『MAN WITH A "BEST" MISSION』インタビュー

MAN WITH A MISSIONはなぜモンスターバンドに成り得たのか Jean-Ken Johnnyに聞く、10年の葛藤と不変の信念

  MAN WITH A MISSION(略称:MWAM)が、結成10周年のベスト盤『MAN WITH A "BEST" MISSION』をリリースした。謎のオオカミバンドとして登場してから10年、奇抜なビジュアルとは裏腹な骨太のロックサウンドであらゆるロックフェスを席巻し、2014年には全米デビュー。さらに近年では月9主題歌を担当したことが象徴的だが、映画やドラマなどを彩ってきた数々のタイアップ曲、定番化した音楽番組への出演はMWAMの認知度を飛躍的に向上し、今では国内外で活躍するモンスターバンドへと成長した。

MAN WITH A MISSION「MAN WITH A “BEST” MISSION」TEASER

 そんな彼らは当事者として、10年間のキャリアやその中でのシーンの変容をどのように受け止めているのか。MAN WITH A MISSIONの10年の軌跡を振り返りつつ、音楽サブスクリプションサービス普及以降の視聴環境の変化、新型コロナウイルスで未曾有の危機に直面している音楽シーンの現在と未来についての思いを聞いた。(編集部)【発言はすべて、編集部で日本語に翻訳】

「スゴクキャッチーデアルコト」ガ大前提

リモート取材に応じるJean-Ken Johnny

ーーMAN WITH A MISSION(以下、MWAM)が音楽シーンに登場してから「もう10年経ったんだ!」という事実に、素直に驚きました。

Jean-Ken Johnny(以下、Jean-Ken):やっぱりそうですか。自分たちとしては早かったなと。この10年間というのは、すごく早い感覚ですね。

ーー登場した頃はまずそのビジュアルに驚かされることが多かったですが、続いて楽曲のキャッチーさに驚かされるという二重構造があったと思うんです。最初は「どう受け入れられるんだろう?」と興味を持って見ていましたが、気づけば「Emotions」(※2013年2月発売)以降のシングルにはすべてタイアップが付いていましたし、それによっていろんな場面でMWAMの楽曲を耳にする機会も増えた。なおかつ、音楽番組などのメディアにも出演する機会がかなり増えていると思います。そういう受け入れられ方に対して、Jean-Ken Johnnyさんの中で大きな変化を迎えたタイミングは、この10年の間にありましたか?

Jean-Ken:どうだろうなあ。10年間走り続けてきた中で、本当に最初から……手前味噌ですけど、いわゆるメディアとかそういったところに出演するときには肩の力を抜きつつ、我々のロックバンドとしての本質的な魅力が伝わってほしいなと。とはいえ、いかんせんこういうビジュアルですので、入り口というのは千差万別ですし、明らかに見た目で入る方がいらっしゃることもわかっているので、最初からメディア露出に対する向き合い方というのはあまり肩肘張らないでやっていたからよかったのかなという気分ではありますね。もちろん大きなメディアや番組、雑誌に出演したこともありましたけど、特にどこかで変わったとかターニングポイントというのはなかった気がします。

ーー楽曲がアニメやドラマ、映画などで使用されることで、今までリーチできなかった層にまで行き届くという相乗効果も生んだのかなと。そういう場面で、楽曲制作との向き合い方に変化が生じたことはありましたか?

Jean-Ken:意識せざるを得なかった場面というのは多々あったと思います。もともと自分たちはロックミュージックを中心に、モンスターバンドみたいな存在から知る人ぞ知るインディーズバンドまで幅広く聴いてきたんですけど、音楽を制作する際には常に「すごくキャッチーであること」が大前提であって、人の心に響かせるにはその要素は絶対に必要であると。すごく大袈裟なことを言ってしまうと、自分たちが憧れを抱いていたバンドというのは、たとえインディーズだろうがメジャーであろうが、メインストリームで流れている音楽に負けないぐらい大衆性を帯びている、それぐらいの魅力に溢れているとずっと信じていたんです。なので、そこが変化するということはなかったですね。むしろ、「音楽の本質が広がってほしい」だとか「説得力があってほしい」という意味での向き合い方ぐらいの変化だったんじゃないかと思います。

MAN WITH A MISSION 『Remember Me』

ーーなるほど。最近だと月9ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』の主題歌「Remember Me」を通して、それまでMWAMを知らなかった層、聴いていなかった層にも届く機会を得られました。こういうケースでは、例えばドラマのストーリーを踏まえた上で制作するわけですよね?

