目指したのは「原点回帰」と「挑戦」 14年ぶりのシリーズ最新作『風来のシレン6』開発秘話

 「1000回遊べるダンジョンRPG」を謳う「不思議のダンジョン 風来のシレン」(シレン)シリーズ。その14年ぶりのナンバリング新作となったのが、『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』(シレン6)だ。

 プレイするごとにダンジョンが変わり、体力が尽きるとすべてを失うシビアなゲーム性で話題を博した「シレン」シリーズ。最新作『シレン6』は装い新たな3Dグラフィックを採用しつつ、シリーズ伝統の難易度と遊びやすさを両立させ、好調な立ち上がりを見せた。

 今回はそんな『シレン6』のSteam版リリースに際し、本作の開発を務めた櫻井啓介氏(ディレクター)と篠崎秀行氏(プロジェクトマネージャー)にインタビューを実施した。十数年を経て開発が動き出した経緯。生誕30周年を前にシリーズが再起した「シレン」の現在地とは。(龍田優貴)

※本文中は敬称略

『シレン5plus』の好調なセールスがシリーズ再起のきっかけに

ーーまずはソフト発売からDLC展開を踏まえ、一通りの開発を終えた今のお気持ちを教えてください。

櫻井啓介(以下、櫻井):たくさんのユーザー様に購入いただき、本当にうれしい限りです。『シレン6』は今年の1月にリリースしましたが、発売後も細かいアップデートを行いまして、結果的に完成度をかなり上げることができたかと思います。

篠崎秀行(以下、篠崎):私も櫻井と同じ意見で、多くのユーザー様に『シレン6』を遊んでいただけたことや、さまざまなフィードバックが得られたこともあり、それらの意見も含めより作り込めたと感じています。

 当初は「無料アップデートを準備しつつ、Steam版をリリースして終了」という風に考えていましたが、ありがたいことに想定以上の反響をいただきまして、有料DLCパックを急きょ制作する運びとなりました。作品のクオリティを底上げすることができ、とても感謝しております。

篠崎秀行氏

ーー『シレン6』は『 風来のシレン5 フォーチュンタワーと運命のダイス』から十年以上の歳月を経て発売されました。なぜ期間が空いたのでしょうか。

篠崎:14年の歳月こそ経ちましたが、その間にも「シレン」シリーズ新作の企画検討は何度も行われていました。しかし明確なゴーサインが出なかったのは、シンプルに予算面の問題が大きかったと思います。昨今はゲーム制作にかかる費用もどんどん高騰していて、新作を作るなら採算が取れる実績やプランが必要だったんです。

ーー14年の間に新作の話は挙がったものの、プロジェクト開始にいたる決め手が欠けていたのでしょうか。

篠崎:そうですね。はっきりと流れが変わったのは2020年ごろで、Nintendo SwitchとSteam向けにリリースした『風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス』の売れ行きが、我々の想定よりも良かったのが大きかったと思います。多くのユーザーさんに手に取っていただき、「シレン」シリーズに対するさまざまなご意見が得られたことで、ついに『シレン6』の開発に着手することができました。

風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス

「原点回帰」と「挑戦」を試みた14年ぶりの新作

ーー検討の末に開発が動き出したと聞きましたが、『シレン6』に込められたコンセプトをあらためて教えてください。

櫻井:『シレン6』は開発にあたって、特に「原点回帰」を意識しました。過去シリーズで複雑になってしまった仕様を見直し、「シレン」本来の面白さをどこまで詰め込むことができるかに注力しています。「ダンジョンに潜るたびに展開が違う」「やり直しが効かない緊張感」といった醍醐味をプッシュしつつ、「パラレルプレイ」や「神器」などの新要素も追加して、徹底的に作り込んだつもりです。

