オーディオ評論家・野村ケンジが深圳で見た、オープンイヤー市場を牽引するShokzの徹底したモノづくり

 骨伝導ネックバンド型イヤホンという新ジャンルを提案しつつ、同時にスポーツイヤホンという現代ならではのライフスタイルに即したユーザビリティを確立ーープロフェッショナル・アマチュア問わず多くのユーザーに受け入れられているのがShokzだ。近年は、骨伝導タイプだけでなく空気伝導タイプ(オーソドックスなドライバーユニットを使ったもの)のオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホンなどでも注目を集めており、いまや老舗オーディオメーカーやスマートフォンブランドに勝るとも劣らない存在となりつつあるのは確かだ。

 そんなShokzのモノづくりについて、2026年5月に現地を視察する機会を得た。中国・深圳本社での各担当者によるレクチャーをスタートに、ラボや製造工場など様々な施設を見学させてもらったのだが、そこには様々な驚きがあった。その様子をここでレポートしよう。

 今回のメディアツアーはShokzブランド15周年を機に世界中のメディア向けに開催されたインターナショナルなツアーだったが、総じて感心させられたのは2つ。「未来を見据えた明確な製品コンセプト」と「製品クオリティに関するこだわり」だ。

 まず、製品コンセプトに関しては「ユーザー本位のモノづくりを貫き通し長期的な視点の価値創造を追求し続けること」を矜持として掲げているのだという。これには、過去の経験が大いに関わっているようだ。

失敗から学び、ユーザー起点のブランドへ進化

 2011年にアメリカ・ニューヨークで設立されたShokz(当時の社名はAfterShokz LLC)は、翌2012年にはワイヤレス骨伝導イヤホンをリリースしたが、先進的な技術ゆえのトラブルや知名度の低さなどからか、販売実績は散々な結果だったという。その後、数年にわたり不安定なビジネスが続いたこともあり、ユーザーが求める製品を作り上げることを決意。音漏れの低減や音量の増幅、低音再生時の不快な振動の抑制など骨伝導技術そのものの改良に取り組み、音漏れを劇的に削減する「LeakSlayer」や、バランスの取れた音質を実現する「PremiumPitch」といった独自技術を開発。さらに、快適な装着感のためにチタンフレーム技術を取り入れた骨伝導イヤホン『Trekz』を作り上げた。

 この『Trekz』は発売直後から好評を得、その後8年間も販売され続けるロングセラーモデルとなったが、この経験がいまのShokzの製品作りに繋がっているのだという。もちろん、店頭で「実際に試聴してもらえる試聴機を設置」「販売員のトレーニングを行なう」など販売に対する地道な努力も同時進行で押し進めてきたが、競合製品に対して高い評価を得られる製品であること、そして、新たなる価値創造を常に目指し続けることがShokzらしさであり、これからも変わらず続けていくポリシーとのことだ。

「ここまでやるのか」──品質を支える徹底した検証体制

 そういったポリシーは、様々なテストを行なうラボや生産工場にも色濃く反映されている。そもそも、ラボも生産工場も、シリコンパーツの製造でさえも自社工場となっているのはいまや世界的にみて異例中の異例なのだが(普通パーツ製造は専門業者に任せるし、製品の組み立てすら社外に出すファブレスメーカーも多い)、Shokzではユーザーフレンドリーな製品を生み出すため、品質を確保するために自社工場をかまえ、自前での製造を行なっている。

 しかも、製品の品質に関しては、徹底したチェックが行なわれている。まず、全体を通しては材料入荷時、半製品、最終製品の3段階で品質管理を実施。特に不良が多発する傾向のあるパーツは、原材料の段階での検査を重視し、高い不良発生率を未然に防いでいるという。これは製造の効率化というメーカーとしてのメリットはもちろん、ユーザーにも不良品が少なくなるというメリットをもたらしてくれる。企業としてだけでなく、ユーザー視点のモノづくりが、こういった部分にも反映されているのだ。

