大森靖子はなぜ47都道府県を巡ったのか 旅の終着点=LINE CUBE SHIBUYA公演で提示した答え

 2026年3月20日から、大森靖子による『大森靖子のライブに行くと幸せになれる47都道府県ツアー「PUNKTUARY 2026」』が開催され、10月7日のLINE CUBE SHIBUYAをもって全国47都道府県をめぐるツアーが完遂された。大森による47都道府県ツアーは、2019年に続いて2回目だが、この7年で大きな変化があった。それは、大森の楽曲がTikTokで次々とバズったことで、10代から20代前半にかけての女性ファンが急増したことだ。今年の47都道府県ツアーは大半がソールドアウトし、ツアーファイナルのLINE CUBE SHIBUYA公演も完売となった。

 その47都道府県ツアーの最中である7月18日には、大森がXで「え、やばい武道館単独、やっぱこの人生で死ぬほどやりたいかも」と日本武道館公演を目指すことを宣言。大森は、現在のライブスタッフの体制で日本武道館へ行きたいと考えているのだろう。2025年にエイベックスとの契約が終了すると決まった際、大森が最初に考えたのは、ライブのスタッフを変えたくないということだったという。それほどまでに大森のライブに賭ける想いは強く、ライブアーティストとしての大森も47都道府県ツアーを通して強靭になっていった。私は今回の47都道府県ツアーのうち、高知県、栃木県、神奈川県、宮城県、東京都での5公演のチケットを買って見たが、大森靖子というアーティストは現在、特筆すべき先鋭性と表現力と包容力をあわせもっていると断言できる。

 さらに、やはり47都道府県ツアー中の8月26日には、10枚目のアルバム『BABY! PINK! MUSIC!』もリリースされた。その収録曲の一部は、リリース前から47都道府県ツアーで披露され、ツアーとともに育ってきた。とはいえ、ZOCXのプロデューサー兼メンバー、MAPAやTHE PINK MINDS、絶対少女のプロデューサー、Zavageの音楽プロデューサーという活動量を考えれば、驚異的なほどのバイタリティーだ。

 そして、10月7日にLINE CUBE SHIBUYAに着いてみると、ステージ上には『BABY! PINK! MUSIC!』のジャケットに使用された、うねるオブジェが置かれていた。そこに、大森が道重さゆみのために作詞した「OK!生きまくっちゃえ」が流され、会場に「せいこ」コールが響くなか、その終盤で大森がステージに登場した。「ミッドナイト清純異性交遊」では、ファンのピンクのペンライトの輝きが大森に捧げられる。大森を支える四天王バンドのメンバーは、キーボードのsugarbeans、ギターの設楽博臣、ベースの千ヶ崎学、ドラムの張替智広、コーラスなどの宇城茉世(MAPA)だ。「ミッドナイト清純異性交遊」では、張替以外の全員がジャンプしながら演奏するシーンもあった。「子供じゃないもん17」では、四天王バンドならではの極上のシャッフルビートが鳴る。「非国民的ヒーロー」の冒頭では照明が大胆に変化していき、その後も照明は大森の世界を表現していった。

 「南無阿弥かみさま」では、ZOCXの荼緒あいみと、THE PINK MINDSの東出つ輝がダンサーとして登場。荼緒はハッピ姿だ。「大森靖子はいいぞ音頭」では、大森が鉦を鳴らし、荼緒と東出は「大森靖子はいいぞ」と書かれた旗を振った。「大森神社」では、大森がファンに大麻(おおぬさ)を振って穢れを祓っていく。

 大森はMCで、47都道府県ツアーを通してそれぞれの地元の呪いを解き、その土地で生きていけるようにしたかった、という主旨のことを話した。大森自身の出身地は愛媛県。中学、鉄工場、神輿などの思い出を語っていき、地元を受け入れられたことで生まれたという「姫まどんな」へ。大森のボーカルの高音と、宇城のコーラスが冴えわたった。大森は地元で神輿を担ぎたかったと振り返っていたが、「姫まどんな」には「お神輿担ぎたいな」という歌詞が出てくるのだ。

 疾走感に満ちた「TOBUTORI」では、ファンの「せいこー!」という声が会場に響く。MCになると、設楽の母親が行きたがっている場所はどこかというクイズが出され、「超天獄」の冒頭で「東京」が正解だと明かされた。「超天獄」での四天王バンドの演奏には、ニューオリンズの香りがし、贅沢なグルーヴを堪能させる。また最近、TikTokで「超天獄」に合わせて女の子たちが回転する動画がミーム化しているため、大森と宇城も回転してみせた。

 47都道府県ツアーで不思議な育ち方をしたのは「桃色団地」だ。LINE CUBE SHIBUYAでは、ステージ上の全員がサングラスを着用。千ヶ崎以外のメンバーは、冒頭でステージ上に横一列に並ぶのだ。大森のためのお立ち台に千ヶ崎が乗ってベースを弾いた瞬間、背後からのライトで後光が差すという演出もあった。

