『いつか世界が変わるまで』インタビュー
飯田里穂、“リスタート”の作品に込めた決意「帰ってくる場所があるから失敗できる」
声優アーティストの飯田里穂がレーベル移籍後初となるシングル『いつか世界が変わるまで』をリリースした。
9月にリリースした、移籍第1弾作品にして、パッケージとしては実に約2年ぶりとなったミニアルバム『Special days』では、Being系アーティストやTKサウンドが牽引した90年代のJ-POPサウンドに接近した彼女。サウンドクリエイターに佐高陵平、サウンドプロデューサーに冨田明宏を迎え、コンセプト作りやデモ曲の選定から関わった彼女にとって、新たなチームと一番最初に作ったのが、この新曲だという。
自身がボイスキャストとしても出演するアニメ『寄宿学校のジュリエット』(MBS・TBSほか)のEDテーマとして書き下ろした楽曲であるが故に、これまで多くを語れなかったというリスタートへの思いを聞いた。(永堀アツオ)【最終ページに読者プレゼントあり】
「2年間、私の中では止まっていたも同然」
ーー移籍第1弾としてリリースされたミニアルバム『Special days』の制作はどういう風に始まったのか、というところからお伺いできますか。
飯田里穂(以下、飯田):移籍が決まったあと、レーベルさんから「佐高さんと冨田さんと一緒にやります」というお話をいただいて。コンセプトを決める会議の時に初めてお会いしました。
ーー飯田里穂というアーティストのコンセプト作りから始めたんですね。
飯田:しっかりとしたコンセプトを作らないと、応援してくれる人もわからなくなっちゃうので、飯田里穂がどんなアーティストなのかという軸をはっきりさせてから、デモ選定に入ろうっていうことになったんです。その会議で、私のパーソナルな質問もいっぱいされましたね。「好きな食べ物はなんですか?」とか(笑)。そういうところから話して、飯田里穂の人物像を知っていただいた上で「嘘のつけない、ナチュラルな人間」だということになったんです。私は小さい頃からずっと芸能界でやってきていて、人生のほとんどをみなさまに見守られてる。だから、そのままの私を好きになってもらったほうが、魅力が輝くんじゃないか、という見解になりまして。
ーー等身大がコンセプトと言っていいですか?
飯田:そうですね。ナチュラルで等身大。今までの嘘のない飯田里穂と、これから成長していく飯田里穂も見守っていってもらえるようにという、未来も見据えたコンセプトになってます。そして、楽曲的には、ソロでアーティストをやっている声優さんはたくさんいらっしゃるので、そんな中で、ちょっと違うのをということで、「90年代というコンセプトをしっかり立てるのはどうだろう」と提案されまして。
ーー「90年代のJ-POPで行こう」と言われた時はどう感じました? 飯田さんは91年生まれだから、そんなに馴染みはないですよね。
飯田:小さい頃にテレビから流れていたのをなんとなく聴いてたくらいだと思うんですけど、それでも身体の中には埋め込まれてるなと感じていて。
ーー詳しくは知らないとしても血肉になってる?
飯田:うん。それに、個人的にも90年代の楽曲が好きで、カラオケで歌ったりもするんですよ。昔の曲ってすごくストレートじゃないですか。そのストレートさと飯田里穂の人物像がマッチするのかなと感じましたし、表現しやすい世界だとも思いました。あと、私のことを小さい頃から知ってくださってる4〜50歳くらいの方にも響くし、最近知ってくれた若い世代のみなさんには、一周回って新しいと感じてもらえたらいいなという思いも含めて、デモを選定していきました。
ーーデモの選定にも関わってるんですよね。
飯田:50曲以上あるデモの中から6曲を選ばせてもらったんですけど、その作業自体が初めてで。「あ、ここまで楽曲制作に参加していいんだ」っていう嬉しさがありましたね。
ーーミニアルバムに収録された「Re:start」では作詞も手掛けています。タイトル通り、リスタートだという思いはあった?
