「長いギターソロでしか見せられない景色がある」

――歌が軸にある楽曲の中でいかにギターを用いるかも重要なポイントになっているかと思います。実際どの曲にも……。

森：ギターソロがある（笑）。

――ええ。ギターソロもあるし、コピーしたくなるリフやフレーズが必ず入ってますよね。実際、曲の中におけるギターの立ち位置についてはどう考えていますか？

森：「無駄なギターを弾きたくない」っていうのが強くあるんですよね。展開がドラマチックな曲がたくさんあるんですけど、それは飽きさせたくないというか、途中で聴くのをやめてほしくないからで、「次に何が来るのかな？」っていう、ドキドキ感を味わってほしいんです。その中でギターのバランスはめちゃくちゃ意識してて、あまり使いすぎない……と言いつつ結局めっちゃ使ってるんですけど（笑）、自分の美学として行きすぎない範囲にはしていて、それがいろんな人にとって気持ちいいものになってくれてたら嬉しいですけどね。

――間違いなくそこが大翔さんのオリジナリティになってると思います。

森：最後の曲（「いつか僕らは～I Left My Heart in Rause～」）のアウトロでのめちゃくちゃ長いギターソロは、途中で削ろうとしたんです。この曲はもともと最初に作ってた曲で、キーや歌詞は全部変わってるんですけど、メロディと曲の構成は変わっていなくて、もともと超長いギターソロが入っていて。東京でレコーディングする段階で「こんなに長くて、どうなんだろう？」と思ったんですけど、そこは“ギターキッズとして”というか、長いギターソロでしか見せられない景色があるから、最後に知床の空に飛んでいけるかのような、どこまでも続いてる感じを出したくて、そのまま残したんです。

――表現したいイメージが先にあって、そのために必要だったのが長いギターソロだったという順番になっていると思うので、そこはギタリストとしてのエゴではないし、間違いなく聴きどころになっていると思います。現時点では、一曲の中にギターソロを必ず入れるっていうのはこだわりですか？

森：自然と入れたくなっちゃうんです（笑）。僕の中でギターソロは偉大というか……言ってしまうと、音楽の中に言葉はいらないと思う瞬間もあって。それはやっぱりもともとインスト出身だからで、それこそ全然違う世界に連れていってくれるようなギターソロとか、言葉を取っ払った音楽の素晴らしさに希望を感じていて、そういうことをどうしてもやりたいんだと思います。歌詞ではいろんなことを言ってるけど、このギターソロの中にいるときだけは違う世界に行ける。それを信じているんですよね。

――ここ最近は必ず「ギターソロいる／いらない問題」の話をされてるとは思いますけど、やっぱり音だからこそ感じられる感情や風景が間違いなくあるし、そういう要素もたくさん詰まってるアルバムですよね。

森：最初にギターを弾いたときにビビッときた感情は、もしかしたら自分以外の人にも届くんじゃないかなって。たしかに「ギターソロいる／いらない」っていろんなところで言われてますけど、自分は初期衝動を信じて、最初にギターから受けたあの感情を信じて、これからもギターを弾き続けるだろうと思います。

「“びっくり箱を出したい”という反骨精神はずっと持っている」

――リード曲の「たいしたもんだよ」について聞かせてください。これはまさに展開がすごくて、ある意味プログレぐらいの曲になってますけど、最初からそういう曲を目指したのか、アレンジの段階でこうなったのか、どちらでしょうか？

森：最初は途中の「Yeah Yeah」をやりたいだけに作ったデモで、その段階では大サビはなくて、ラップも入る予定じゃなかったんです。サビが来るのは曲が始まって1分半くらいだから、「これはポップスとしてどうなんだろう？」っていう葛藤もあったんですけど、そこを飛び越えられたらかっこいいし、それこそ自分のルーツのひとつであるDream Theaterは歌が入るまで2分半とかザラにあるし、ちゃんと助走を踏んでから来る大きなセクションに対する美しさを感じているので、自分の曲でももしかしたらできるんじゃないかって。それで大サビを追加して、気づいたらラップも入れてました。

――いろんなパートが出てくることで、いろんなスタイルのギターが出てくる面白さもあって、2番だと急にブラジルっぽい感じになったり、そういう要素も面白いですよね。

森：反骨精神じゃないですけど、人と同じことはやりたくなくて、「びっくり箱を出してやりたい」っていうのはずっと思っています。ポップスだけど、めちゃギター入っててかっこいいぞって、一石を投じたい気持ちがあるんですよね。

