ニューシングル『言葉にしたくてできない言葉を』インタビュー

桐嶋ノドカ、表現の新しい形を語る 「とっ散らかっている自分こそが本当の私」

 歌に還ってくる部分が必ずある

ーーまた、歌詞は桐嶋さんが演じた主人公・亜紀の心情とかなりリンクしたものになっていますね。さっき話してもらった桐嶋さんの当時の悩みも合わせて考えると、本当に不思議な縁で色々なタイミングがマッチしていったんだな、ということがよく分かりました。

桐嶋:そうなんですよ。私がちょうど歌から離れているときに、映画『爪先の宇宙』の原作のマンガを教えてもらって、そのときに「私の話だなぁ」と思いました。主人公の亜紀ちゃんはすごくへなちょこな女の子で、「これでもか!」というぐらい歩みが遅いんですよね。一歩を踏み出すチャンスが訪れるのに、毎回逃す(笑)。落ち込んでいた当時の私ですら、「いや、今のは行けたでしょ!」ってツッコむことがあったくらいで(笑)。でも、だからこそ応援したくなるというか、私もこの話を読んで「ああ、こういう速度でも進んでいけるんだ」という気持ちになりました。何かがあって立ち止まってしまったとき、そこから回復するスピードは人によって違うわけですよね。それに、亜紀ちゃんのいいところは、毎回勇気を出せずチャンスを逃してしまうのに、必ず前に進もうとするところ。現実には上手くできない自分がいても、ずっと「変わりたい」って思い続けていて。「それってすごくいいな」と思ったし、「今の私にぴったりだな」と勇気づけられました。

ーー女優として亜紀を演じることになったのは、どういういきさつだったんですか?

桐嶋:最初は主題歌のお話だけがきていて、「今の私にぴったりのお話だな」「これだったら曲が書けそうだな」と思っていたんですよ。そうしたら、「ヒロイン役がまだ決まっていない」という話が出てきて、そのときはまさか私がやるとは思っていなかったので「へええ、決まるといいですね」という感じで(笑)。その中で、「演技もやるのはどうですか?」という話をいただくことになりました。最初は「私は演技もしたことないし、何より主演というのは…」という感じでした。でも、私自身、亜紀ちゃんにすでに自分を重ねていたこともあって、「亜紀ちゃんだったら、もしかしたらできるかもしれない」と思ったんです。それに、今回のプロジェクトをはじめるにあたって、新しい自分としてやっていきたいと思っていたので、“表現”という意味では、演技も歌も同じところがあるのかな、これをやることで歌に還ってくる部分が必ずあるだろうなと感じて、やってみることにしました。

ーー実際に演技をしてみて、どうでしたか。

桐嶋:演技に関しては私が語れるようなものは何もないと思いますけど、やっぱり大変でした(笑)。歌もそうですけど、すぐにスッとできるようなことではないですよね。それでレッスンを受けたり、監督にも本当にお世話になったりして。音楽とはまったく感覚の違う世界でしたね。主人公の亜紀ちゃんの役で台本が進行していくので、私としては台本の中にはない亜紀ちゃん像や設定を考えました。台本の外側にも色んな情報があるということですよね。今回のお話は、1年間ひきこもっていた亜紀ちゃんが、人とかかわりあいながら成長していく物語だけど、「じゃあ何で引きこもったのか?」ということや、そこに至るまでの生い立ちからくる性格の特徴をとにかく考えていきましたね。

ーーたとえば、物を取ってもらったときにも「ありがとう」と言う人と、「すいません」と言う人がいて、実はこの違いにその人の考え方や人生観が出ている、という話と同じですよね。それを「亜紀ちゃんならどっちだろう?」と考えていく作業と言いますか。

桐嶋:そうですね。何で「すいません」と言う人なのかな、というところを自分に入れたうえで台本と違うセリフを発するのであれば、それが正解だと監督もおっしゃっていて。すべての細かい行動に根拠が必要で、その根拠が私に基づくわけではないところが新鮮でした。でもそのおかげで、「私がこう思ったからこうです」と言える自分の曲を歌うときにも、じゃあ「なんで私はこうなんだろう?」って、その理由を探せるようになったというか。これまでとは違って客観的な視点から、「だから私ってこうなんだな」と素直に見えるようになったんです。あとは、すごく意外だったんですけど、演技をすることで、「自分を解放して歌を歌う」ことが還ってきた部分もあったんですよ。演技をする際にリラックスをする方法を色々と教わったんですけど、そのためにはとにかく心と体をリラックスさせて、相手が言っていることをちゃんと受け止める必要があって。つまり、相手の言ったことをちゃんと受け止めてこそ自然に涙が出てくるし、みんなが素晴らしいと思えるものになるんだな、これが「演じるな」ということの真意なんだなと、すごく思いました。

