高木洋が語る、『ルパパト』音楽に散りばめられた挑戦「主題歌は盛り上げすぎても困ることはない」

 2019年2月に最終回を迎えた後も"ルパパトロス"の声が上がり人気を集める『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』。42作あるスーパー戦隊シリーズの歴史で初となるダブル戦隊、 義賊と警察の両方の視点から正義とは何かを突き詰めるストーリーなど、 放送当時は子どものみならず、 大人まで巻き込み大きな話題を呼んだ。

 また、 音楽面も通常の戦隊シリーズとは異なり、ルパンレンジャーとパトレンジャー双方の主題歌や劇伴を制作。『秘密戦隊ゴレンジャー』以来、43年ぶりの男女デュエット曲であり、二つの歌を合体させたオープニング主題歌「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」をはじめとする楽曲も高い人気を誇り、すでに放送終了しているにも関わらず、3月からはライブツアー『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ファイナルライブツアー2019』もスタートした。

 リアルサウンドでは、『ルパパト』の主題歌や劇伴を手掛けた作家・ 高木洋氏にインタビュー。高木氏は、戦隊シリーズでは『爆竜戦隊アバレンジャー』や『侍戦隊シンケンジャー』、アニメでは『プリキュア』シリーズの音楽を担当。本人も制作にひと苦労したと語るオープニング主題歌や劇伴の制作秘話をはじめ、 アニメと実写での音楽制作の違い、『ルパパト』がヒットした理由などを聞いた。(編集部)

オープニング主題歌は「かつてないチャレンジ」

高木洋

――『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は放送から1年以上経った今聴いても驚くような主題歌です。一体、どのようにして作ったのでしょう?

高木 洋(以下、高木):日本コロムビアの八木仁プロデューサーから「2つの歌が混じるような感じの歌を作ってほしい」というオファーがあったのが始まりです。最初は僕もせいぜいサビでボーカル2人が追っかけ合うぐらいの曲なのかな、と思っていたんです。(藤谷美和子・大内義昭の)「愛が生まれた日」という曲がありますが、あんな感じでAメロをルパン側がワーッと歌って、Bメロをパト側がワーッと歌って、という感じの曲を2案作りました。ところが八木さんから「Aメロからぜんぜん違う歌が混じっているような歌がいい」と言われまして。そんなの、できるのかなぁ? と……。

――想像がつきませんよね。

高木:僕も40数年生きてきましたが、そんな曲は1曲も聴いたことありません(笑)。八木さんや制作の方たち、作詞家の藤林(聖子)さんを含めてかなり密に打ち合わせをしましたが、誰も出口が見えていない(笑)。僕も「これ、誰も出口をわかってないぞ……」とすごくドキドキしていました。それぐらい、かつてないチャレンジでしたね。

――どうやって出口を見つけたのでしょう?

高木:男女ボーカルにして、それぞれのキーを変えれば上手くいくんじゃないかとひらめいたんです。打ち合わせでも「この方法なら上手くいきそうだ」と言ったのですが、やってみたらぜんぜん上手くいかなかった(笑)。「やっぱりできませんでした」と3回ぐらい言おうと思いましたね。

――どう考えても難しいですよね。

高木:あっちを立てればこっちが立たなくなるし、両方立てれば合わさったときに崩壊する。何度も諦めそうになりましたが、意地でも作ろうと思ってメロディをひねり出したのが今の曲です。

――主題歌「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」、両戦隊のテーマソング「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」「Chase You Up!パトレンジャー」は、どういう順番で作ったのでしょう?

高木:3曲同時進行です。本当にパズルのような作業でした。今までにない曲ですから、出来上がりを聴いて、みんな戸惑ったと思いますよ。東映の宇都宮(孝明)プロデューサーもよくこんな前例のない曲を押し通してくれたと思います。

――どんどん新しいことを採り入れていくところが戦隊シリーズのすごいところですね。そもそもこれは“デュエット曲”なんですか?

