Grimesなど海外著名アーティストとボカロPが続々コラボ ドワンゴ×Nebula17が仕掛ける『BEYOND BORDERs』の挑戦

言葉の壁を超えた「ボカロ打ち込み指導」 LAのスタジオで起きた感動的なドラマ

ーー実際のコライトキャンプの現場について伺いたいと思います。ボカロPの方々は普段、ご自宅のDTM環境で一人で作品を作り上げるスタイルが多い印象があります。体格も言語も異なる海外のトッププロデューサーたちと現地で直接セッションを行うにあたって、不安や戸惑いはありませんでしたか。

織本:渡航前はご本人や事務所様からも不安の声がありました。普段は一人で黙々と部屋やスタジオにこもって制作されている方々が、言葉も通じない海外の現場で自分より二回りも体が大きい海外プロデューサーたちと向かい合うわけですから、当然プレッシャーは大きかったと思います。ですが、「BEYOND BORDERs」という名の通り、自らの限界や壁を飛び越えていこうと腹を括って現地に入った彼らの姿は本当に逞しかったですね。

ーー現地で特に印象的だったエピソードや、クリエイター同士の化学反応を感じた場面はありますか。

織本:一番ドラマティックだったのはjon-YAKITORYさんですね。初日は現地プロデューサーの迫力に少し気圧されていて表情も硬かったんです(笑)。ですが2日目・3日目となると、片言の英語や身振り手振りを交えながら自分から積極的に意見をぶつけていました。言葉の壁を越えて音楽でコミュニケーションを取り、人間としても一気に殻を破って成長していく姿には胸が熱くなりました。さたぱんPさんも自分の明確なイメージと意思を持って現地プロデューサーを引き込み、piccoさんも自身の高揚感あるエレクトロサウンドと現場の熱量を融合させていました。

長田:現場でのコミュニケーションをスムーズにするため、僕らのチームで出版契約をしているXanseiにも、今回のコライトに参加してもらいました。実際に日米双方のカルチャーと言語を理解しているプロデューサーを配置したことで、最初の混ざり合いも自然に進んでいきました。

ーー現地で生まれた具体的なエピソードで、特に象徴的だった出来事はありますか。

長田:jon-YAKITORYさんの楽曲「All Mine」の制作現場ですね。スクートがトップライナーとして参加してくれたのですが、スクートがjon-YAKITORYさんの隣に座り、VOCALOIDの画面を一緒に覗き込みながら「この英語の発音はこう打ち込んだ方がネイティブに自然に聴こえるよ」と熱心に歌詞の打ち込みを指導してくれたんです。完成した楽曲を聴いたjon-YAKITORYさんが「スクートに発音を教えてもらって打ち込んだら、めちゃくちゃかっこいいネイティブ仕様のボカロ曲になった!」と大興奮していたのが印象的でした。この曲はEPのリードトラックとして大きな存在感を放っています。

ーー国境や言語を超えて、まさに音楽そのもので固い絆が結ばれた瞬間ですね。コライトキャンプを終えた後、ボカロPの方々からはどのような感想がありましたか。

織本:スキルやノウハウはもちろんですが、「初音ミクという自分だけの世界観から一歩踏み出し、海外のクリエイターと共に作ることで、見たこともない新しい景色が見えた」と全員が言っていたのが印象的でした。これまでの成功体験に固執せず、他者の素晴らしい感性を取り入れながら初音ミクの新しい可能性を提示できたことは、彼らのクリエイター人生にとっても大きなターニングポイントになったと思います。

ーー一方で、参加した海外のプロデューサーやアーティスト側の反応はいかがでしたか。

長田:海外側の反応も本当にエキサイティングでした。日本のサブカルチャーが大好きなプロデューサーは「まさか日本のボカロPと直接セッションできるなんて!」と大興奮していましたし、初めてボカロに触れたプロデューサーも「こんなに自由で面白い表現手法があるのか」と夢中で制作に取り組んでくれました。