飯田:かなりありましたね。やっぱり2年間、私の中では止まっていたも同然と思っていて。その間に悔しいこともいっぱいあったんです。止まっちゃいけないという思いで、ずっとお仕事をやらせていただいていたのに、一番やってはいけないことをしてしまった。すごく悔しい思いをしたので、ここからはリスタートだぞっていう強い気持ちがあって。だって、「新人です!」っていう真新しい感じではもうできないじゃないですか。中途採用の人間みたいな感じなので(笑)。
ーーあはははは。新卒の新入社員じゃないから。
飯田:それなりにちゃんとした実力を見せなきゃいけないな、というプレッシャーはすごくありましたね。
ーーでも、そんなに止まっていたイメージはないですよ。昨年の1月にはツアーもありましたし、声優業でも活躍していましたから。
飯田:アニメ作品で私のことを知ってくれる人ももちろんいたと思うんですけど、やっぱり飯田里穂を表現する場所が1個なかったのは大きくて。一本でつながってた太いパイプの中の水が、だんだんうまく流れなくなる感じがしたんですよね。悲しいというか、悔しい気持ちというか。
ーー表現する場所の一つとして、ソロシンガーとしての活動は絶対に必要だと思いますか。
飯田:必要だと思います。1回スタートさせて、楽しさを知ってしまってるじゃないですか。快楽というか、アドレナリンが出る感じというか(笑)。みんなとライブをして「楽しかった〜!」という感覚を知っちゃったのは大きいです。それに、私のライブの空間を楽しみにしてくれていたり、私が発する楽曲を糧に人生を生きていますっていう言葉を一度でも聞いてしまうと、それがないとさみしいし。私も何のために頑張ってるんだろうって思うこともあったので。うん、必要でしたね。
ーーでは、「Re:start」の歌詞にはどんな思いを込めました?
飯田:2年間、どうしてCDが出せなかったのかという理由や細かい事情なんてSNSで呟くものではないし、ファンの方にも言えないじゃないですか。NBCユニバーサルさんのイベントで「移籍しました!」と発表したので、何もないときにも応援してくれてたファンの方の混乱があった、という話も私の耳に入ってきていて、一番詳しいことを伝えなくちゃいけない、言わなくちゃいけないファンの方に言えなかったモヤモヤや悔しさがあったので、それを歌詞に込めつつ、私が歌詞を書いたりするアーティスト活動の場が皆さんのホームであったらいいなと思っていて。「ただいま」とか、「おかえり」と言える場所があるから、他のことをやっても失敗できる。帰ってくる場所があるから失敗できるんだっていう。
ーーどんな時でも変わらずに支えてくれたファンへの感謝ですよね。
飯田:そうですね。私は皆さんが応援してくれてるから、声優さんじゃないことにも挑戦したり、テレビに出させてもらったり、舞台をやったりできるんだというメッセージを伝えたいなと思って。あと、「Re:start」なんで、移籍がゴールではなくて、ここからまた新しい飯田里穂の世界を作っていく、未来があるんだよという思いも込めましたね。
ーーそんななか、2年ぶりのミニアルバムからたった2カ月という短いタームでニューシングルがリリースされます。
飯田:そうなんですよ、びっくりしますよね(笑)。いざリスタートをきると、こんなにテンポが早いんだ! という感じなんですけど、実はこの曲、『Special Days』の曲の何よりも一番最初に録ってるんですよ。
ーーそうなんですね! だから、90年代J-POPサウンド感が強いのか。
飯田:新しい飯田里穂が出来上がった一番最初の曲だったんですよ。「こういう感じでやっていきたいんだけど」って最初に聴かされたのがこれだったんです。デモを聴いた瞬間に、一発で「いい曲!」と思いましたし、「自分がライブをしてる姿が浮かびました」って率直に言ったところから、全てが始まったんです。
ーーじゃあ、リリースとレコーディングの順番が逆になったミニアルバムとシングルの2作が発売になって、ようやくリスタート、という気持ちがありますか?
飯田:すっごいあります! 90年代っていうコンセプトにしたのも、この曲があったからなので、やっとこの話できるんだっていう嬉しさがあって。ここでピースがカチッとはまってのスタートだったので。モヤモヤがまたひとつ解消されたし、この曲があってこそのリスタート、という感じです。