清水翔太の音楽がドープに深化した理由ーー3人のライター・編集者が語り合う
シンガーソングライター・清水翔太が、2月20日にデビュー9周年を迎え、同日と翌21日に10周年イヤーをスタートさせるライブ『Shota Shimizu 10th memorial & BDAY Special live』を行なった。最近では「つくってみた」動画がSNS上で拡散したり、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)では作詞家のいしわたり淳治から「My Boo」の歌詞を評価されたり、最新作『FIRE』がオリコンデイリーCDシングルランキング(2017年02月20日付)で自身初となる1位を獲得するなど、様々なところで盛り上がりを見せている清水。今回リアルサウンドでは、彼を取材し、よき理解者でもある音楽ライターの猪又孝氏、編集者の佐藤公郎氏、ライターの鳴田麻未氏の3者を迎え、清水の音楽性がより本格的なものに進化した背景、アレンジャーとしての技量についてなど、数多くの視点から語り合ってもらった。(編集部)
「彼には3つの顔がある」(猪又)
ーーまずは最新作の『FIRE』、それぞれ長くキャリアを追っているお三方から見てどうでしたか?
鳴田:これって「My Boo」のヒットを踏まえて作られた作品なんですかね?
猪又:本人曰く、「My Boo」のリリース後、武道館公演を終えて作ったそうです。ただ、今度もヒット曲を、っていう意識じゃなく、今まで通り自分のやりたいことをやろうという意識だったみたい。
ーー「My Boo」は、MixChannelやLINE MUSICなど、10代向けのプラットフォームを中心にかなり広がったイメージです。
佐藤:「My Boo」は生粋の清水翔太ファンじゃないリスナーまで届いたんじゃないですかね。同世代だけじゃなく、例えばアリシア・キーズとアッシャーのカバーかなと思わせるタイトルで気になった上の世代もいたりとか。
猪又:そうは思わないでしょ(笑)。でも、タイトルに「Boo」というスラングを使ったことにはビックリしましたね。今までその素養はあったけど、ここまで露骨に使うことはなかった。それを本人に訊いてみたら「わかんない人はわかんないままでいいです。でも、今時ググればわかるから(笑)」って。この曲、実はそういう深い一面もあるんですよ。「『PROUD』は裏テーマを自分で設定し過ぎて、誰からも指摘されず、やらかしてしまったと思った」らしく、その反省も込めて「My Boo」を作ったと。あの曲は「PROUD」で追求した音に、メロディーのキャッチーさやラブソングとしての強さわかりやすさをトッピングした曲なんです。
ーー狙ったところにしっかり落としてきたと。
佐藤:過去に何度も彼の取材をやっていますが、インタビュアーにアルバム・タイトルや一曲に潜む裏テーマを探らせるの、大好きですよね、シミショー。そうした実験的精神で10年キャリアを重ねてきたのは純粋にすごいと思います。
猪又:「My Boo」の段階でキャッチーの定義が変わって、自分でキャッチーだと言い切っちゃう強さが身に付いたからこそ、「FIRE」を作ることができたらしいです。
ーー「FIRE」は歌番組などで歌うであろうワンハーフサイズだと、先鋭的なトラックと力強いラブソングの印象ですが、フルサイズだとドープなラップパートもありますよね。
鳴田:その巧さはありますね。J-POPとしてどこまでが遊べるギリギリで、どこまで期待に沿うべきかという絶妙なラインのものを今は作れている感じがします。歌詞に関しても、「好き」の表現の仕方一つ取ってもどんどん上手くなっている。
ーー「FIRE」を含め、彼の作品がここまでドープなものになる兆しは、実際に追いかけていてどの段階であったのでしょう。
