さて、2年ぶり、2枚目のアルバム『Next Destination』。今回も布陣が豪華ですね。1曲目「MOJO DRIVE」は作詞・真島昌利（ザ・クロマニヨンズ）、作曲編曲・山下達郎で、コーラスにも真島昌利が参加しており、中高年ファンが感涙しそうな激渋ロックンロールが聴けますよ。さらにはKj（Dragon Ash）、MAN WITH A MISSION、平井 大など、ありそうでなかった組み合わせも多数。どんな曲調でも格好良くキメていく、ヒーロー・キムタクの底力を感じます。

　そう、本人のプライベートや素顔は別として、記号としての「キムタク」って、なんでも格好良くこなせるヒーロー像のことです。それを作り手が強く願い、歌い手が完璧にキャッチしているのが6曲目「Yes, I’m」。R-指定とDJ松永、Creepy Nutsの2人による楽曲は、社会現象を起こしてきたキムタク主演ドラマのキーワードを散りばめたキムタク専用の1曲。これを照れずに歌いきり、少し難しそうなフロウもばっちりこなすところもキムタクっぽいですね。繰り返される〈Yes, I’m HERO〉の決め台詞は他の人には言えません。これこそスポットライトを浴びるにふさわしい、YouTubeやTikTokには収まらない往年のスター性と言えるのでしょう。

　往年と書きました。本作にキムタクらしさはたくさんありますが、ないものもあります。それは現代的／先鋭的なサウンドへのアプローチ。海外のトレンドを意識したビートとか、最新R&Bを下敷きにした低音とか、そういうものは本作では重要ではありません。ただし、聴いていて思うのは、それがいいんじゃないか、ということ。超売れっ子ビートメイカーを起用した最新鋭のトラックよりも、過去のドラマのワードを並べた「Yes, I’m」のほうが、みなさん楽しめるはずなんですよ。

　8曲目「Born ready」は、作詞に明石家さんまも加わったBEGIN作曲のナンバー。前述したように、この大物芸人の存在は今の木村拓哉に大きなヒントを与えているようです。その彼が〈願い事がなくなれと／神様に願う〉なんてユーモラスな歌詞を書き、そこにBEGINがとびきり陽気なメロディをつけ、キムタクも実に楽しそうに歌っている。使う言葉や譜割りに新しさはなくても、三者の「みんなが楽しく、盛り上がる曲になれ」という思いは強く伝わってくる。それで十分でしょう。エンターテインメントの本懐。キャリア自体が「共有物」になっている人にしか到達しえない境地だと思います。

※1：https://www.excite.co.jp/news/article/Asajo_89152/