音楽家・大友良英がラジオ特番で明かした、あまちゃん音楽のハイブリッド性

 「音楽は『固定していく』ことと『変化していく』こと、両方があるからこそ面白い」と話す大友は、『あまちゃん』のサウンドトラックに使われた『希求』を作るうえで、このピアソラの手法を意識したという。『希求』は大友が“(橋本愛が演じた、主人公アキの親友)ユイのテーマ”と呼ぶ一曲。「似たようなコードがぐるぐる終わらずに、でも先に進んで行く」曲構成が、誰よりも東京に行きたいのに行くことができないユイの葛藤とオーバーラップしていったとか。「きっとピアソラ自身も『孤独の歳年』を作る上で、(その後ピアソラに同様の作風が見られないことから)本人はなんか違うんじゃないかと思っていたのではないか」という大友だが、その迷い道のなかに真実があるような気がするのだという。『あまちゃん』の劇中でもユイが誤解を受けやすかったり、“めんこいほう”というバイアスをかけられ続けて“面倒くさいユイちゃん”をなかなか出せなかったことを考えると、ピアソラの音楽というバッググラウンドの上に作られた『希求』が、より物語とともに生きてくる。大友の劇伴作家としての想いが垣間見えるエピソードだ。

 大友は音楽が“ハイブリッド”していくのは一瞬のことなのだと語り、『あまちゃん』はもう去年のことだと言いきる。「今年は今年で面白いことをやりたい」「盆踊りとかやりたいんですよ」と楽しそうに話す彼曰く、「民謡って固定した昔のもんだって思っちゃうけど、作っていっていいんですよ、自分たちのやり方で盆踊りを作りたい」のだそう。大友良英の“音楽の実験”は、今年も幅広く花開いていくことだろう。
(文=岡野里衣子)

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