ヘドロに囲われた島でグラフィティ描くオープンワールド『SludgeLife』と、多才なコンポーザーdoseoneの魅力

 その楽しさを根本で支えている要素として挙げたいのは、doseoneの楽曲だ。近年、インディーゲームの楽曲で既存のゲーム楽曲とは少し違うヒップホップやシンセウェーブが起用され、大きな存在感を発揮している。その代表的な作品といえばSun Arawやperturbatorなどの楽曲が起用された『hotline miami』、最近だと『Travis Strikes Again:No More Heroes』のDJ aboも記憶に新しい。もちろんその他、須田剛一が手がけるゲームの楽曲や『ジェットセットラジオ』の影響も無視できないのだが、これ以上挙げてしまうとキリがなくなってしまうのでやめておく。

 doseoneはアニメーションを手掛けたり、詩人としてポエトリーCD、イラスト集を出版するなど、音楽以外の分野にも表現の幅を広げているアーティストだ。インディーヒップホップレーベル・Anticonの創設者であり、cLOUDDEADやThemselvesのユニットでも知られている。彼の音楽は縦横無尽で、一口に何かであると表現することは難しいのでまず聴いてみてほしい。アルバムやユニットごとに全く違う音楽が聴くことができるので、様々なアルバムに手を出してみることがオススメだ。

 doseoneがゲームのコンポーザーとして活動し始めたのは2013年の『SAMURAI GUNN』。本作では、和風の音色を利用したミクスチャーヒップホップを制作している。近年のヒット作で言えば『Enter The Gungeon』、その続編にあたる『Exit the Gungeon』でもコンポーザーをつとめている。主に銃を手にして敵をなぎ倒す暴力的な作品に参加することが多い。

 冒頭でも少し触れたが、Terri Vellmannとdoseoneの初コンビ作『high hell』も忘れてはいけない。このゲームではすでに『Sludge Life』につながるアートワークや空気感、操作性が形作られている。特にステージクリア時に出現する謎の自動販売機のシュールさは笑えてしまう。

 『Sludge Life』は、このような作品を支えてきたdoseoneのひとつの到達点だといっても過言ではない。過去の作品の中でも最も相性が良く、ゲーム内の世界を作るための最善の音楽に思える。現在『Sludge Life』はEpic Games Storeにて無料で配信されている。とにかく気になった方は、ダウンロードしていただきたい。今までのゲームとはひと味違う体験を提供してくれるはずだ。

 ゲームをプレイにあたってジャンルや制作会社、制作者などを基準に選択することが一般的だ。音楽を基準にゲームを選択するという行為は、音ゲーではあったかもしれない。だが、「doseoneの音楽からゲームをはじめる」的な手段が当たり前になったら、よりゲームの選択が豊かになっていくのではないかと私は思う。

■tnhr
主にゲーム関連の記事を執筆するフリーライター。ゲーム、女児アニメ、地下アイドルに強い関心を持つ。
Twitter:@zombie_haruchan

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