――「たいしたもんだよ」というタイトルや歌詞はどのように生まれたのでしょうか？

森：制作の締め切りというものを初めて経験して、ちょっとスランプになったりもしたんです。そうやって自分から何も出てこなくて苦しくなることが今までも結構あったりして。ギターに対してはめちゃ完璧主義なので、それ以外のことでも自分に厳しくしてしまうことが多くて、それは悪いことじゃなく、自分自身の成長にも繋がるんですけど、自分に対して「たいしたもんだよ」って言えないことが僕は多いような気がしてるんです。そういう自分をちょっと俯瞰で見て、たぶん自分以外にもこういう人はいるし、自分がそういう人たちにかけられる言葉はなんだろうなと思ったときに「たいしたもんだよ」ってキャッチーだし、その一言で自分も救われる瞬間があるし、いいキーワードになるんじゃないかなって。

――“いかに自分を肯定できるか”は現代社会を生きる上で大事なテーマですよね。

森：AメロとBメロは自分のことを歌っていて、行きたい場所もない、なりたい自分もわからない、今までの自分は何だったんだろうって、自信がなくなっちゃう歌詞になっていて。でも次のラップパートでは、そういう自分に対してもう一人の励ましてくれる自分が出てきて、「赤信号で休んでもいいんじゃないか」って言ってくれる。その「生きていく上で頑張ることが全てじゃない」っていう考え方にすごく救われたので、その思いを歌詞に込めました。

――そういう気持ちを持っていたら、いつか信号は青に変わるはずだと。

森：そうですね。まあ「自分は『たいしたもんだよ』っていう考え100%で生きてたら、何もしない人になっちゃいそうなので（笑）、あくまでスパイス程度に、「たいしたもんだよ」っていう言葉をお守りとして持って進んでいくよっていう気持ちですね。

――このアルバム全体がそうやって未来に向かってるというか、10代最後のアルバムということもあって、ここからどう未来に進んでいくのかを描いたアルバムという印象です。なので、最後に20代以降の音楽家としての展望も聞いておければと思います。

森：僕は純粋に音楽が大好きだし、音楽の豊かさに惹かれて今まで生きてきて、たぶんこれからもいろんな音楽を吸収していくと思うんですけど、それを通した上で、次はこのアルバムとも違う感情だったり、違う景色だったり、大きなものだったり、小さいものだったり、いろんな豊かさを音楽にできたらなっていう、一音楽家としての気持ちがあります。もうひとつは、ステージに立つ者として、何かを伝える人としてもっと成長したい。それは表情だったり、目の動きだったり、歌い方だったり、そこをもっと極めるというか、高いレベルでの表現者を目指したい。なので「たいしたもんだよ」って気持ちを持ちつつ、いろんなものを柔らかく吸収しながら、これからも生きていけたらなと思います。

――「ギターミュージック」という観点では、今後どういうものを作っていきたいですか？

森：僕は今もいろんな人のギタープレイを見てワクワクしてるギターキッズでもあるので、もっともっとギターの可能性も探求していきたいです。もっといろんな音が出せるかもしれないし、テクいけどキャッチーなことができるかもしれない。その可能性を探っていきたい気持ちはあります。でもギターヒーローになりたいのかな……。

――ギタリストになりたくてソロを弾きまくってた頃と比較すると、今はいわゆるギターヒーローというよりも、もっと広い意味で豊かな音楽を表現できる人を目指す方向にはなっているんでしょうね。

森：そうだと思います。でもギターキッズの心は忘れずに進んでいきたいですね。

■リリース情報
森 大翔
1st Album『69 Jewel Beetle』
2023年5月31日（水）リリース

ダウンロード／ストリーミング
https://a-sketch-inc.lnk.to/Yamato_Mori_69_Jewel_Beetle

＜収録楽曲＞
M1： Prologue～drift ice～
M2： たいしたもんだよ
M3： 剣とパレット
M4： 明日で待ってて
M5： オテテツナイデ
M6： すれ違ってしまった人達へ
M7： 歌になりたい
M8： 台風の目
M9： 最初で最後の素敵な恋だから
M10： いつか僕らは～I Left My Heart in Rausu～
M11： Epilogue～evening calm～
Bonus Track（CDのみ収録）
M12： 日日
M13： 君の目を見てると

■ワンマンライブ情報
『69 Jewel Beetle』
2023年6月9日（金）
時間：開場18:30 / 開演19:00
会場：東京・shibuya eggman

チケット情報：各プレイガイドにて発売中
チケットぴあ：https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2312195
ローチケ：https://l-tike.com/order/?gLcode=70865
e+（イープラス）：https://eplus.jp/

森 大翔 オフィシャルサイト