ーー小林さん&ryoさんとのプロジェクトがはじまった経緯も、演技で学んだこともそうだと思うのですが、今回の一連のプロジェクトは、桐嶋さんが周りの人との関係性の中で表現をすることの楽しさを知っていく過程だったのかもしれませんね。

桐嶋:そうですね。自分を見せることを恐れない状態というか。「ああ、別にいいですよ。どうぞ?」って(笑)。それがあれば何でもできるんだな、ということだと思います。それはスタッフさんや、ryoさんや小林さんとのかかわり方としても、自分が歌と向き合っていくときのスタンスとしても、すごく気持ちがいいというか。だからこそ、ちゃんと感情を100%歌声に込めることができるようになったんだと思います。演技から学んだことは大きいですね。

ーーそもそも、桐嶋さんが歌を好きになったのも、聖歌隊の合唱だったんですよね? みんなで歌声を合わせていくという。

桐嶋:そうなんですよ。そのときに、人と声が重なったりするのがすごく楽しくて。それに対して、ひとりでやるのは本当によく分からない作業になってきちゃう。私自身は自分を人見知りだと感じているし、新しい人に会うのは面倒くさいなぁと思ったりもする人間で、ひとりになりたくなるときもあるんですよ。勝手な人間なので(笑)。だけど、人とかかわっているときって色んな感情が引き出されるし、楽しいことをしているときって、やっぱり人と何かをしているときなんですよね。そういう意味でちゃんと人に頼ったり、心を開いたり、相手を受け止めることって、すごく大事なことで。私はもしかしたらそういうことを、これまでしてこなかったのかもしれないなって、今回の経験を通じて思いました。今回のプロジェクトは、本当に色んな人に出会うことで進んでいったので。今までは、一緒に仕事をしている人とも、マネージャーを通してしかやりとりしたことがなかったんですよ。でも、今回は私がひとりで監督に会いに行ったり、ryoさんに関しても朝マネージャーが来られないときはひとりでスタジオに行ったりしていて。結局全部私のことだし、自分で色々と積極的に動いてみた結果、「色んな人に本当にお世話になっているんだな」ということを、私がひとりひとりと実際に会って確認していくような期間だったんです。もちろん、周りに常にいてくれる人たちもずっと支えてくれているので、すごく幸福なことだと思っていますね。

ーーカップリング曲についても教えてもらえますか? まず「夜を歩いて」はryoさんが作曲と編曲を、桐嶋さんが作詞を担当した楽曲です。

桐嶋:「夜を歩いて」は、ryoさんのデモの中で一番最初にきたもので、私が歌詞を書くと言ったので「ラララ」でギターの弾き語りの音源がきて。でも、そのときのryoさんの歌い方はかなり熱い感じだったんですけど、私が歌うとバラードになって「あれ、おかしいですね?」という話をして(笑)。ryoさんのアレンジも結果的にバラードになっていきました。歌詞の面では、『爪先の宇宙』の亜紀ちゃんのために書いた曲ですね。これも映画の中で流れて、私がそこで亜紀ちゃんを演じていて、私の歌声が流れてくるので、桐嶋ノドカとして書いていいのか、亜紀ちゃんとして書いた方がいいのか、書き方はすごく迷ったんですよ。結局は亜紀ちゃんとしての私と桐嶋ノドカとしての私の目線を同じにして、できるだけ簡単な言葉や素直な気持ちを、手紙を書くような感じで書いていきました。「本当はさ」って。

ーー一方の「How do you feel about me ?」は、作詞/作曲/編曲すべてをryoさんが担当して、クラブミュージック色の強い、かなり攻めた楽曲になっていますね。

桐嶋:他の2曲がたまたまバンドっぽいアレンジの曲になったので、もう1曲作るなら、もっとryoさんっぽい、私も好きなクラブミュージックの要素を入れたいなと思ったんです。それに、この1stシングルで上手くまとまったものを作ると、次の作品で暴れられないとも思ったので。他の2曲を作っていく中で、「もっと尖りたい」という気持ちが出てきた結果ですね。それはきっと、他の2曲を作っていく中で、私のモチベーションが上がっていったからなんだと思います。それで私が好きなエレクトロの楽曲を集めて「こういうのも作りたいですね」と送って、そこからryoさんが作ってくれた感じですね。

ーーこの曲は、桐嶋さんの歌声までエディットされているのが印象的でした。これは桐嶋さんにとっても初めての経験だったんじゃないですか?

