ファッションという“欲望”が持続可能なものであるために ミラノコレクションに7年連続で出展した中島篤が見つめる「VRとファッションの交錯点」

資金や時間、重力といった制約を取り払ったとき、一体どんな服が生まれるのか?

中島篤氏

――リアルクローズのVR化だけではなく、中島さん自身がオリジナルのバーチャルファッションの制作に取り組む可能性もあるのでしょうか?

中島:機会があれば、ぜひ挑戦してみたいです。現実の世界でも、私はやろうと思えば、多少無理のあるデザインでも形にできるという自負があります。その上で、VRでしか作れない服とはどんなものか。考えるとワクワクしますね。

 ちょうどいま、生分解性のポリエステル素材でできた服をコンポストに入れておく、という実験をしているんです。完全に分解される前に取り出したら、今までにない質感や風合いが得られるのではないか、と。これは思いつきですが、VRならば時間経過とともに分解されていく服、みたいなものも作れますよね。生分解の過程というか、時間の流れそのものを表現できる。時間や重力さえも制御できてしまうことがVRの面白さだと思うので、そのあたりに注目していくといいのかもしれません。

――ぜひ中島さんの手がけるバーチャルファッションを見てみたいです。 一方で、バーチャルファッションがどんなに普及してもリアルクローズがなくなるわけではありません。私たちと"衣服"の関係性は、今後どのように変化していくとお考えですか?

中島:これはデザイナーが言うべきことではないかもしれませんが――リアルクローズの消費量は減らしていくべきです。循環素材を用いた衣服を、できるだけ長く着る。環境のことを考えたら、そうせざるを得ないでしょう。その代わりにVRの世界で、自分の好きなアバターで、誰もがもっと自由にファッションを楽しめるようになる。そんな方向に進んでいけばいいなと思っています。

中島篤氏

――ファッション業界の仕組みも大きく変わりそうですね。

中島:ファッション系の専門学校でも、VR技術を学ぶことが当たり前になるかもしれませんね。でも、それは若手のファッションデザイナーにとってはいいことだと思います。というのも、リアルな世界で自分のブランドを立ち上げようと思ったら、とにかくお金がかかるんですよ。優秀な人ほどそれが計算できるから、逃げ腰になってしまう。

 VRの世界であれば、資金面での参入コストはずっと抑えられるはずです。まずはバーチャルファッションのブランドを立ち上げ、それからリアルクローズを展開していく。そんなデザイナーが頭角を現す日も、そう遠くはないはずです。いずれはバーチャルファッションがきっかけでファッションの世界に興味を持った、という世代も出てくるかもしれません。リアルとバーチャルが溶け合うことで、どんなファッションが生まれるのか。私自身も、クリエイションを燃やし続けていきたいですね。

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