昔話はここまで。死ぬほどCDが売れて生活も安定し、その後CD不況の時代を経て、サブスクが標準になった現在。アルバムを作ってもアーティストに入る金額には雲泥の差が出てきます。要するに、ライブさえ続けていれば、よほどの原動力がなければ新作など作らなくてもいいわけで、今回の『Let The Bad Times Roll』が9年ぶりなのも驚かない話。むしろ、今なお新作に向かうエネルギーがあることのほうがすごいというか、良くも悪くも世界情勢が彼らの創作意欲を煽っていくのかなと思わされます。

　「This Is Not Utopia」と、彼らにしては直截的なタイトルの1曲目から始まるこのアルバムは、政治問題や社会問題に向き合い、「現状を肯定するな、できるわけがない」といったメッセージが満載。さすがに高速の2ビートよりミドルテンポのナンバーが多くなりましたが、The Offspring流パンクの定義は今もブレていません。むしろ、辞書や対訳などを片手にゆったり歌詞を解釈するチャンスなのかも。かつてモッシュピットに飛び込んでいた元キッズの皆さまも、さすがに今はそんな機会も体力もないでしょうから、9年ぶりの新作をおうちで楽しむのがベターではないかと思います。

　最後に9位のLiquid Tension Experimentについて。こちらは米国のプログレッシブ・メタルバンド、Dream Theaterのメンバーを中心とする別プロジェクトです。長らく活動は封印されていましたが、コロナ禍でそれぞれがツアーに出られなくなったことでスタジオでの制作が再開。なんと22年ぶりのスタジオアルバムが完成しました。インストの超絶技巧ギターが縦横無尽に鳴り響く内容で、ギターの音をこれほどめいっぱい聴くのも久しぶり。洋楽ロックが一大ブランドだった80～90年代、長髪のロッカーたちにシビれたかつてのギター小僧が、これまたおうちで久しぶりにエレキを手に取ってみる。そんな光景も目に浮かぶのでした。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク／ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA！」などに寄稿。