確かめるように客席を見てまわったかと思えば、鹿又の後ろに行って彼の靴を見つけ、なぜかカメラに向けて見せたりと、幸せそうにステージを動きまわる。客席から大きなシンガロングを受け取ると、「宝物です」と笑顔を見せた。「不器用なままでもやっていけるように」とおまじないのようにつぶやいてから始まった「シェイプシフター」では、菊池が噛みしめるようにサビを弾き語る。テレビドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた曲だが、〈手で触れた現実と/思い描いてた理想図が/遠すぎても手遅れなんてない/そう思えたらな〉という歌詞は、この日終始「すげえ!」「どこを見たらいいのかわからない」と武道館に立つ喜びに声を弾ませていた彼ら自身の姿にも重なる。〈目に見えない彩りはきっと君自身なんだ〉と歌うラストのサビで青い銀紙が放たれ、きらきらと場内を舞った。
ここからのMCで、菊池の思いがあふれ出す。「15(歳)でギターを始めてさ」と切り出した彼は、「いろいろありすぎて何から話していいかもわからないくらい」と言葉を探しながら、「あの日、失恋していなかったら、俺たちはまだ柏でメタルコアをやっていたんだと思うし、あなたに出会うこともなかったんだろうなと思います」と口にする。解散の話が持ち上がったこと。路頭に迷っていた自分たちを、今のマネージャーが見つけてくれたこと。そして芳井との出会い。一つひとつをたどるうちに、こらえきれず涙がこぼれた。
武道館にたどり着いてなお、不安は消えていなかったという。この舞台に立つにあたって、どんな自分でいればいいのかわからなくなっていた時、ある人がかけてくれた、「それが君じゃん」という言葉。「俺よりも武道館にふさわしい人がたくさんいると思うんです」とこぼした菊池に、マネージャーが返した「本気で言ってる? 私は立つべき人が立つ場所だと思うよ」という言葉。それらに支えられたのだと赤裸々に明かしていく。鹿又についても「俺はひとりでぐるぐるするタイプ。すげえ引きずるタイプで、てる(鹿又)はそんなことない。バランスいいよね」と語り、まわりの人たちへの感謝をにじませる。時折スクリーンに映る鹿又の目も潤んでいた。
菊池は「最初に言いたかったんだけど、俺ら一緒にライブしているんだからな。俺ら3人だけにさせないでくれよ。これが武道館になろうが、アリーナになろうが、どこまでデカくなろうが、俺たちは一緒にライブしてるんだよ」「一緒にここを通過点にして先に行かないか?」とファンへあらためて言葉を贈る。「ディアマイ」でライブを再開させると、「武道館は俺ひとりじゃ、この3人だけじゃ闘えないんだ。声、かしてくれるかい?」とファンの声と一緒にラストスパートへ。「マジ、ガチの大合唱を頼むわ!」とお願いしてから始まった「カスミソウ」では、菊池が〈ありがとうね〉とサビの一節を歌い出しただけで、その続きをファンが引き受けていく。立ち上がった鹿又がその光景を見つめ、菊池も「ヤバすぎ」と顔をほころばせる。イントロを終えたあとのAメロも、菊池は歌わずにそのほとんどをファンに託してしまうほど。まさに、ファンと一緒にライブをしている。そんな本編ラストを飾ったのは「オムライス」。合言葉のようなクラップが武道館に響きわたり、場内は晴れやかな余韻に包まれた。
アンコールでは、これまでの活動の写真がスクリーンに映し出されるなか「拝啓、最低な君へ」を届けた。そして最後に置かれたのは、This is LASTの始まりの曲「殺文句」。すべてが始まった歌で、バンドは“通過点”を日本武道館に打ったのだった。