歌声分析 Vol.25:吉川晃司 独特な発音とリズムと艶を増した中低音、“一音単位”で磨き続ける歌唱術

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 第25回目は、吉川晃司を取り上げたい。

言葉を崩してグルーヴに変える――初期から貫く独特な発音とリズム

 1984年に、自身が主演した映画『すかんぴんウォーク』の主題歌「モニカ」で鮮烈なデビューを飾った吉川晃司。1988年には布袋寅泰とCOMPLEXを結成し、日本のロックシーンに大きな足跡を残した。一方で、俳優としても数多くの映画やドラマに出演し、幅広い世代に愛されている。

吉川晃司『KIKKAWA KOJI Premium Night 2023 “Guys and Dolls”』ダイジェスト映像第2弾

 吉川の歌声を特徴づけているもののひとつが、独特な発音とリズムの取り方だ。言葉が持つ本来の語感やリズムを、1曲の中で意図的に変化させ続けることで、メロディそのものに独自のグルーヴを生み出しているのである。さらに、活動の中でミュージカルに挑戦したことも発声方法に変化をもたらし、中低音域やロングトーンが広がるようになったのも、大きな特徴だろう。

 いくつかの楽曲をピックアップしながら、吉川晃司の歌声の真相を探っていきたい。

 まず「サヨナラは八月のララバイ」(1984年)を取り上げる。吉川はこの曲で、言葉を崩し、語頭や語尾を曖昧にすることで、言葉そのものを“音”として響かせている。その結果、通常の日本語の発音では生まれにくいアクセントや、発声の前後に揺れるような独特のノリが生まれる。特に促音を思わせる“詰まり”や“タメ”の使い方に工夫を凝らしており、サビ終わりの〈サヨナラは八月のララバイ〉というフレーズでは、〈サ〉の前、そして〈は〉の後ろに、意識的に促音に近いニュアンスを足しているように聴こえる。

サヨナラは八月のララバイ

 吉川の低音域から中音域にかけての魅力の片鱗が見えるのが、COMPLEXの「BE MY BABY」(1989年)だ。フレーズのループを軸に据えたダンスチューンという楽曲の特性上、最初から淡々としたメロディが続き、短いフレーズの繰り返しで構成されているため、歌唱で表情をつけるのが非常に難しい1曲だ。その中で吉川は、冒頭の〈愛しているのさ 狂おしいほど〉の〈狂〉(くる)を強く発音し、フラットになりがちなメロディに起伏を作っている。このパターンをフレーズごとに取り入れ、独特なフックを生み出すことで、メロディに緩急を加えている。

Be My Baby

 「KISSに撃たれて眠りたい」(1993年)は、メロディアスなミディアムアップチューン。ここで際立つのは、発音の崩し方と声の質感を組み合わせることで生まれる独特の色気だ。冒頭の〈もっと〉で、先述した促音の使い方にもバリエーションを見せる。通常は独立した音として発音されない“っ”の部分を、あえて“tu”に近い音として響かせている。さらに、この時期から中低音域も広がりを見せるようになり、1曲の中で歌声の質感を変えながら歌っていくのも特徴だ。Bメロの〈好きにやれる一瞬があればそれでいい〉では、前半はリズムをメインに、後半では伸ばす音をメインに据えているのも面白い。アタックを強めれば攻撃的な印象になり、語尾を引き延ばせば余韻や艶が生まれる。その対比がフレーズの中で繰り返されることによって、歌声自体が楽曲に緊張と緩和をもたらしている。

Kiss ni Utarete Nemuritai

 「The Gundogs」(2002年)は、ガレージロックにも通ずるエモーショナルなアップチューン。冒頭の〈ヤツらに喰いつけ〉というフレーズの後に「a han han」と、歌詞にはない声を加えてグルーヴを作り出し、その後の〈ブロックひとつでルールも違うぜ〉では、言葉そのものを半ば弱音(じゃくおん)化することで、さらにドライブ感をプラスしている。次のブロックにも同様のアプローチが見られる。

The Gundogs

 ここで注目したいのは、声の圧力とリズムの関係だ。すべての声を同じ強さで押し出すのではなく、声の強弱によって歌声の中に起伏を作ることで、楽曲の持つ疾走感と重量感を両立させている。また、短く切る音と長く伸ばす音を明確に対比させることで、吉川の歌唱にオリジナリティが生まれている。

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