マイクロソフトの強気の戦略はいつまで続くか

　マイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収は、ゲーム市場にどのような影響を与えるのか。もっとも分かりやすいのは、Xboxプラットフォーム以外で同社開発・発売のタイトルが遊びにくくなる点だ。

　先に述べたとおり、マイクロソフトは一連の動向のなかで、SIEや任天堂、Valve、その他ゲームサービスを展開する企業と、それぞれ契約を交わした。そこには、作品や時間を限定する内容が盛り込まれているため、近々でも一部タイトルが特定のプラットフォームに非対応となったり、将来的にはXboxのみでしか遊べなくなったりする可能性もある。人気のタイトル／シリーズを多く抱えるアクティビジョン・ブリザードだけに、ファンにとっては死活問題だろう。これまでなら手持ちの環境で遊べていたはずの同社の新作が、今後は新たなサービスに加入したり、場合によっては別のハードを購入しなくてはならなくなったりするというわけだ。ここにマイクロソフトの狙いがあるのではないか。

　アクティビジョン・ブリザードは10月10日、2024年を目処に『Call of Duty : Modern Warfare III』『Diablo IV』を、マイクロソフトが展開するサブスクリプションサービス「Xbox／PC Game Pass」へ追加する予定だと発表している。両タイトルは2023年10月現在、XboxプラットフォームやMicrosoft Windowsのほか、PlayStation 4、PlayStation 5、Steamでも発売されている。少なくとも今後は、リリースと同タイミングでGame Passに追加されたり、SIEとの契約に含まれていないタイトルがPlayStationを除くプラットフォームで展開されたりといった状況が生まれてもおかしくはない。その結果、高性能ハードや、ゲーミングサービスの選択肢は、同社発のもの一択となっていく可能性すらある。このような動向こそが、今回の買収が勢力図に与える影響の端緒だと言えるのではないか。

　莫大な予算を投じて、競合のプラットフォームから人気のタイトルを独占、もしくは有利に展開するやり方は、近年のGame Passをめぐる動きと同様であるとも言える。直近では、おなじく大手であるベセスダ・ソフトワークスの新作オープンワールドRPG『Starfield』が、発売初日から同サービスに対応したことも話題を集めた。

　一方、こうしたゲーム業界のトレンドには、少しずつ無理も生じ始めている。私は2023年10月に掲載された記事のなかで、「サブスクリプションサービスに吹く逆風」について取り上げた。第三者であるパブリッシャーが同サービスへのコンテンツの提供に対し、慎重な姿勢を見せているというものだ。2023年9月、アメリカのパブリッシャー・Devolver Digitalは収益性の観点から、そのような方針を明らかにした。識者によると、「サービス提供側がメーカーに支払う金額は、かつてほど多くはない」のだという。つまり、今後おなじ規模でサブスクリプションサービスが続いていくためには、ユーザーの獲得、もしくはサービスの値上げといった形で売上を最大化し、提供側がより多くの予算を投じられる環境を作っていくしかない。今後を見据えたマイクロソフトの戦略の一端が、話題作をGame Passにラインアップすることであり、アクティビジョン・ブリザードの買収（さらには、その先にあるタイトルの将来的な独占と、Game Passへの追加）であると言えるだろう。

　しかしながら、いつまでも青天井で予算を投入し続けられるわけではない。マイクロソフトの動向にかぎって言えば、ゲーム市場の勢力図を変え、“損益分岐点”を超えるのが先か、強気の戦略・方針を改めるのが先か、といったフェーズを迎えつつあるような気がしてならない。

　アクティビジョン・ブリザードの買収は、マイクロソフトの戦略・方針にプラスにはたらくか。今回の件はのちに振り返ったとき、ターニングポイントとして語られるような出来事となっていくのかもしれない。

画像＝Unsplashより