櫻井啓介氏

ーー前作と異なり、『シレン6』はグラフィックを一新することでシリーズファンから注目を浴びました。なぜ2Dから3Dへと舵を切ることになったのでしょうか。

櫻井:3Dグラフィック自体は、『不思議のダンジョン 風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!』や『不思議のダンジョン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参!』でも使われているので、グラフィックを変える挑戦は過去に何度もしていました。

 ただし当時フル3Dだとキャラクターの動きが遅かったり、ゲームプレイ中のテンポ感がいまいちだったりと、いろいろと課題があったのだと思います。なので「シレン」シリーズはいったん2Dグラフィックで作ってきたのですが、開発側の環境が整ったこのタイミングで再び3Dグラフィックの採用を決めました。

不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録

篠崎:少し補足しますと、『不思議のダンジョン2 風来のシレン』はスーパーファミコン用ソフトだったこともあり、さまざまな面を考慮して2Dグラフィックを採用したのが始まりです。そこから櫻井が述べたとおり、技術の進化やハードウェアの変遷などもありまして、「3Dでもきちんとシレンを作ることができる状況」が整ったという風に感じています。

 また新作ナンバリングが出ていない間も、「シレン」以外の「不思議なダンジョン」シリーズは何作品も開発を重ねてきました。そういったノウハウの積み重ねも含め、「今度のシレンは3Dでもいける」といった裏付けにつながったんだと思います。

ーー「原点回帰」を念頭に置きつつ、長年の夢でもあった3Dグラフィックを採用されたのですね。

篠崎:そうなりますね。とはいえ「シレン」シリーズはグラフィックの方式に限らず、クオリティを担保するためにかなりの作業リソースが必要です。

 たとえばモンスターをゲーム内で動かすだけでも、8方向のパターンを用意しなければいけないわけです。前作までに見られた「2D版シレン」であれば、移動や攻撃のモーションを細かくドットで描かなければいけません。なのでリテイクとなればドットを打ち直すことになり、作業量がどんどん積み重なっていきます。もしお手元に「シレン」作品をお持ちの方がいれば、あらためてグラフィックの描き込み具合を見ていただくと驚くかもしれません。

 一方で3Dを採用した『シレン6』は、ドットを打ち込む必要がないとは言え、さまざまな面で「2D版シレン」と勝手が違います。グラフィックを一新するからこそ現場では厳しめにチェックし、納得できるキャラクターモデルを生み出すため、何度も何度もリテイクを重ねました。

30年前から「シレン」は”動画映え”するゲームだった

ーー約14年ぶりのナンバリング新作ということで、シリーズ未経験者もあらためて「シレン」の名を知ることになったかと思われます。改めて、新規ユーザー層へ向けた取り組み等はございますか?

櫻井:そうですね。「シレン」を長年支持してくださっているユーザーの皆様に感謝しつつ、約14年ぶりのシリーズ新作ということもあり、初心者の方でも楽しめるよう「要素をシンプルに」という点を気にかけて作りました。

 また本作では力尽きてスタート地点に戻った際、シナリオが解放されて少しずつ物語が紐解かれていきます。そういった点も再びダンジョンへ潜るモチベーションになればと思い、意識して制作を進めました。

ーー「シレン」が誕生してから約30年が経ち、その間にゲーム業界も変化を遂げました。実況プレイやゲーム配信は流行のシーンですが、「シレン」シリーズはどのようなポジションにあると考えていますか。

櫻井:もともと、自分は「シレン」シリーズが“配信映え”するというのをすごく感じていたんです。それこそゲームの仕様上ハプニングが多いので、驚いて声が出てしまう場面も少なくありません。いろいろな意味でプレイヤーの自然なリアクションが見られるし、ダンジョンが毎回変わるからゲーム体験もそれぞれ異なります。ここ数年で盛り上がっているゲーム配信とマッチしていると言うか、やっと時代が「シレン」に追いついた気がしますね。

