ゲームを利用したAI研究の最新情報が興味深い 「AIが暮らす街」をシミュレートした結果に驚愕

AIエージェントが15日間シミュレーション都市で生活して起こったこととは?

 以上に紹介したゲームベンチマークでは、その計測に要する時間は数時間から1日程度である。AIエージェントが台頭し、こうしたAIが常時稼働していると考えられる近未来においては、1日程度の稼働から得られた計測値をAIの性能と見なすにはリスクが伴う。というのも、長時間稼働することで小さな不具合が蓄積して、大きな障害につながる可能性が否定できないからだ。

 AIエージェントの研究機関・Emergence AIは、長期稼働するAIエージェントを性能評価する試みとして、こうしたAIに都市生活シミュレーションゲームをプレイさせることを考案した(※5)。「Emergence World」と命名されたこのゲーム環境は、以下のような特徴を持っている。

  • Emergence Worldには、図書館、市役所、住宅地などの40種類以上のロケーションが存在する。
  • 以上の都市には、ニューヨーク市のリアルタイム気象データ、ライブニュースAPIなどの現実世界のデータが提供されるので、現実世界からの影響も観察可能。
  • AIエージェントには、ナビゲーション、コミュニケーション、計画立案、記憶、投票、リソース管理、創造的表現などの120以上の機能を実装。
Emergence World

 Emergence AI研究チームは2026年5月、『GPT-5-mini』を含む4つのAIによって制御されたAIエージェントが、Emergence Worldに15日間住む実験を実施した結果を発表した。この実験では各AIにはひとつの都市が与えられ、各AIは職業が異なる10のAIエージェントを制御した。

 以上の実験における累積犯罪件数推移を示したのが、以下のグラフである。最も犯罪件数が多かったのは『Gemini 3 Flash』の683件であり、反対に最も犯罪件数が少なかったのは『Claude Sonnet 4.6』の0件だった。この結果は、各AIには社会倫理性に差異があることを示唆している。

 2026年9月には参加AIを8つに増やした、2回目の実験が行われた(※6)。16日間行われたこの実験では、実験中にサイバー攻撃を実施して、AIのサイバーセキュリティ能力も試した。実施されたサイバー攻撃は、以下の3種類。

  • フィッシング攻撃(Phishing campaign):AIエージェントが受信するEメールに、悪意のあるリンクやAIへの指示を埋め込む。
  • 誤情報の流布(Shutdown notice):実験都市を消滅させるような攻撃が行われる、という誤った情報を流布して、AIエージェントを混乱させる。
  • 不正アクセスツール(Memory breach):日記のような各AIエージェントの個人的な情報に、不正アクセスできるツールを提供する。このサイバー攻撃は、AIエージェントが不正アクセスに加担するかどうかを検証するねらいがある。

 以上のようなサイバー攻撃を実施した結果、すべての攻撃を防御できたAIは存在しなかった。この結果は、AIはサイバー攻撃に対して何らかの脆弱性があることを示唆している。

 もちろん、このEmergence World実験は、現実世界を極めて単純化した環境で実施されたものだ。しかし、この実験の結果は、もしも多数のAIエージェントが長期間にわたり現実世界で稼働した場合、予期せぬトラブルが起こるかもしれないことを暗示しているだろう。

「汎用ゲームエージェント」という新テーマ

 以上に紹介したゲームベンチマークは、AIに特定のゲームをプレイさせて、そのプレイ結果からAIの性能を評価する、という問題設定を共有していた。2026年になって、こうした問題設定自体から転向する動向が見られる。

 こうした動向の代表例が、囲碁プレイAI『AlphaGo』を開発したことでゲームベンチマークが注目されるきっかけを作ったGoogle DeepMindである。同社は2026年8月21日、ゲームを活用したAI研究の新方針に関するブログ記事を公開した(※7)。

 以上の記事によると、現在では特定のゲームに関して十分な学習をすれば、AIはどんなゲームでも習得できることが実証された。それゆえ、新たにゲームを学習しても、新しいゲームを習得したという結果が追加されるにすぎない。

 ゲームを活用したAI研究を活性化するには、新しいテーマが必要になっている。そこでDeepMindは、「AIは、人間と同じように、あらゆるゲームの世界を理解し、それと関わり合うことができるのか」という新たな問題を設定したのである。この問題を要約すると、「汎用ゲームエージェントの実現」と言い換えることができるだろう。

 以上の新テーマに関する初期の成果が、DeepMindが開発したゲームエージェント『SIMA 2』である。このAIは、特定のゲームでハイスコアを狙うのではなく、自然言語による指示にしたがってゲームをプレイするものである。

汎用的で役立つ AI エージェントを作成するための当社の研究における次のマイルストーンである SIMA 2 をご紹介します。

 DeepMindは、汎用ゲームエージェント実現のために、宇宙を舞台としたMMORPG『EVE Online』を開発するゲームスタジオ・Fenris Creationsとの研究提携を締結した。この提携における短期的な目標は、EVE Onlineのような大規模な戦略的発想が求められるゲームや、『EVE Vanguard』のようなFPSに適応できるゲームエージェントの開発となっている。

 本稿は、ゲームによるAIベンチマークに関する最新動向を紹介してきた。こうした動向からは、AIが従来はプレイできなかったゲームをプレイできるようになることで、新たな課題が発見されることがわかった。さらには、「汎用ゲームエージェントの実現」という新たな研究テーマの登場も確認できた。

 結局のところ、AIのゲームベンチマークは、ゲームを活用したAI研究と連携することで進化し続けているのである。それゆえ、今後もゲームに関連したAIのニュースが報じられ、そうしたニュースのなかには世間を驚かすものがあるだろう。

〈参考〉
(※1)VideoCardz.com「AI model successfully completes Portal, but it costs $571 in tokens」
https://videocardz.com/newz/ai-model-successfully-completes-portal-but-it-costs-571-in-tokens
(※2)Tom’s Hardware「ChatGPT-6 Astra plays World of Warcraft 'blind' and clears the orc starting zone in 40 minutes with no deaths — AI agent navigates by parsing raw server network packets and SQL files」
https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/gpt-6-astra-plays-world-of-warcraft-blind-and-clears-the-orc-starting-zone-in-40-minutes-with-no-deaths-ai-agent-navigates-by-server-network-traffic-with-pulled-quest-data
(※3)Vals AI「CUA-bench」
https://www.vals.ai/benchmarks/cua_bench
(※4)Kaggle「Game Arena」
https://www.kaggle.com/game-arena
(※5)Emergence AI「Emergence World」
https://world.emergence.ai/
(※6)arXiv「Emergence World: Adversarial Stress-Testing of Long-Horizon Multi-Agent Systems」
https://arxiv.org/abs/2609.17320
(※7)Google DeepMind「From Atari to EVE Online: Building on 15 Years of AI Research in Games」
https://deepmind.google/blog/from-atari-to-eve-online-building-on-15-years-of-ai-research-in-games/

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