佐藤:デビューから、それこそ『Umbrella』(1stアルバム)の頃からだと思います。僕はかねがね清水翔太を「J-POPと戦って、大人たちの方針と争ってきた男」だと感じていて。キャリアの中ではタイアップの意図に沿って、ポップに振り切った作品を作ることもあったけど、そこには必ずマニアが唸るような仕掛けを入れていた。ブラックミュージックに根ざしている人間って、売れちゃうとそのフレーバーが薄められていって、いつのまにか打ち込みでもなくなってアコースティック路線になったり、気がついたらバラードしか歌っていないような境遇に陥る。でも、彼は必ずどこかにギミックを入れるのを忘れないし、リリックのどこか一箇所にも「あ、これは今のJ-POPに対する揶揄か?」というポイントも忍ばせる。「マニアックな部分は、わかってもらえる人だけにわかってもらえばいい」というメッセージを作品に巧みに入れ込むんですよね。
鳴田:本人も言ってますよね。「僕のR&Bの精神は、わかってくれる人には届いてるんだと思う」と。
佐藤:だからこそ、「最近面白くないな」とならず、目を離さずに追いかけ続けてしまう。
猪又:むしろ我々はそういう部分を好んで聴いてるし、インタビューでもそこを指摘したりしますから。「この曲、アレでしょ?(笑)」と訊くとニンマリしたりして(笑)。
佐藤:「別に深い意味は無かったんですけどねー」とか言いながらニヤニヤしますよね。だいたいそうなると、唇回りを舌で舐め始めて、饒舌にタメ口交じりで話し始める。『Umbrella』のときは、「台本でも読んでるのか?」と思えるくらい優等生な対応でしたけどね。
猪又:『Journey』(2ndアルバム)くらいから、優等生キャラが崩れ始めたよね。最近はライブでもフランクな関西人の一面を見せ始めてるし、自然な大笑いもするようになった。
鳴田:音楽については、青山テルマさんと作った「stay feat. 清水翔太」から、音数が少なくなって、海外のポップ・ミュージックにおけるトレンドも取り入れるようになった。「FIRE」はその延長線上といえる作品だと思います。「stay 」とまるで姉妹作のような「Damage」もそう。
猪又:「Damage」がシングル表題曲としては初めて、今の路線を打ち出した楽曲だよね。彼は海外のソウル・R&Bもそうだけど、現行のヒップホップやポップスもチェックしているので、その要素をカップリングやアルバム曲では露骨に出すことがあったけど、シングル表題曲には少しずつ入れ込み始めて、「BYE×BYE」でその部分をチラ見させて、「Damage」で全面開放した、という印象です。その間にある「花束のかわりにメロディーを」は、少し毛色が違うけど、昔のソウル・ミュージックっぽい歌のグルーヴがいいんですよ。
鳴田:ここ数作はシングル表題曲で実験的かつ大衆性のあるポップスを、カップリングでは自分のルーツに根ざしたものをやってるんですよね。
佐藤:『PROUD』(6thアルバム)に入っている「DRUNK」を聴いたとき、「シミショー、覚醒したな」と思いました。現行のUSのメインストリーム、例えばトラップ的なものはアルバムですぐに採用する。『Naturally』(4thアルバム)の「Gamble」もその系譜に当たると思います。また、その曲はサビが<まるでギャンブル ハイリスクハイリターン>で、そんなワードをファンにライブで合唱してるのは面白いし、本人もわかってやっている。手を振りながらファンと一体感を得るのに、その言葉がハイリスクハイリターンなんて、策士としか思えないですよ。
猪又:その前の『ENCORE』(5thアルバム)期は揺れていた印象があります。僕が思うに、彼には3つの顔があるんですよ。ヒップホップ・R&B好きな一面と、ポップスのメロディーメイカーとしての顔、そしてソングライターとしてアコースティックギターを弾き語るようなモード。それらのバランスをどう出していこうか、という迷いが見えたのが『ENCORE』のタイミングかもしれない。
鳴田:ライブで尾崎豊の「Forget-me-not」をピアノ弾き語りで熱唱したりするのも、3番目の顔ですよね。
佐藤:その3つの顔のうちの後者2つが強くなってたのが『ENCORE』だったのかもしれません。
猪又:ビリー・ジョエルやダニー・ハサウェイみたいな雰囲気を醸し出してた時期ですよね。