『E3 2022』はなぜ中止に? 見本市を取り巻く逆風から考える、“ゲームを発表する場”の衰退
『Electronic Entertainment Expo(E3)』(以下、『E3』)を主催するエンターテインメントソフトウェア協会(以下、ESA)は4月1日、2022年の開催をオフライン・オンラインともに中止すると発表した。
かつては世界三大ゲームショウの一角として、大きな盛り上がりを見せた同イベント。2020年開催以来の中止は、新型コロナウイルスの影響が大きかった2年前とは異質のもののようにも思える。その裏にはいったいどのような事情があるのだろうか。ゲーム見本市を取り巻く事情から、衰退を見せつつあるE3の生存戦略を考える。
2020年以来2年ぶりの中止は、E3衰退の発露か
『E3』は、アメリカ・ロサンゼルスで毎年6月ごろに催される、世界的なゲームの見本市だ。初開催は、初代PlayStationの発売年度である1995年。以来、一時的な規模の縮小・開催地の移転などを経ながら、2019年までの15年間にわたり、絶え間なく歴史を紡いできた。2020年はコロナ流行の影響で中止となったものの、翌年2021年はオンラインに限定し存続。今年に関しては1月、コロナ禍の未収束を理由にオフライン開催を見送ると発表されていた。こうした経緯から前年同様「オンラインのみになる」との見方が大勢だったが、直前になり、オンラインを含めたイベントの中止が発表された形だ。
求められる変化への適応。E3は2023年、復権への道筋を示せるか
東京ゲームショウ、gamescom(ゲームズコム)とともに、世界三大ゲームショウとしてマーケットを盛り上げてきたE3。誕生から四半世紀のあいだには、その権威を示した栄光の時代もあった。かつては多くのメーカーが同イベントに照準を合わせ、新作を開発。場合によってはイベント用のトレーラーなども制作しながら、「よりセンセーショナルな展示・発表をE3の場で」という流れが業界のひとつのセオリーだった。東京ゲームショウ、gamescomを含めた3つの見本市のなかでも最も力を入れるべきものとして、メーカー・フリークの両方から注目をほしいままにしていた頃もある。
しかし、時代は移り変わり、近年は盛時の勢いを失いつつある。背景にあるのは、プラットフォーマー独自の発表の場の存在だ。たとえば、任天堂は数か月に一度、新作情報番組『Nintendo Direct』を配信している。2011年10月より続く同番組は、ここ数年で大きく浸透。見本市に勝るとも劣らないほどの注目を集める一大コンテンツとなった。
ソニー、マイクロソフトも同様に、『State of Play』『Xbox Wire』といった発表の場を抱えている。各社にしてみれば、“新作を発表するだけ”の目的であれば、高いコストを払ってまで見本市に出展する必要はないうえ、独自の接点ならば、認知されればされるほど、自社や開発・発売するハードのブランディングにもつながるメリットもある。インターネットや動画配信サイトのインフラ化により、見本市は“発表の場”というかつての価値を失っている現状だ。
『E3 2022』の開催中止は、こうしたゲーム業界の流れを受けてのものだろう。もちろんその裏には、コロナの流行という向かい風の存在もある。しかし、本当に価値を発信できるイベントなのであれば、オンライン・オフラインの形式にかかわらず、開催の存続を決定することができたはずだ。