高木:デュエットではないですね。サビを同じにしたり、サビをハモらせたりするパターンも作りましたが、そうするとぜんぜん2人が戦っていないし、仲良くデュエットしているようになってしまう。どっちの歌詞も聴こえなくなってしまう可能性もありましたが、戦っている感じのほうを優先させました。キーを変えたのも、ルパンレンジャーとパトレンジャーが絶対仲良くならないということを音楽的なコンセプトとして打ち出したものなんです。2つの歌は絶対に交わらないぞ、と。

――歌手の吉田達彦さんと吉田仁美さんは一緒に録音されたのでしょうか?

高木:いえ、別々に録音しています。しかも、それぞれの曲を歌っているんですよ。それを後で合体させました。ここでも戦いなんですよ。

子ども向け番組でここまで生楽器の音を聴かせる機会はない

――「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」はビッグバンドジャズ、「Chase You Up!パトレンジャー」はデジタルビートが強調されたアレンジでした。このアイデアはどのように生まれたのでしょう?

高木:劇伴について、監督(杉原輝昭氏)と戦隊別に音楽の色分けをしようと話していたんです。いろいろな案がありましたが、最終的にルパンはジャズに決めました。ルパンが生楽器なら、パトにはまったく違う打ち込みがいいだろう。それなら劇伴だけじゃなく、主題歌も色分けをしたら面白いんじゃないか、という発想ですね。

――まったく違うサウンドを融合させるのは、メロディを考えることと同じぐらい難しかったのではないでしょうか?

高木:これまでに作った歌でも生楽器の後ろでシンセが鳴っていたりループを使っていたりしていたんです。そういうハイブリッドなことはよくやっていたので、アレンジは歌のメロディほどの苦労はなかったですね。

――完成した曲は、男女2つのボーカルとブラスサウンドとデジタルビートが渾然一体となっていますね。

高木:ごちゃごちゃしてますよね(笑)。

――いえいえ、とにかくすごい迫力なのですが、特に終盤の怒涛のようなオーケストレーションが大変印象に残りました。これはどのような効果を狙ったものでしょうか?

高木:僕、弦を書くのが大好きなんです。そうそう主題歌を書くこともないですから、入れられるものは全部入れてしまおうと。弦を入れるとどう盛り上がるかもわかっていますから勝算もありました。主題歌は盛り上げすぎても困ることはありませんからね(笑)。

――演奏を担当しているLowland Jazzとのコラボはどのような経緯で実現したのでしょう?

高木:『ルパパト』の仕事に入るちょっと前にLowland Jazzとお仕事をしていたエンジニアの三浦(克浩)さんに紹介していただいて、ご一緒させていただきました。劇伴は70曲以上書かなければいけないのですが、ジャズはドラムやピアノを打ち込みで処理するのがすごく時間がかかる音楽なんですよ。Lowland Jazzに劇伴の演奏を担当していただけて、僕はものすごく助かりました! ずっと一緒にやってきた仲間たちならではの、熱くてイキイキした演奏ですよね。

――『ルパパト』を見ていた子どもたちにとっては、初めてのジャズ体験だったかもしれません。

高木:ああ、そうだと思います! 子ども向けの番組で、なかなかここまで生楽器の音を聴かせる機会はないので新鮮でしょうね。

――シングルにも収録されているBGM「快盗戦隊ルパンレンジャーのテーマ」もLowland Jazzのノリの良さが活かされた楽曲だったと思います。

高木:彼らのお互いの演奏での会話はジャズバンドならではでしたね。譜面に書いていないことでも上手くアドリブを入れていただいたり、いろいろな合いの手を入れていただいたりなど、すごく助けられました。

――BGM「警察戦隊パトレンジャーのテーマ」は、『西部警察』のテーマを連想しました。

高木:はい、わりと昭和の時代の刑事ドラマの古い感じは入れてますね。その中にデジタルっぽいところも入れたりしています。

――『西部警察』といえば高木先生の恩師である羽田健太郎さんの作品です。

高木:長年一緒にお仕事させていただいたので、どこかしら色を引き継いでいるのかもしれません。逆に、僕がそういうところを匂わせると面白いかな、と思って、意識的にやっている部分もあります。

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