Jean-Ken:作品によっては書き下ろしという形で寄り添うものもありますので、ストーリーをちゃんと理解することで楽曲に影響を及ぼすことはあります。そう考えると、そこでのバランス感覚については確かにこの10年間で考えさせられましたし、考えながら曲を作っている場面は多かったかもしれないですね。

ーーでも、だからこそ映像との親和性も高まり、映像を観た人からの支持も増えていった。

Jean-Ken:それはありがたいですよね。実際にそういった反応がいただけると、我々の音楽により深く理解を示していただけているとうれしく思います。

聴イテキタ音楽ノ歴史ガ単純二表レテイルダケ

MAN WITH A MISSION - Hey Now

ーー一方で、MWAMが影響を受けた音楽の中にはストリート色の強いアンダーグラウンドなものも少なくないと思います。実際、今回のベストアルバム『MAN WITH A "BEST" MISSION』にもそういったカラーがにじみ出た楽曲が含まれているわけですが、マニアックな方向に偏ることなく、常にキャッチーさを保っている。MWAMはこのバランス感覚にとても長けていると思うんです。

Jean-Ken:ありがとうございます。やっぱりずっと想像していましたよ、自分たちが聴いているバンドや音楽というものに対して、「なんでこのバンドが『Mステ』に出ないんだろう?」「なんでこのバンドが日本のチャートの1位にならないんだろう?」と。実際、そういうことを夢見て音楽というものを聴いていた側面もありますので、自分たちの音楽にはそこが如実に表れているのかなと思います。

ーー特に最近の楽曲を聴くと、アレンジなど味付けの多様性が非常に広がっている。だからといって軸足がブレることはまったくなくて、見せ方や届け方という部分においていろんな可能性が以前よりも増したのかなと。

Jean-Ken:自分たちはありがたいことに、いろいろなアレンジャーやプロデューサーと一緒にやらせていただいて、どの方も自分たちの音楽ルーツというものを深く理解した上で、MWAMというバンドの良さを引き出してくださっている。と同時に、チーム全体がMWAMの新たな側面を見せようという姿勢で臨んでくださっているので、常に新しいチャレンジというものが自然と付いて回るような楽曲制作になっているのがとても健康的だなと思います。

ーーそれこそ、初めて「Hey Now」を聴いたときも、最初はプロデューサーの中野雅之さんらしいBOOM BOOM SATELLITES色を感じつつも、最終的にはどこからどう聴いてもMWAMだという、不思議なコラボ感が際立つ楽曲だと思いましたし。その感覚は相手が布袋寅泰さんだろうが東京スカパラダイスオーケストラだろうが、常に変わらないんです。制作過程においてコラボ相手から受ける影響もあるかと思いますが、その中でどう「自分たちらしさ」を表現しようと考えていますか?

Jean-Ken:それは非常に難しいですね。「自分たちのオリジナリティというのはこれです」というのは、意外と言葉にするのは難しかったりもして。MWAMはもともと、バンドとしても音楽としてもハイブリッドなものを目指していて、軸として活動しているので、逆に皆さんがよく言う「ジャンルはこれ」みたいなものがビシッと言えなくて、僕は毎回困ったりもするんです。でも、言葉にはできないんですけど、自分たちの出している音楽って結局歴史だとも思うんですよ。

ーー歴史、ですか。

Jean-Ken:はい。オオカミが聴いてきた音楽の歴史が単純に表れているだけで、何か新しいことをやるにしても、結局そいつが聴いてきたものの歴史が如実に表れるのが音楽制作の一番の楽しみだと思うんです。自分たち「らしさ」というと、ものすごくいろんな要素が集まってしまいますけど、結局は80年代、90年代、2000年代初頭の音楽やロックバンドに抱いていた、幻想に近いような理想像をずっと思い描いていて。そういう意味では、MWAMは「やっぱりロックバンドはこういうところが美しい、この瞬間が美しい」というものを前面に出しているバンドだと思うんですね。それこそ今回のベストアルバムを聴いていて思ったんですけど、その青臭い感情というのを自分たちで恥ずかしげもなくにじみ出させている、非常に珍しいバンドだなとも思ったりもして。言葉にもしていないのに、音楽としてそれが表れてしまっている。そこが一番バンドの軸になっているのかなという印象はありますね。

ーー特に日本人はカテゴライズが好きですけど、単純にロック……「MWAMの音楽」でいいのかなと実感させられたのがこのベストアルバムでした。

Jean-Ken:ジャンルをひとつに絞るには、我々がいろいろ手を出しすぎてしまったというのもありまして(笑)。例えば本当にパンクだけをやっている、その純度の高さにものすごく憧れたりもするんですけど、やっぱり自分たちは本当にいろんなジャンルの音楽が好きで、そういう新しい衝動から得た経験と記憶と歴史というものがありますので、ハイブリッドなものにならざるを得なかったんです。

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