『マリオワンダー』に集まる高評価 面白さの源泉は「ゲームの本質」と「新しさ」の融合に?

 『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』(以下、『マリオワンダー』)が、10月20日に発売となった。

 ゲームカルチャーを代表する人気シリーズの最新作として、ファンの大きな期待を受けながらリリースを迎えた同タイトル。シリーズから横スクロール型の2Dアクションが発表されるのは、2012年にWii Uで発売となった『New スーパーマリオブラザーズ U』以来、11年ぶりとなる。海外の批評サイト「Metacritic」では、100点満点中の93点という高評価を獲得。SNS上でも、称賛の声が散見されている。

 本稿では、『マリオワンダー』に横たわる良質なゲーム体験について紐解いていく。

シリーズ最新作は、原点回帰の横スクロール・2Dアクションに

スーパーマリオブラザーズ ワンダー 紹介映像

 『マリオワンダー』は、シリーズの初作『スーパーマリオブラザーズ』の流れを汲む、横スクロール型の2Dアクションゲームだ。舞台となるのは、キノコ王国より遠く離れたフラワー王国。同国のフロリアン王子に招待を受け、パーティーを楽しんでいたマリオたちのもとに、大魔王・クッパが襲来する。不思議な力を持つ「ワンダーフラワー」に触れ、お城と合体したクッパを倒すべく、マリオたちは王子の協力のもと、フラワー王国を救出する冒険に出かける。

 特徴的なのは、今作から新たなパワーアップとして登場する「ゾウマリオ」「アワマリオ」「ドリルマリオ」と、各コースに設置され、手に入れることで地形やギミックなどを大きく変えてしまう「ワンダーフラワー」の存在。3Dのゲームデザインが当たり前となりつつある現代において、ともすると単調となってしまいがちな2Dでのゲーム体験に、これらの要素が新鮮な遊び心をもたらしている。

 価格は、パッケージ版が6,578円(税込)、ダウンロード版が6,500円(税込)。2023年10月6日には、同タイトルのリリースに先駆け、Nintendo Switch 有機ELモデルの新色「マリオレッド」も発売となった。

ゲームの根源的な面白さを再認識させる「ワンダーフラワー」の存在

 発売から1週間ほどが経過し、購入したプレイヤーの評判も出揃ってきた『マリオワンダー』。ざっと見るかぎりでは、発売前の注目度に違わない高評価を獲得している。同タイトルの面白さは、いったいどのような部分にあるのか。

 ひとつは、誰にでも楽しめるシンプルなゲーム性でありながら、さまざまな新しさを含んでいる点だ。その最たる例が、先にも述べた「ワンダーフラワー」によるコースの改変だ。「地形やギミックが変わる」と一般性のある言葉にしてしまうと、どうしてもその凄みが伝わりづらくなってしまうのだが、実際に起こる変化は、プレイヤーの予想の斜め上とも言えるもの。土管がSEに合わせて大きく伸び縮みしたり、登場する敵キャラクターが大挙して画面中に押し寄せたり、なかには敵キャラクターを含むコース全体がミュージカルショーのようになってしまうパターンもある。

 多くが視覚や聴覚といった五感に訴えかけるものだからこそ、そこには言語化しづらいワクワク感がある。「次はどんな変化が起こるんだろう?」。このように先の展開が楽しみになる感覚は、私たちが初めてゲームをプレイしたときに感じた心の動きと同質だ。変化を見たいがために、プレイヤーはコース中をくまなく巡り、「ワンダーフラワー」を探す。こうしたゲームデザイン上の精神的な誘導もまた、本来ゲームにあるべきものと言えるだろう。

 一方で、「ワンダーフラワー」がもたらす楽しさを助長するのが、「おしゃべりフラワー」の存在だ。「おしゃべりフラワー」とは、コース上の至るところに咲いている蓄音機風の花型オブジェクト。触れるたびに、ちょっとしたひとことをプレイヤーにかける。ゲーム中の大部分では、体験に色を添える程度しか関与しない同要素だが、「ワンダーフラワー」の獲得によってマップが大きく変化している最中は、プレイヤーの心の動きを代弁するかのようなリアクションを見せてくれる。このことが「もらい泣き」「つられ笑い」のように、驚き・楽しさにリアリティと新鮮味を与えている。

 「おしゃべりフラワー」が共感してくれるからこそ、プレイヤーの心の動きはより“正しさ”を増し、純粋な気持ちでいま画面上で起こっている変化を受け止めたり、さらには次の変化へと向かったりすることができる。この点もまた、受け手側の心理を巧みに誘導する制作側のうまさだろう。

 これまで多くのタイトルが発表されてきた「スーパーマリオ」シリーズだけに、代わり映えのしない内容であれば、食傷されかねない部分もあったはず。ゲームの根源的な面白さを追求する任天堂らしい要素によって、『マリオワンダー』の面白さは支えられているのではないだろうか。

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