ーーそして第一弾アーティストとして、Grimesの参加も大きな話題を呼びました。

長田:Grimesに関しては本当に運命的でした。彼女自身、昔から初音ミクが大好きで「いつか公式にコラボレーションして作品を作りたい」とずっと思っていたそうなのですが、これまでは公式なコンタクトの方法が分からず諦めていたそうなんです。そのため、今回のオファーに二つ返事で「絶対にやりたい!」と快諾してくれました。多忙な彼女のスケジュールをぬってLA滞在中に電撃的にスタジオセッションが実現するなど、プロジェクト全体の勢いと熱量が引き寄せたミラクルだったと感じています。

織本:僕自身、これまで海外アーティストとのコラボ案件に関わってきましたが、ここまでスムーズかつ情熱的に話が進んだプロジェクトは過去に例がありません。それだけ初音ミクやボカロカルチャーというものが、海外のトップクリエイターにとっても魅力的で、独自性に溢れた存在として映っているのだと痛感しました。

「初音ミクの最大市場はアメリカだった」データと現場で確信した熱量

ーー今回のプロジェクトを通じて、海外におけるボカロカルチャーの想像以上の熱量を実感されたわけですが、データ面や現場の反響としてはどのような発見がありましたか。

織本:アニメやゲームとのセットであれば海外での需要はある程度予測できていましたが、初音ミクというバーチャルシンガー単体で、ここまで海外のトップクリエイターたちから一人のアーティスト・文化としてリスペクトされているとは想像以上でした。改めて、初音ミクのパワーを感じました。

長田:プロジェクトを進めるにあたってデータ分析ツールの「Chartmetric」などを用いて市場データを詳細に分析したのですが、そこで非常に興味深い事実が判明したんです。初音ミクのリスナーの国別ボリュームゾーンで最も大きいマーケットは、実は日本ではなくアメリカだったんですよ。

ーーアメリカが最大のマーケットだったのですか!それは驚きですね。

長田:さらにリスナー属性を分析すると、一番多い層が「10代後半から20代前半の女性」だったんです。実際にロサンゼルスで開催された「HATSUNE MIKU EXPO」のライブ会場に足を運んだのですが、8000人キャパの会場が連日ソールドアウトで、観客の多くが10代〜20代の女性たちでした。彼女たちはまさに今のトレンドを牽引するスタイリッシュな層として初音ミクのライブを熱狂的に楽しんでいたんです。

ーーマニアックなオタクカルチャーの枠を超えて、現代の最先端ポップカルチャー・オルタナティブカルチャーとして完全に定着しているのですね。

長田:まさにその通りです。SOPHIEやA.G. Cookをはじめとするハイパーポップの文脈とも深く共鳴しており、バーチャルシンガーと最先端エレクトロニック・ミュージックの相性の良さは、グローバルな若い世代の間で圧倒的な市民権を得ています。この手応えを得たことで「これは一時のブームではなく、未開拓の巨大なグローバル市場であり、未来の音楽シーンそのものだ」と確信しました。

ーー今回のプロジェクトで制作された楽曲群を収録したEPの楽曲選定やブラッシュアップのプロセスについてもお聞かせください。

長田:5日間のキャンプで本当にたくさんの素晴らしい楽曲が生まれました。その中からEPに収録する楽曲を選定したのですが、ドワンゴ様、僕らNebula17、そして現地のスタッフ全員の意見が「パンチ力とインパクトがあるのは間違いなくこの楽曲たちだ」と、驚くほど満場一致で決定したんです。結果として各ボカロPにつき2曲ずつ、最高のクオリティの楽曲をパッケージングすることができました。

ーー制作後のブラッシュアップや音作りの詰めはどのように行われたのでしょうか。

長田:日米のクリエイター同士が直接キャッチボールを行い、お互いのリスペクトのもとで徹底的に音を磨き上げてもらいました。日本のボカロPにとっても、海外トッププロデューサーによる音色の選び方や低音域の鳴らし方、ミックスのアプローチを体感されて、良い経験になったと思って頂いていれば、うれしく思います。

ーー楽曲だけでなく、公開されているMVやビジュアライザーといった映像表現・アートワークに関しても、従来のボカロ楽曲とは一線を画す洗練された海外アートカルチャーのエッセンスを感じます。クリエイティブ全般の枠組みはどのように設計されたのでしょうか。

