SUPER BEAVER 渋谷龍太、ハルカミライ 橋本学、SIX LOUNGE ヤマグチユウモリ……屈指の歌声を持つボーカリストたち

 8月に京セラドーム大阪公演を成功させ、9月22日、23日には東京ドーム公演2DAYSを控えているSUPER BEAVER。ライブハウス出身の彼らが、ドームでワンマンライブを開催するまでに至った要因の一つは、人々の心をつかむフロントマンの歌声と、そこに乗せられた言葉の力があるだろう。

 そこで本稿では、SUPER BEAVERをはじめ、ハルカミライ、SIX LOUNGEという、キャリアを更新する大規模公演へ歩みを進めている3組のロックバンドに注目。リアルサウンドで連載「歌声分析」を執筆しているライターの伊藤亜希氏に、3組のボーカルが持つ魅力を掘り下げてもらった。(編集部)

ライブハウスから大舞台へ バンドの歩みを支える3人のボーカリストの歌唱力

 ロックバンドのボーカルには、独特の“強さ”が必要である。

 それは、発音の明瞭さや声量、ピッチの安定感に加え、バンドサウンドを突き抜け、言葉を届けられる力を備えた歌声である。その歌声が聴き手の心を動かし、ライブへと足を運ばせる。そこで目の当たりにした歌声は熱量を伴って観客の記憶に残り、その積み重ねが動員規模を広げ、新たなステージへバンドを導いていく。

 ライブハウスから大きなステージへ歩みを進めたロックバンドは数多くいるが、本稿ではSIX LOUNGE、ハルカミライ、SUPER BEAVERをピックアップし、改めてその魅力について考察していきたい。まず3組に共通するのは、ライブハウスで積み重ねた熱量を、そのまま大きな会場まで運んできたことだ。そして、その歩みを支えた要因の一つに、3人のボーカリストの歌声があるだろう。

SIX LOUNGE・ヤマグチユウモリ

 まず取り上げたいのは、SIX LOUNGEのヤマグチユウモリ(Gt/Vo)だ。2012年に大分県で結成されたSIX LOUNGEは、全国のライブハウスを中心に支持を拡大。SIX LOUNGEは「君が眩しいから僕は星が見えない」がSNSを中心に再注目を集め、Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」で首位を獲得したことも記憶に新しい。2027年2月には初の日本武道館公演も決定し、バンドは新たな節目を迎えようとしている。

 2024年にリリースされた「君が眩しいから僕は星が見えない」は、アコースティックギターの弾き語りから始まるミディアムチューン。一音目から強烈な存在感を放つヤマグチの歌い出しに、まず耳を奪われる。乾いたかすれをまとった歌声は独特の色気を生み出しながら、言葉の輪郭を驚くほど鮮明に浮かび上がらせる。語尾まで芯を保ったまま伸びる歌声は、バンドサウンドに埋もれることなく、聴き手の耳をとらえて離さない。一聴するとラフな印象を受ける歌唱アプローチだが、ブレスの位置、母音の響き、語尾へ向かうわずかなニュアンスまで丁寧にコントロールされている。一語一語に感情を宿し、楽曲を通して高い集中力を保ち続ける歌唱力は、ライブハウスで磨き続けてきた時間の賜物だろう。

SIX LOUNGE - 君が眩しいから僕は星が見えない / THE FIRST TAKE

 このラフな質感を軸にしながらも、多彩な母音のアプローチで聴かせるのが「メリールー」だ。冒頭の少し粘らせるパターン、頭部からスコーンと抜けるように放つパターン、後半ではあえて〈メリールー〉の“u”の母音を喉の奥に残して鳴らすパターンなど、メロディと言葉に沿って自在に発生のニュアンスを操っているのがわかる。さらに最新アルバム『逆夢』に収録されたバラードの「雨上がりのベイベー」では、最初の一音から母音を溶かすように処理。これは、スウィートソウルにも通ずるアプローチで、ファルセットでも軽くならず、芯のある歌声で歌い切っている。

SIX LOUNGE - メリールー / THE FIRST TAKE

 こうした歌唱が聴き手の心を揺さぶるのは、ヤマグチが母音の響きや声の質感に感情を託しているからだろう。「メリールー」では、同じ名前を繰り返しながら母音の響かせ方を変えることで、呼びかけるたびに愛おしさや切実さを深めていく。「雨上がりのベイベー」では、柔らかい発音でありながらも芯のある歌声で、優しい言葉が実感を伴った温もりとして届く。ラフに聴こえる声の中に、言葉ごとの感情の温度差が刻まれているからこそ、聴き手は歌詞を聴かされているのではなく、本音がこぼれた瞬間を目撃したような感覚になるのだ。

ハルカミライ・橋本学

 続いて取り上げたいのは、ハルカミライの橋本学(Vo)である。2012年に東京・八王子で結成されたハルカミライは、圧倒的な熱量を持つライブパフォーマンスで、確実に支持を獲得してきた。今年3月には47都道府県ツアーのファイナル公演を横浜アリーナで開催し、大盛況に収めている。

 橋本の歌声は、張りのあるチェストボイス(地声)が軸になっている。サビへ向かって感情が高まるにつれ、歌声に歪みに似た揺れが加わってくるのも特徴的だ。その揺れは、ビブラートというよりも、“ディストーション”と表現した方が個人的にはぴったりくる。しかし、本当に優れているのは、その熱量の中でも言葉が崩れないことだ。たとえば、ハルカミライがライブで観客と一緒に育ててきた代表曲の一つでもある「世界を終わらせて」。この曲では、橋本のアプローチの特徴である、親密な語りかけと爆発的な熱量の両方を聴くことができる。終盤で〈朝〉、〈夜〉、〈風〉、〈星〉、〈海〉、〈鳥〉など、さまざまな存在へと姿を変えながら好きな人のそばにいようとする気持ちを、ほとんど間を置かずに畳みかける。思いつく限りの言葉を、ひとつ残らず相手へ手渡そうとしているような歌唱だ。このシンプルな言葉とキャッチーなメロディの反復は、思わず声に出して歌いたくなるような中毒性がある。 

ハルカミライ - 世界を終わらせて(Official Video)

 また、バンドサウンドと息を合わせてドライブ感を加えていくのも、橋本の得意技だ。このバンドアンサンブルとの一体感がよくわかるのが、「みんなによろしく」だ。冒頭からバンドのビートに合わせ、ブレスの長さ、休符の長さまでしっかりコントロールしている。最新曲「リュミエール」では、前半は柔らかさを宿しているが、バンドサウンドのレイヤーが多くなっていく後半では子音の立ち上がりを鋭くし、言葉が飛び出していくようにアプローチを変えている。母音も必要以上に引き伸ばさず、一音一音を前へ押し出すように発声していることで、言葉が前に転がり、歌詞が最初に届いていく。橋本の歌が聴き手の心を掴むのは、歌詞に込めた感情を自分の内側だけで完結させず、常に相手へ向かって放っているからではないだろうか。張りのある地声、言葉の輪郭を失わない発声、バンドと一体になって前へ走るリズム……。そのすべてが、ハルカミライのストレートな言葉を聴き手のもとへ運ぶ土台になっている。最初は橋本の言葉として聴いていたはずの歌詞が、シンガロングの瞬間から、自分自身の言葉に変わっていくような感覚にさえなる。観客はその言葉を自らの中に引き込みながら、個人の経験や感情とリンクさせていくのだ。人へ向かって走り続ける歌声――橋本の真骨頂はそこにある。

ハルカミライ – リュミエール(Official Music Video)

関連記事