 実際、深セン市内にあるラボを見学してみると、“ここまでやるのか”と感心させられるほど多彩で細やかなテストが行なわれていた。具体的には、汗耐性試験(国家標準に準拠した酸性・アルカリ性の人工汗(pH 4.3~4.7程度)を用いて、腐食、変色、コーティング劣化を評価)や化粧品耐性試験(日焼け止めなど市販の人気化粧品を製品に塗布し材料との相性や表面への影響を確認)、急速温度変化試験(-10℃から20℃への急激な温度変化を再現して材料のひび割れや破断を評価)、高温水域試験(80℃の高温で表面の起泡などを監視)、光照射試験(表面を照射して塗膜の劣化をチェック)、降雨試験(IPX4~X7相当の圧力・流量の試験)、防水解析(スライスして断面を解析し水の侵入経路を特定)、海水圧試験(海水を用いて水深50m相当の圧力下で防水性能と耐腐食性を評価)等々、単なるイヤホンメーカーとは思えない多数のテスト機器を導入し、徹底した試験が実施されている。

 また、防塵環境でのねじり(粉塵の侵入有無のチェック)や表面耐久(鉛筆で規定荷重をかけ傷の発生や剥離耐性を評価)、押下試験(物理ボタンに対し5000~10000回の押下げテストを実施)、ソフト圧試験(バッグ内での圧迫を想定しBluetooth接続の安定性を評価)、折り曲げ試験(10000回程度)、ハプティクス(ボタン触感)チェックなど、物理的耐久性試験なども行なわれており、耐久性とともに触り心地の変化などに関してもチェックされている。実際、ここ1~2年でShokz製品の品質が大きく向上していることを感じていたが、こういった多彩なテストを行なうことで、格別の品質を得ているのが理解できた。

品質は自社工場で決まる Shokz流ものづくりの現場

 また東莞にある生産工場でも、かなり洗練されたモノづくりが行なわれていた。大半の部分は専用機械による製造が行なわれていたが、ひとつひとつの工程で人間がチェックし、少しでも規定から外れるものは差し戻したり外したりと、完成まで徹底したクオリティ管理が行なわれている。ちなみに、当日訪れたラインでは、実際に新製品の『OpenDots Air』や『OpenRun Pro 2』などが製造されていた。いっぽうで、製造数に関しても厳密に管理されているなど、目標数を設定しつつ質は下げない生産が行なわれているのも興味深かった。安かろう悪かろうという、ステレオタイプなイメージのかつての中国の姿はそこには微塵も感じられなかった。

 そして、筆者はスケジュールの都合もあって訪問できなかったものの、Shokz製品にとってもうひとつのキモ、シリコンパーツを製造する工場に関しても紹介しておこう。Shokzのシリコン工場は深圳市と東莞市の中間あたりにあるのだが、ここではチタン合金ワイヤーを最新の独自シリコン素材「Internal Ultra-Soft Silicone 2.0」で包み込み、製品を作り上げる工程が行なわれている。ちなみに、Shokzが採用するシリコン素材は柔らかく、それでいてしっかりとした弾力を持つものが採用されている。ここに至るのにも経緯があり、ひとつ前の「Internal Ultra-Soft Silicone 1.0」ではかなり柔らかめな感触だったが、触感だけでなくホールド感や耐久性なども含めて現在のものに進化している。こういった、シリコンパーツの絶妙な造りもShokzならではの魅力といえる部分であり、自社工場が生み出した力なのだろう。

 このように、今回のメディアツアーでは、Shokzが世界的な水準で設計や製造を行なっている姿を垣間見ることができた。もう、モノづくりは国によって色眼鏡をかける時代ではない。どんな人たちが、どんな思いで行なっているかが重要なのだ。今後、Shokzは補聴器などのヘルスケア製品やスマートグラスなどにも関心を示している様子なので、未来にはそういった分野にもShokzクオリティの恩恵を享受できるかもしれない。そして、オーディオ評論家の筆者としては主軸たるオーディオ製品の更なる進化と驚きの新提案を、今後も大いに期待したい所である。

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