桐嶋:そうですね。この曲もデモの段階ではギターの弾き語りだったんですよ。プリプロの第1回目でも、ギターを叩いて出したリズムの上で私がアカペラで歌っていた感じで。そこから数日経ったらこうなっていたので、「あ、きたきた」と(笑)。そこからは相談しながら、だんだんと練り上げていった感じです。だからRyoさんと私は「楽しかった~」という感じで、でも小林さんは「これも入れちゃうの?」ってビックリする、という(笑)。

ーーまた、CDの<TYPE-B>には「言葉にしたくてできない言葉を」の小林武史さんとのスタジオセッションの様子も収められています。これは桐嶋さんと小林さんがお互いの音に反応し合うような、音楽を通して会話をしているような雰囲気が印象的でした。

桐嶋:小林さんとは、今年に入ってから一緒にライブをする機会が何度かあって、初めてプロデューサーとシンガーソングライターではなく、ミュージシャンとして向き合うことができたんです。だから、今回のセッションも立場としてはシンガーとピアニストとしてセッションをしていて、まさにそういう雰囲気だったと思います。小林さんのピアノがどう出るかで私も歌を変えていくし、小林さんも私の歌に合わせてピアノを変えていってくれて。小林さんは、すごく反応が速い人なんですよ。本当に会話をするような感じでしたね。

ーー今回のプロジェクトは、桐嶋さんにとってとても大きな意味を持つ経験になったんじゃないかと想像します。これからどんな風に活動していきたいと思っていますか?

桐嶋:今回ryoさんと小林さんと3曲作って、またちょっとずつ新しいものを作りはじめているところなんですけど、この3曲はどれも私が好きにやった曲で、その結果身近な人たちもみんなが「桐嶋ノドカ、変わったね」「楽しそうだね」と言ってくれるようになって。「好きなことをやってよかった」と、初めて自信を持って言えるようになったので、また次も好きなことをしたいし、そのマックスを設定することなく、いいと思ったらどこまでも突き詰めていきたいです。あとは、今回演技をはじめたことで「これからどうされるんですか?」と色んな人に聞かれるんですけど、そこについては「また次も絶対にやりたいです!」と言えるほどの自信はないので……(笑)。ただ、表現方法が「歌を歌う/曲を作る」ということではなくても、私は幸せを感じられる人間なんだということは、今回初めて分かりました。私の場合、「シンガーソングライター」という肩書がついている以上、シンガーであってソングライターでなくてはいけなくて、やることを1本に絞って、それが素晴らしくなくちゃいけないんじゃないか、とずっと思っていたんです。でも、もしかして、私はそういう人間ではないんじゃないか、ということが分かってきたというか。たとえば音楽だけで言っても、私は好みが色々で、シンガーソングライターっぽいものも好きだし、同時にダンスミュージックの最先端のような曲も好きだし。そういう両極端な趣味が私の中には混在していて、ずっとそれが「手に負えない」と思っていたし、「結局自分は何が好きで、何が柱なんだろう?」と、ずっと自分自身に困っていたんです。でも今回思ったのは、「もしかしたら、そのとっ散らかっている自分こそが本当の私なのかもしれない」ということで。だとしたら、私がピンとくるものがあるならば、気にせず全部やってもいいんじゃないかな、と思えるようになりました。そうやって散らかったものをいっぱい集めたときに、すごく大きな「桐嶋ノドカ」という柱が立つんじゃないかな、って。そうすれば外から見ても「桐嶋ノドカってこうなんだな」ということが、分かるかもしれないと思ったんです。だからこれからも、制限なしに自分が楽しいと思えることをやり続けていきたいと思っています。

(取材・文=杉山仁/撮影=林直幸)

■リリース情報
『言葉にしたくてできない言葉を』
発売:2017年11月22日
【TYPE-A】CD+Blu-ray ¥1,800(税抜)
[CD]
1.言葉にしたくてできない言葉を (映画「爪先の宇宙」主題歌)
作詞・作曲:ryo (supercell) 編曲:小林武史,ryo (supercell)
2.夜を歩いて(映画「爪先の宇宙」挿入歌)
作詞:桐嶋ノドカ 作曲・編曲:ryo (supercell)
3.How do you feel about me ?
作詞・作曲・編曲:ryo (supercell)
[Blu-ray]
・「言葉にしたくてできない言葉を」Music Video
・「言葉にしたくてできない言葉を」Making of Music Video
・桐嶋ノドカ×爪先の宇宙 Collaboration Movie
「言葉にしたくてできない言葉を」「夜を歩いて」「How do you feel about me ?」
【TYPE-B】CD ONLY  ¥1,200(税抜)
[CD]
言葉にしたくてできない言葉を
作詞・作曲:ryo (supercell)/編曲:小林武史、ryo (supercell)
夜を歩いて
作詞:桐嶋ノドカ/作曲・編曲:ryo (supercell)
How do you feel about me ?
作詞・作曲・編曲:ryo (supercell)
言葉にしたくてできない言葉を -桐嶋ノドカ×小林武史 Studio Session-
作詞・作曲:ryo (supercell)/編曲:小林武史

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