エストニア、ラトビア、リトアニア……バルト三国がいま起業家に注目される理由とは?

 近年、スタートアップを設立しようと考える起業家にとって、バルト三国の魅力が急上昇しているという。

 コロナウイルスのパンデミック前から、バルト三国は起業家にとって魅力的な環境だということは何度も話題になっていた。しかし、パンデミックの逆境においても多くのスタートアップが生き残っている状況が明らかになり、より一層その良さが認識されるようになってきているようだ。例えばエストニアでは、2019年と比較して2020年の一人当たりのスタートアップ企業数が昨年より39%増加し、7.9社となった。実際に1100社以上の企業が集っているといわれ、この数字はヨーロッパ平均の4.6倍になる。ラトビアとリトアニアもそれぞれ14.7%、4.14%の増加を記録し、コロナ禍でも成長を続けていることが伺える。なぜ、バルト三国にこれほどスタートアップ企業が集中するのだろうか。

 バルト三国発のスタートアップ企業といえば何があるだろうか。まず誰もが知っている企業として挙げられるのは、エストニア発の「Skype」だろう。ラトビア発では、人工知能、ブロックチェーン技術、デジタル通貨のソリューションなどを主な事業とするスタートアップ企業「Bitfury(ビットフューリーグループ)」が有名だ。Bitfuryは6月10日に、日本初となるビットコイン・マイニングファンドを組成することを発表している。ラトビアでは「Bitfury」以外にも仮想通貨やブロックチェーンのプロジェクトが多く存在するという。リトアニアには、交通機関やシェアリングサービスを統合したMaaS(Mobility-as-a-Service)を提供する「Trafi」がある。TrafiのMaaSプラットフォームは、電車やバスに加え、電動スクーター・カーシェアリングなど、7種類以上の移動手段を考慮した移動サービスとしてベルリン市交通局が運営するMaaSアプリ「Jelbi(イェルビ)」として実用化され、Google、Apple、LyftやGojekモビリティ商品の強化にも利用。昨年には住友商事との提携も発表された。

 バルト三国のスタートアップ業界が盛り上がっている理由の一つに、政府のバックアップの強さが挙げられる。

 2014年には、デジタルアイデンティティシステム「e-Estonia」がエストニア国籍の有無に関わらず利用できるようになった(e-Residency)。e-Residency のおかげで、同国政府のポータルである「e-Estonia」を通して、エストニア国外にいても100%オンラインで新規事業を設立したり、さまざまなデジタルサービスにアクセスできるようになったのだ。「e-Estonia」のサイトによれば、エストニア政府は現在政府機関のサービスの99%をオンラインで提供しており、コロナウイルスへの対策にもこのシステムを活用してきたという。

 リトアニア政府は、国内でスタートアップを興すのを支援するため、EU圏外に住む人にもスタートアップ・ビザを発行している(リトアニア、ラトビアもスタートアップビザを発行している)。審査でビジネスアイデアを評価されると、申請した本人とその家族は最長2年間、スタートアプビザを利用してリトアニアに滞在することが可能になる。そのほかにもリトアニア銀行の指導と監督の下で、銀行のリソースを活かしながらスタートアップが事業を行える「サンドボックス制度」といったさまざまな支援が、起業家に対し行われている。

 ラトビア政府もスタートアップに対する支援は手厚い。ラトビアは、スタートアップ事業の活性化を推進する「スタートアップ法」を世界で最初に成立させた国の一つで、スタートアップ法を活用すれば「個人所得税0%かつ会社に再投資された資金の法人所得税0%」といった特典を申請することができる。さらに2020年9月の法改正では、「登録後5年以内に販売を開始していること」といった申請する際の条件が撤廃され、さらに、これまで対象外であった、海外に事業所を設立したスタートアップ企業についても、特典の対象となるなど、さまざまな改善がみられた。

 エストニア、ラトビア、リトアニア。大学受験で世界史を選択していた人には少し馴染みのある国々かもしれないが、それぞれ国内市場が小さいという特徴がある。そのため、これらの国に集まるスタートアップ企業は、起業当初から多国籍企業化・世界進出を前提に動いているところが多い。これから自分のアイデアを具体化させて世界に挑戦してみたいという起業家には、バルト三国がぴったりではないだろうか。

(画像はPixabayより引用)

〈Source〉
https://startupwiseguys.com/report/
https://thebridge.jp/2018/08/digital-innovation-in-the-baltics
https://synoint.jp/2020/10/lithuania-startup/
https://e-resident.gov.ee/become-an-e-resident/
https://www.eu-startups.com/2021/01/10-promising-latvia-based-startups-to-watch-in-2021/
https://labsoflatvia.com/en/news/what-do-the-changes-to-the-latvian-startup-law-mean
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000028720.html
https://thebridge.jp/2018/08/digital-innovation-in-the-baltics

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