TikTokとテレビは似ている? TikTok×『news zero』制作陣と考える「ニュースを動画で伝える」意味
「TikTokは“作る側の感覚を鍛えてくれる”場所」
――その試行錯誤のなかで、ほかに手応えを感じた動画はありますか?
那須:東日本大震災から10年となる日、3月11日の1週間前に、キャスター陣の家にある防災グッズを紹介してもらう企画を実施しました。TikTok上で話題になったニュースを紹介して一言添えるというよりも、企画としてキャッチーなもの、連続したシリーズものが多くの方に見てもらえるんだと感じました。TikTokはある種、生き物のようなものだと思っており、僕たちは編成上、事前にスケジュールを決めて制作するしかないので、悩ましいところではありますね。
――それらを受けて、TikTokチームはどうでしょう?
島田:テレビはある程度完成されたものとして若い世代にも受け取られているように思えるのですが、その完成された画面越しの人たちと距離感が近くなる体験は、すごくおもしろいなと思います。バラエティよりも人となりがわからないニュース番組の人たちのそういうところがTikTokを介して知ることができるというのは、ユーザーにとってもすごく響くものがあったのではないでしょうか。
高橋:有働さんの動画に関しては、私たちもあそこまで伸びるとは思っていませんでした。TikTokの特徴の1つであるレコメンドシステムは、コメントやユーザーのエンゲージメントによって支えられているところが多分にあるので、コメントによるツッコミポイントを入れていただいていたのは、非常に良かったと思います。そのほかのコンテンツですと、小栗泉さん(日本テレビ/解説委員)が「首相が出席するのは○○大学の卒業式?」というフリップを持ったクイズ形式の動画が面白かったです。ユーザーさんに考えさせて、コメント欄で議論が起こって交流が始まるというのは、数字にしっかりあらわれているなと思いました。
那須:ほかにもクイズ形式の動画があるのですが、なぜあの動画だけ再生数が伸びているのでしょう?
高橋:「卒業式」というワードがあることで、季節感的にもピッタリですし、自分の大学に来ていたのかもしれないという期待が「じぶんごと」化に繋がっていたりするのかなと分析しています。
那須:そうすると、同じクイズでも「じぶんごと」にしやすいように「就職試験に出る」や「新学期に使える」みたいな切り口のほうが広くリーチする可能性がある、ということですね。理解しました。
高橋:はい。「これはあなたに対しての動画ですよ」と伝えることでユーザーさんの再訪率なども上がっていくと思います。社会情勢やモーメントなどもあわせてコンテンツ化させていくというのは、ひとつの鍵になるのかもしれません。
那須:そう考えると、あらためてTikTokとテレビは似ているんだなと思いました。諦めずに頑張ってみようと思います。
――今後の課題や挑戦してみたい領域などはありますか。
那須:とりあえず思いつくことは全部試してみたいです。フットワーク軽く発信できるのがTikTokのいいところだなと思いますし、テレビと違うのは「外しても今のところそんな怒られないこと」なんで……(笑)。
井上:面白いことと学びがあることのバランスについては、色々と考えていきたいですね。30秒なり45秒の1コンテンツで、ひとつでもなにか感情が動くポイントがあるといいなあと思っていて。それがコメントを誘発させたり、友人と話すという行動に結びつく一助になるといいなと。ニュースはその洪水みたいなところがあるので、一滴くらいから波紋が広がるようなことができるといいですね。
島田:井上さんがおっしゃったように、ユーザーが考えるきっかけーーTikTokのコメントの中で必要な議論がどんどん起こるように誘発していただいて、『news zero』と一緒にTikTokのユーザーが考えていき、うまく循環することでコンテンツの制作にも反映できるようになるといいなと思います。
高橋:ユーザーさんとの関係性やコミュニケーションも非常に重要なので、コメントに対して動画でアンサーを返すことで交流をしていくということも、今後の展開として考えられそうです。TikTokのアカウントを見たユーザーさんが『news zero』さんや社会全体の動きに興味を持ってくれるように、土台作りをTikTok側ができればいいなと思います。例えばニュース番組を見るうえで、難しい用語や理解度が浅い単語があったとして、そこに対して「こういう覚え方をするといいですよ」のように、ニュースを見るうえで大事なワードを理解できるようなコンテンツもあるといいかもしれません。
那須:アンサー動画という仕組みを知らなかったので、畑下アナや小栗さんの回は必ずユーザーの質問に動画で答える、という形式も面白そうだなと思いました。こうやってお話を聞いていると「ニュースをじぶんごとに」という番組のコンセプトとの相性の良さを改めて感じますね。
たとえば『news zero』では、視聴者にニュースを「じぶんごと」にしてもらう工夫をしています。じぶんに影響のあるニュースだと思うとみてくれる。TikTokも同じでユーザーに関係ある動画だよと思わせるように、作り手も毎日工夫をしないといけないのでかなり鍛えられるし、若い層がどんなことなら「じぶんごと」にしやすいのか、などを知れるので大変勉強になると思います。自分に影響があることを示すだけで一気に関心が湧くという意味で、TikTokはそこを繋いでくれたり、作る側の感覚を鍛えてくれるプラットフォームでもあるなと思いました。
――前回は別の機会で『Update the world』についてのお話も聞きましたが、TikTokを含め、インターネットやSNS、配信サービスを介した取り組みについて、チーム全体はどのようなモチベーションで動いているのでしょうか。
井上:『Update the world』もTikTokもしっかり軌道に乗ってきてはいますし、番組を作りながら別の脳みそを使うことができているのは、地上波以外のところに思考を広げて考える良い鍛錬になっていると思いますし、これを続けることで番組本体に還元できるところもあるはずなので、しっかり継続していきたいです。