 インディーズ時代から歌われてきた「新宿」は、『BABY! PINK! MUSIC!』で「新宿2026」として再録され、現在の新宿歌舞伎町を描写することになった。大久保公園から描かれていき、〈TikTokみたいなXみたいな/Youtubeショートなうた〉と歌われているのだから。この日の「新宿2026」は、設楽のギターノイズと、大森のポエトリーで幕を開け、ジャズファンクのようになった演奏が白熱と混沌を生んだ。やはりインディーズ時代から歌われてきた「パーティードレス」は、大森のアコースティックギターによる弾き語りで、大森とオブジェがライトアップされた。

 「君んチ」では、「死」という言葉が歌詞の随所に出てくる。〈でも世界は馬鹿だから/ここだ見てろよって赤く染まるんだ〉という歌詞の通り、オブジェが赤く発光した。その「君んチ」の終盤で、突然、ステージ上のバックドロップが落ちた。そして現れたのは別のバックドロップ。それは、2018年の大森の中野サンプラザ公演のために、絵描きの青柳カヲルが描いた魔法陣だった。青柳は、2020年にこの世を去っている。そこから「死神」へと続いた瞬間、大森の胎内に飲み込まれたかのような感覚に襲われた。真っ赤なライトが、大森とオブジェを照らしだす。

 さらに「TOKYO BLACK HOLE」が始まったとき、「東京だ」と感じた。今回の47都道府県ツアーでは、大森が各地のご当地ソングをXで募っていたが、東京公演ではそれがなく、「TOKYO BLACK HOLE」がセットリストに加えられていた。大森もアコースティックギターを弾き、そのサウンドは妖艶ですらあった。

 「BABY PINK MUSIC」という歌詞が出てくる「LAST GIRL DUST」は、『BABY! PINK! MUSIC!』の実質的なタイトルナンバーだ。大森が自身について歌う、あるいはそう感じさせる、シンガーソングライター性が高い楽曲。「夢はもういいクソだ死ね」と繰り返すパートを、大森はファンに歌わせた。本編の最後となった「PUNKTUARY」は、大森の現在の活動姿勢を示した楽曲だ。大森のパーソナルな側面を歌うと同時に、時代を鋭く射抜く。ファンの「せいこー!」という声を浴びながら、本編は終了した。

 ファンの「せいこが一番かわいいよ」というコールが会場を包むと、大森と四天王バンドが再登場。「絶対彼女」の冒頭では、Zeppツーマンツアーの開催と「PUNKTUARY」のMV公開が告知された。「絶対彼女」には、さまざまな属性を指定してサビを歌わせるというパートがある。この日は「少女」「ヤリマン」「おっさん」などと続いた。少女とヤリマンの前では、おっさんは明らかに多勢に無勢だった。「最後のTATTOO」で、大森は「名前を呼んでくれ」とファンに呼びかけ、「せいこー!」という声が会場に満ちた。

 47都道府県ツアーでは、「さみしいおさんぽ」をファンが歌っている間に、大森が客席を歩いていったが、まさかLINE CUBE SHIBUYAの規模でも客席に降りていくとは思わなかった。

 MCで大森は、「大森靖子のライブに行くと幸せになれる」と題されたツアーで一番幸せだったのは自分だと語り、ファンに「音楽の友達」なのだからいなくならないでほしいと呼びかけた。

 そして、アンコールの最後は「さようなら」。最後の最後にふさわしい楽曲だ。大森はステージ上にただひとり残り、アカペラで歌いあげ、47都道府県ツアーの幕を閉じた。旅の終わりである。

 前述のように、私は今回の47都道府県ツアーでは、高知県、栃木県、神奈川県、宮城県、東京都での5公演を見た。どこの会場に行っても、大森を初めて見るであろう若いファンの爛々とした目の輝きに出会った。特に初日である3月20日の高知公演では、すぐ近くの女の子がライブ中に号泣していた。他の会場では、オープニングの「OK!生きまくっちゃえ」が流れている段階で泣いている人もいた。47都道府県ツアーでは、スマートフォンで見ていた大森が、目の前に現れたことに感動していたファンが多かったに違いない。それこそが、大森が全国各地のファンに会いに行った理由なのだろう。大森の音楽に生きる望みを託しているファンもいるだろうし、それは当の大森が誰よりも知っている。『大森靖子のライブに行くと幸せになれる47都道府県ツアー「PUNKTUARY 2026」』は、それぞれの生を肯定していく旅でもあった。

 大森のライブは、ポップな「ミッドナイト清純異性交遊」でスタートし、TikTokでバズった「子供じゃないもん17」を歌っても、いつのまにか「死神」などのディープな楽曲群へと流れ込んでいく。その振れ幅があること、そして大森の芯が初期から一切ブレていないことが、47都道府県ツアーに鮮烈な印象を残した。血が流れている音楽、痛みを知っている音楽は、バズぐらいで消費されないことを大森は証明し続けたのだ。それが、まだ見ぬ未来にさらなる大きな流れを生みだしていくはずだ。そう確信している。

<セトリプレイリスト>
https://open.spotify.com/playlist/0JX7QVxSaA4ZJ0vAy9yxOe?si=M7p5CUvhSJuWufRuESR_UA

<ライブ配信アーカイブ>
10月31日21時まで
https://qlover.jp/qlover-special-live/video/smKrA8xKP7qCzh49bzQ2GVgi

アルバム『BABY! PINK! MUSIC!』
ストリーミング&DL
https://friendship.lnk.to/BABYPINKMUSIC_SO

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