織本:今回はプロジェクト全体のクリエイティブ統括として、世界で活躍する「ZOO AS ZOO」というクリエイティブエージェンシーに参加していただきました。ZOO AS ZOOは日系3世の女性起業家がファウンダーを務める会社で、エッジの効いたサブカルチャーから世界的なメジャーワークまで幅広く手がける素晴らしいチームです。

長田:日米双方のカルチャーの文脈を深く理解しているZOO AS ZOOが軸となり、楽曲ごとに異なる気鋭の映像監督やクリエイターをアサインしてくれました。様々なクリエイターの視点から描かれた「初音ミク」や作品世界が視覚的にも表現されており、音楽とビジュアルが高次元で融合した洗練されたクリエイティブが完成したと思っています。

「BEYOND BORDERs」は令和の「SUPER EUROBEAT」になり得るか

ーー楽曲、ビジュアル、プロジェクト構造に至るまで、あらゆる要素が高次元で昇華されたプロジェクトですね。EPは「Vol.1」と銘打たれていますが、今後の「BEYOND BORDERs」のさらなる拡張性や展望について教えてください。

織本:まず強調したいのは、この「BEYOND BORDERs」を1回限りの単発企画で終わらせるつもりは毛頭ないということです。ドワンゴおよびニコニコ動画の使命として、日本発のボカロカルチャーを絶やすことなく世界へ広げ、発展させ続けていくための持続可能なエコシステムを作らなければならないと考えています。

ーー具体的にはどのような展開を構想されているのでしょうか。

織本:現在、長田さんとも協議を進めていますが、今年度内にも新たな新曲やリミックス楽曲などのリリースを届けていきたいと考えています。さらに来期以降は、制作した楽曲やマーケティングを連動させ、ロサンゼルスの『Anime Expo』やニューヨークの『Anime NYC』をはじめとする全米都市を巡るような、一大フェス・ライブツアーの開催も視野に入れています。そしてゆくゆくは、レディー・ガガやビリー・アイリッシュといった世界最高峰のメガアーティストとのコラボレーションが実現する領域まで、このプロジェクトを高めていきたいですね。

ーー想像するだけで胸が高鳴ります。長田さんはプロジェクトの未来像をどのように描かれていますか。

長田:かつて日本の音楽シーンで一大ムーブメントを巻き起こした「SUPER EUROBEAT」のように、「BEYOND BORDERs」という名前自体を世界的な信頼と先進性を誇る一つの強力なブランドに育て上げていきたいと考えています。海外のリスナーから見ても親しみやすいポップさを持ちながら、中身には初音ミクという超ユニークでオーセンティックな日本のカルチャーが詰まっている。そうしたハイブリッドな進化系音楽を世界へ提示し続けることで、参加するアーティストやクリエイターが次々と集まってくるような巨大な熱源を作りたいですね。

■アルバム概要
BEYOND BORDERs vol.1『EMERGE M♡DE MIKU』
配信URL:https://lnk.to/emergemodemiku

収録曲数:全6曲
M1. Miku-Maxxing
M2.Party Monster
M3. Light
M4. All Across The World
M5. Choosy
M6. All Mine
参加アーティスト(海外):Grimes、slayr、MOLIY、Odetari、George Clanton、Frost Children、XAMIYA
参加ボカロP(国内):jon-YAKITORY、さたぱんP、picco

■プロジェクト情報
『BEYOND BORDERs』
主催:株式会社ドワンゴ
パートナー企業:Nebula17, Inc.
企画協力:クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

■「初音ミク」とは
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した、歌詞とメロディーを入力して誰でも歌を歌わせることができる「ソフトウェア」です。
大勢のクリエイターが「初音ミク」で音楽を作り、インターネット上に投稿したことで一躍ムーブメントとなりました。「キャラクター」としても注目を集め、今ではバーチャルシンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど多方面で活躍するようになり、人気は世界に拡がっています。
https://piapro.net/

■BEYOND BORDERs
公式X:https://x.com/BEYONDBORDERsPR
公式Instagram:https://www.instagram.com/beyondborders_pr/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@beyond_borderspr

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