そんななか、女性アイドルで特筆するべきはAKB48のやり方だった。

　AKB48は3月13日に63rdシングル『カラコンウインク』をリリースしたが、こちらもやはりTikTokでは音源の使用は不可。ただ、ユニークだったのが3月15日の動画投稿。同投稿では、柏木由紀の卒業シングルでもある『カラコンウインク』について「絶対にみんなに聞いてもらうぞ！って意気込んでたら……諸事情によりTikTokで楽曲が流せません!!!!」とあえて堂々言い放ち、さらにポップな字幕を使ったり、メンバーの千葉恵里が拡声器を持ってそれを伝えたり、BGMには楽曲のオルゴールver.を用いたりするなどして、騒動を逆手にとった遊び心たっぷりの動画へと仕上げた。さらに千葉は、いつも食事に誘ってくれたりする柏木への感謝の気持ちも込めて、サッカーボールが頭に乗っている間だけ「カラコンウインク」を歌うと宣言。ところが一瞬でボールを落下させてしまい、ほとんど（というかまったく）歌えずじまい。AKB48のファンでなくても笑えるような内容となっていた。

　この千葉の投稿をに続き、ほかのメンバーも“特技”をまじえた「カラコンウインク」の歌唱チャレンジに臨むことに。3月22日の投稿では、水島美結が「バトンが宙に浮いている間だけ歌います」とバトンを投げるが天井に激突してこちらもまったく歌えず。4月5日の投稿では、八木愛月が「手に傘を乗せてる間だけ歌います」と手のひらに傘を乗せ、バランスをとってなんとかキープ。千葉、水島よりも歌い続けるという快挙を達成した。また4月2日には、佐藤綺星が、秋山由奈をリコーダー担当、八木をカスタネット担当に迎えて“即席楽団”を結成。ただ演奏をほとんどせず自由に歌いまくったあげく、「いや、音源に勝てなすぎぃ」と嘆いた。この「音源に勝てなすぎぃ」の台詞も、現状に対してなかなか皮肉が効いていた。

　ほかにも、小栗有以らは『カラコンウインク』のCDを手にして、「みんな止まっちゃいました」「一番体幹が強いのはだれでしょう」（4月19日投稿）という無音・静止のシュールな動画を公開。平田侑希は4月5日の投稿で本気のASMRを披露し、その聴き心地のよさでユーザーをうっとりさせた。

手作り感のあるアイデアによりアーティストの個性が楽しめる

　こういったAKB48のTikTokでのプロモーション展開の妙は、楽曲の全貌をほとんど明かさない点ではないだろうか。

　映像編集のうまさ（シーンの切り替えのテンポ感、柏木に対するメンバーたちの気持ちの独白など場面展開、テロップのスピード感などがいずれもすばらしい）でTikTokユーザーの目をしっかり惹きつけ、そしてメンバーの“あらびき芸”の数々で笑わせる。あえて楽曲以外のところで勝負を仕掛け、そのなかでちょっとだけ曲を口ずさんで興味を湧かせる。

　従来の投稿では、正規音源のサビなどを投稿内で聴くことができるため、それだけで満足してしまう人も少なくないだろう。ただ、AKB48の『カラコンウインク』の宣伝動画はいずれも“あらびき”なので、「本当はどういう曲なんだろう」と正規音源が気になって仕方がなくなるところがミソである。

　ピンチはチャンスとよく言うが、Travis Japan、OCTPATH、そしてAKB48のアイデアを見ていると、その言葉がぴったり当てはまるのではないだろうか。いずれも手作り感がある取り組みであるため、アーティストの素の表情や個性が見えたりもする。こういった投稿から思わぬ形で新しいバズが生まれるかもしれない。

※1：https://www.universalmusic.com/an-open-letter-to-the-artist-and-songwriter-community-why-we-must-call-time-out-on-tiktok/

※2：https://www.universal-music.co.jp/press-releases/2024-02-02/