MURO『Super Animated Breaks & SFX~30 Years and still counting~』リリース特別企画

MURO×渡辺宙明が語る、ヒップホップと特撮・アニメ音楽の共通点「どの作品も実験的」

 MUROが、『Super Animated Breaks & SFX~30 Years and still counting~』を2015年11月25日にリリースした。本作は、MUROの音楽活動30周年記念として制作されたアニメ・特撮音楽のMIX CDだ。MURO自らがセレクトした70~80年代のアニメ・特撮ブレイクビーツ全38曲、なかにはレコードで入手することができない貴重な音源も収録されている。今回リアルサウンドでは、MUROの活動30周年とリリースを記念して特別対談を企画。これまで多くの特撮・アニメ音楽を手がけてきた音楽家・渡辺宙明氏を招き、本作収録曲を中心に、当時のエピソードや特撮・アニメ音楽の魅力について語っていただいた。(編集部)

「道具を本来とは違う方法で使うという発想は、ヒップホップに通じる」(MURO)

 

MURO:僕は『バトルフィーバーJ』が放送されていたときに「バトルフィーバーJごっこ」をして遊んでいたので、リアルタイムで渡辺先生の音楽に出会っていました。多分、その頃はあまり音楽的な気づきはなかったと思いますけど、音楽にノリながら遊んでいたということは覚えていますね。それから、レコードを買い始めたのも僕はアニメがきっかけで。たしか、ソノシートとかで『仮面ライダー』の絵本になっているようなものが多かったですね。小さなポータブルプレーヤーも買ってもらって聴いていました。実家がガソリンスタンドだったので、庭をチョロチョロしていると危ないということで、買い与えられたんです。それが僕とレコードとの出会いで、今回のMIXは本当に念願叶ったところです。

渡辺:初めて『人造人間キカイダー』の音楽を頼まれたとき、レコード屋に行って「ヒーローものの先輩の仲間たちは、どんな音でやっているんだろう」といろいろ作品を聴いてみたら、全然気に入るものがなくて。僕は、現代でも通用するような分かりやすくて、しかも子供の音楽だけど、子供っぽくない音楽、その子がのちに青年になり大人になっても愛されるような音楽にしたい、ということを最初から心がけていたんです。こうして今、MUROさんみたいな方に紹介してもらえるのだから、振り返ってみると正しい判断だったかな。いやー、いい曲を選んでいただいた。

MURO:本当ですか、嬉しいです! 当時はどのような音楽を聴かれていたんですか?

渡辺:当時、息子(作曲家の渡辺俊幸氏)はドラムを練習していたので、その影響で、ブラスロックのシカゴとか、ブラッド・スウェット&ティアーズとか、あのへんも聴いていましたね。ちょっと音を聴いて、これいいな、と思ったら頭に叩き込むようにしていました。それと私の使う音階の、ひとつの特徴として「ラドレミソ」のように「シ」と「ファ」を抜いた音階がありまして。私はそれを26抜き短音階と呼んでいます。それはアフリカ系アメリカ人の音楽の基礎になった音階で、ブルースの元になったといわれています。それを意識していました。なぜかというと、その前は民族音楽に凝っていたんですよ。小泉文夫という民族音楽の学者がいまして、その人はインドに留学して、後に東京芸術大学の教授にもなった人ですが、昔、インドの戦争の話を題材にした映画を撮影するときに、インド楽器の音が必要で彼に頼んだことがありました。それから仲が良くなって、日本の音階はこういうふうにできているんだということを教わり、いつか作曲に取り入れたいと考えていました。黒人の「ラドレソラ」と日本の民謡の音階が同じということに気が付いて。それで、これは日本人にもうけるだろうなと思って使い始めたのです。日本流に言うと民謡風ですけど、それに現代風なリズムをつけるとすごくカッコよくなっちゃうんです。『宇宙刑事ギャバン』(1982)の主題歌なんかは26抜き短音階を使用しました。この音階は野性味もあり、しかもカッコいいので、特撮ヒーローものにはぴったりですね。

--ブラックミュージックと特撮・アニメ音楽がどのようにつながっていたのかという部分は、MUROさんも非常に興味深いところだと思います。MUROさんがお考えになる、宙明さんの音楽の魅力とは。

MURO:どの作品も実験的なところがあるのが、すごくヒップホップ的だな、と。たとえば『スパイダーマン』(1978)のライナーノーツには使用した楽器について書かれていますが、そこには「五寸釘を重ねて吊って、風鈴の仕組みを利用して音を作ったもの」と紹介されているものがあって。

渡辺:これは打楽器奏者の山口恭範さんという人のアイデアですね。他にも、ヴァイブ(ヴィブラフォン)を弓でこするとか、ティンパニの上に丸いボールを置いて叩くとこんな音が出るとか。DJは、アレでしょ? レコードをこすって音を出しますよね。

MURO:そうです。道具を本来とは違う方法で使うという発想は、ヒップホップなどに通じるものがありますね。

渡辺:そういう意味で僕がいちばん刺激を受けたのは、トランペット奏者でアレンジもやるジェリー・ヘイという人かな。角松敏生のアルバムで彼の名を知りました。素晴らしいブラスアレンジに惹きつけられました。他の日本のシンガーソングライターでもブラスのアレンジを彼がやったのはかなりの数があるようです。「こんなすごい人がいるんだ」と思って買ってみましたけどね。ユーミンとか小田和正のLPにも入っていますね。リズムのメリハリが素晴らしい。

MURO:たしかに渡辺先生の楽曲はメリハリがすごいですよね。80年代のレコードは音も良くて、今の高性能なシステムで聞くと本当に驚きます。

渡辺:僕がリズムにこだわりを持ったのは、ドラムも上手かった息子の影響もあるでしょうね。自分自身もウキウキしてきて、頭で作曲するだけでも、そういうフレーズを考えるだけでも楽しいという感じで。リズムセクションではないものをリズム的に使うということもよくやっていました。例えば、トロンボーンがメロディー的なものを演奏したときに、トランペットで「パッパパ」とリズム的な動きをするというようなこともよくやりましたけどね。常に大人でも楽しめるということは意識していました。

関連記事