稲垣吾郎&草彅剛&香取慎吾、“人ならざる存在”を演じても心を感じる理由とは? 3人の軌跡が役に与える信頼という魔法
稲垣吾郎が、2027年2月に上演されるウィリアム・シェイクスピアの戯曲『テンペスト』で、エアリエルを演じることが発表された。稲垣が「エアリエルという不思議な存在をどのように演じられるのか、今から楽しみです」(※1)とコメントしているように、今回彼が扮するのは人間ではなく、空気の精だ。
#稲垣吾郎
シェイクスピアのロマンス劇
『テンペスト』に出演決定!東京、富山、大阪にて上演されます
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— 新しい地図 (@atarashiichizu) October 12, 2026
大気を操って天候を変えたり、人に幻覚を見せたりすることができるエアリエル。タイトルの『テンペスト』が“嵐”を意味する通り、エアリエルが命を受けて嵐を巻き起こすことで、ストーリーは大きく動き出す。そんな物語の鍵を握るこの人ならざる存在に、稲垣がどんな息吹を与えるのだろうか。
これまでも、そのミステリアスな雰囲気を活かし、人間離れした人物を演じてきた稲垣。2023年の『幽☆遊☆白書』(Netflix)で演じた左京も、冷酷で底知れない人物ながら、あくまで人間だった。では、実際に人ならざる存在を演じた作品はというと、意外な一作が浮かび上がる。それが1992年のミュージカル『ドラゴンクエスト』だ。
興味深いのが、その作品の主演を務めたのはSMAPで、勇者・アレルを除くキャラクターがみんな、実は魔物という設定だったこと。ともに新しい地図を広げて活動している草彅剛、香取慎吾も、それぞれアトラス、キングレオを演じたのだ。1992年といえば、まだ彼らが俳優としてのキャリアを歩み出したばかり。それでも当時の公演パンフレットには、稲垣がメンバーのなかでは冷静な性格である自分と、魔物・ベリアルの共通点を見出す発言が残されていた。
しかも、この物語は単純な勧善懲悪では割り切れない。人間=“善”、魔物=“悪”とは言い切れない世界で、3人は人ならざるものを演じていた。若き日のこの経験は、その後の3人が人間ではない存在を演じてきた歩みとも、不思議と重なって見える。
3人のなかでも、人間ではないキャラクターを数多く演じてきた印象が強いのが香取だ。1994年放送のアニメ『赤ずきんチャチャ』(テレビ東京系)では狼男の少年・リーヤの声を務め、2006年のドラマ『西遊記』(フジテレビ系)では孫悟空を、2011年のアニメーション映画『friends もののけ島のナキ』では赤鬼・ナキをそれぞれ演じてきた。
このキャラクターたちにどこか共通しているのは、その破天荒さ。なかでも孫悟空やナキは、人間の常識では計り知れない力を持ち、ともすれば恐ろしささえ感じさせる存在でもある。しかし、その荒々しさの奥には、寂しさや優しさが見え隠れする。香取の演技は、手に負えないほどの奔放さを無邪気さに、不器用さを愛嬌に変え、その存在を親しみやすく愛おしいものとして、人間である私たち観客とつなぐ橋をかけてきたともいえる。
それは、2026年10月から放映されているカオナビのCMで、働く人々の意思決定に寄り添うAIエージェント・KTiの擬人化キャラクターを演じていることにも続いている。「まさか自分が“AI役”を演じられるとは」(※2)と本人も驚きを語っているが、AIもまた現代の日常に溶け込みながらも、どこか私たちのこれまでの常識では計り知れない力を持つ存在として警戒している部分がある。その期待と不安が入り混じる未知の技術に、香取の見慣れた笑顔が与えられることで、一気に“味方”となってくれる心強さに変わる感覚。それは、長年アイドルとして大衆に愛されてきたからこそ生まれる説得力でもありそうだ。
草彅もまた、人間とは異なる存在の内側にある“心の声”を表現してきた。2005年の映画『ロボッツ』では発明家を夢見る青年ロボット・ロドニーを、2018年日本公開の映画『ムタフカズ -MUTAFUKAZ-』では地球外種族の血が流れる青年・アンジェリーノの声をそれぞれ演じた。無機質な金属の体を持つロドニーや、真っ黒で目だけがハッキリと見えるアンジェリーノに対して、「私たちとは違う生物」という印象を抱かずにはいられない。実際、『ムタフカズ -MUTAFUKAZ-』の監督を務めた西見祥示郎は、そのキャラクターの見た目と彼らが受ける理不尽な境遇について、人間社会にいたらマイノリティになるだろうという発想から意図的に演出したと語っていた(※3)。
そんな一線を引きがちな外見を持つキャラクターの口から草彅の声が聞こえてくると、その内側に切実な願いがあるはずだと思わずにはいられないから不思議だ。自分とは異なる他者に対しても、自分と同じ心があり、その声を聞こうと耳を傾けたくなる力がある。
また、『ムタフカズ -MUTAFUKAZ-』について語ったインタビューで草彅は、アンジェリーノと仲間たちの関係を踏まえて稲垣と香取について尋ねられると、役の感情を引っ張り出すときに「二人とのことを思い出すことはありました」(※4)と明かす。続けて、「30年も苦楽を共にすると、やっぱり特別な感情が芽生えるんですよね」とも。人間ではない存在の感情を表現するうえで、手がかりになっていたのは人との関わり。それも30年以上、ともに歩んできた仲間との関係性だったというのも、考えさせられるものがある。
彼らが人ならざる存在を演じるときには、演技力に加えて、長年にわたって大衆とのあいだに育んできた親しみや信頼も力になっているのではないか。よく知る彼らの声や表情だからこそ、恐ろしい鬼や心の読めないロボットに対しても、その内側に心があると信じ、その内面に触れたくなる。彼らへの愛情が、未知の存在を理解しようとするきっかけになり、その先は演技によって、キャラクター自身への共感へと変わっていくようだ。
稲垣が演じるエアリエルは、魔女に幽閉されていたところを主人公・プロスペロー(野村萬斎)に助けられ、今は彼に仕える身。日々、命令を忠実にこなすものの、いつか自由な身になりたいと願っているという。
かつて魔物・ベリアルのなかに自分との共通点を見つけていた稲垣が、今度は大きな力を持ちながらも、自らの自由を手にできない精霊を演じる。そこには、稲垣自身が歩んできた時間も滲むかもしれない。人間ではない存在を演じることで見えてくる、人間の心。その新たな表現に期待したい。
※1:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/27_tempest.html
※2:https://corp.kaonavi.jp/news/pr_20261001-2/
※3:https://www.cinra.net/article/interview-201810-mutafukaz
※4:https://www.cinematoday.jp/interview/A0006286