篠崎:力尽きるとすべて初期状態に戻る「シレン」のゲーム性は、決して万人受けするわけではなく、どうしてもプレイヤーを選ぶと思います。その反面「ダンジョンに潜るたびに流れが変わる」という仕様は、ゲーム配信やゲーム実況と相性が抜群だと思いますので、配信を見た人の中で100分の1でも「シレン」をやってみたいと思ってくれる人がいればうれしい限りです。

ーーPC向けに『シレン6』を展開するにあたって、Switch版と比べて差別化を図ったポイントがあればお聞かせください。

篠崎:ハードウェアのスペックがSwitchとPCで違うといった点はあるものの、Switch版とSteam版で差別点はほとんどないですね。

 もしマーケティング的な視点を取り入れるなら、Steam版のみの新ダンジョンや新キャラを入れた方がセールス面でも良い結果が得られるかもしれません。しかしSteam版を優遇すると、先にSwitch版を購入してくださったユーザーの方々を裏切ることになってしまいます。ですので、Steam向けの展開が決まった段階で、「内容は据え置きのままリリースする」ということを決めました。

 「Steam版はPCから直接ゲーム配信を行いやすい」という利点こそありますが、基本的なゲーム内容は変わらないので、みなさまの好みに合わせて選んでいただければと思います。

ユーザーの根強い声が「シレン」の明日に繋がる

ーー高難度ダンジョンの追加や各種UIの調整を含め、『シレン6』は発売後もさまざまなコンテンツが追加されてきました。中でも有料DLCによる「コッパ」と「アスカ」のプレイアブル化は話題を集めましたが、実装にいたった経緯をお聞かせください。

櫻井:「コッパ」と「アスカ」はどちらもクセのあるキャラですが、実装にいたった経緯としては、「違ったプレイ感を楽しんでもらいたい」という想いがありました。

 たとえばコッパの場合、敵も倒せないし道具も使えないという極端な状態からスタートします。一方のアスカは主人公のシレンよりも高火力を叩き出せる反面打たれ弱く、突然ピンチになる場面がわりとあります。そういう風に“ダンジョンの味変”と言いますか、一度クリアしたダンジョンを異なるプレイフィールで楽しんでいただければと思い、両キャラの制作に臨みました。

篠崎:「シレン」シリーズ全体を振り返ってみると、プレイヤーの度量によってダンジョンの捉え方が違うことに気がついたんです。初心者の方であれば最初のダンジョンでも難しく感じますし、何でも突破してしまう上級者の方も見受けられます。そういった意味で幅が広いゲームなので、コッパに関しては見た目も含め、「攻撃できない逃げ特化キャラ」という方向へ振り切りました。

 あとはアスカに関してですが、『シレン6』発売後に「外見だけでもアスカに変えて遊びたい」というみなさまの声をたくさんいただきまして。「そこまで言ってもらえるならキャラとして実装させたい」という話が開発チームで上がり、ゲームの寿命を延ばすという点でもプレイアブル化がベストな選択肢になったと思います。

ーー『シレン6』の展開を終え、来年で生誕30周年を迎える「シレン」シリーズについて開発陣から見た展望があればお聞かせください。

櫻井:2025年で「シレン」が30周年、そして自分も40歳になるという忙しい年ですが(笑)、『シレン6』が好評というのもありますし、Steam版の売上が最終的にどうなるのかといった部分でわくわくしています。この流れが「シレン」の次につながればいいなと思いつつ、そのあたりの仕込みも始めることができればと感じています。

篠崎:30年前、私は学生でただの「シレン」シリーズファンでした(笑)。そこから時間が経ち、ファンだったゲーム作品に携わることができていること自体、とてもうれしく感じております。

 「シレン」シリーズが今後どのように続いていくのかは、現時点でまだ分かりません。しかし私自身「シレン」が持つ独特なゲーム性が大好きですので、今後もどんどん世に送りだすことができればと思っています。みなさまの応援の声があってこその作品ですので、ぜひこれからも興味を持って、そして応援をいただければ幸いです。

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