『パワプロ2024』の不具合噴出は甲子園の影響も? メーカーに求められる“品質第一”の姿勢
7月18日に発売を迎えた『パワフルプロ野球2024-2025』(以下、『パワプロ2024』)が騒動を巻き起こしている。
コナミの主要IPから生まれた新作が直面している問題とは。概要から問題の本質と原因を考察する。
定番野球ゲームから2024年最新作が登場
「パワフルプロ野球」(以下、「パワプロ」)シリーズは、コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)が開発/発売を手掛ける野球ゲームだ。1994年発売の『実況パワフルプロ野球'94』を初作としており、2024年で30年の歴史を数える。第1作の発売以降は、選手データの更新やゲームモードの刷新などを盛り込んだナンバリングにあたるタイトルが年に1本ほど(開幕後のデータやシーズンの結果を反映した「開幕版」「決定版」などが発売された年は複数本。直近は1年おきに1本)のペースでリリースされてきた。野球好きのゲーマーにとっては、シリーズタイトルの発売が年に一度の風物詩のようにも扱われている。
今回発売を迎えた『パワプロ2024』は、前作『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』以来、約2年ぶりとなるシリーズの最新作。開発/発売元であるコナミは同タイトルを「シリーズ30周年記念作品」と銘打ち、「シナリオ」や「マイライフ」「サクセス」「栄冠ナイン」といったおなじみのモードにさまざまなパワーアップを盛り込んだ。
対応プラットフォームは、PlayStation 4、Nintendo Switch。価格は、通常版が8,470円、ダウンロード専売のパワフルエディションが10,670円(ともに税込)となっている。同版には、発売時よりダウンロードコンテンツとして配信されている歴代パワプロシリーズBGMセットと、パワプロ2024オープニング曲ブラバン(大阪桐蔭バージョン)が付属される。
不具合だらけでの発売で大騒動に。ファンとの関係性の希薄さがさらなる火種に?
騒動となっているのは、『パワプロ2024』の完成度についてだ。同タイトルではリリース初日から、「栄冠ナイン」や「パワフェスアドベンチャー」など、実装されているさまざまなゲームモードにおいて、特定の条件を満たすと進行が不能になるという致命的な不具合が相次いだ。特筆すべきは、これらのバグも氷山の一角である点。進行不能とまではいかないまでも、挙動や表記のエラー、「手抜きではないか」という指摘など、さまざまな報告が購入者からあがっている現状がある。
事態を受けて公式は、発売日である7月18日とその5日後の7月23日に、一連のバグについて確認できている事象を購入者へと共有。アップデートパッチを配信するとともに、1週間後の7月25日には、お詫びと今後のアップデートに関する案内を行っている。アナウンスによると、報告が完了しているバグについては、8月上旬に予定している第2回アップデート、もしくは8月下旬以降に予定している第3回アップデートによって解消へと向かうようだ。
ゲームカルチャーでは時折、特定のゲームタイトルにおいて、進行不能となる不具合が確認されるケースがあるが、今回のように1つのタイトルで多数の事例が挙げられることは稀である。だからこそ、公式は購入者に対し、早いタイミングでメッセージを発する判断に至ったのだろう。コナミにとって「パワプロ」シリーズは主要IPのひとつであると言える。即時の対応はある意味で、危機感の現れとも捉えられるのではないだろうか。
しかしながら、こうしたコナミの火消しが購入者の理解を得られているかと言われれば、少なくとも現時点では、諸手を挙げて首肯はしづらい状況がある。おそらくその背景には、シリーズの制作/販売に対するスタンスの影響があると考えられる。
先にも述べたとおり、「パワプロ」シリーズはこれまで、選手データの更新やゲームモードの刷新を施したタイトルを、1年に1度ほどのペースで新作として発売してきた経緯がある。それらは都度、フルプライス、もしくはそれに近い価格で展開されてきた。そうした商慣習に抵抗感を示してきたファンは決して少なくない。「なぜわずかにテコ入れされただけの、新要素がほとんど含まれていないタイトルを、フルプライスで買わなければならないのか」。シリーズとファンの関係性に詳しい人ならば、何度も目にした発言であるだろう。
本来、今回の騒動とシリーズの商習慣に対する抵抗感は別の問題であるはずだが、信頼関係を構築できていなかったことが理解が得られていない状況につながっているように感じる。もし蜜月の関係のうえに起こった出来事であったならば、事態は別の経過を辿っていたに違いない。
リアル事情を優先したことが騒動の原因か?
コナミにとって主要IPであるはずの「パワプロ」シリーズで、なぜ今回のような問題が起こってしまったのか。そこには同シリーズのゲームデザインが持つ特有の課題が影響しているように感じた。
「パワプロ」シリーズの各作品には、野球というスポーツを接点に、購入者が思い思いにその世界を楽しめるよう、さまざまなゲームモードが用意されている。そのうちのひとつである「栄冠ナイン」は、高校野球部の監督となって部員の生徒たちを育成し、全国高校野球選手権大会(通称:甲子園)での優勝と教え子のプロ入りを目指すモードだ。現実の世界において、これから迎えるお盆前後のシーズンは、全国高等学校野球選手権大会が開催され、盛り上がる時期として知られている。野球好きのなかには、この大会で行われた試合を観戦したことがきっかけで、野球ゲームをプレイしたくなった経験を持つ人もいるだろう。彼らにとって、「栄冠ナイン」はその欲をもっとも満たしてくれるはずのゲームモードである。だからこそ、コナミはそのような現実世界の事情によってニーズが増える前に、最新作である『パワプロ2024』を発売しておきたかった側面があるのではないか。
私は過去に行ったゲームクリエイターへのインタビューのなかで、「リアルの事情が発売予定時期に影響するケースがある」という旨の発言を聞いたことがある。実際に「パワプロ」シリーズの新作が夏にリリースされるケースでは、その大半が7月中旬ごろに発売日を迎えている。このような事情から、『パワプロ2024』は(制作陣がその不出来について認識しているか否かは別として)去る7月18日に発売されることになった可能性があり、結果として品質不足が嘆かれることになってしまったのではないか。
珍しい経緯を辿っている『パワプロ2024』の騒動だが、このような事例はおそらく今後も、ゲーム業界で時折起こっていくのだろう。たとえば、新作の発売日が決算時期やホリデーシーズンの影響を受けるケースは想像に容易いはずだ。しかしながら、もしそうした強引な発売によってリリースが失敗に終わるのであれば、それは購入者のためにもメーカーのためにもなっていないことになる。コンテンツの送り手には、クオリティファーストを前提にした計画的な制作、そして慎重な判断を期待したいところだ。
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