ヒメヒナが発揮した“多面的な魅力” ワンマンライブ『歌學革命宴』レポート

 2018年のデビュー以降コンスタントに動画/配信活動を行ない、YouTubeのチャンネル登録者数が55万人を越えるなど、VTuber屈指の人気者になった田中ヒメと鈴木ヒナによるVTuberユニット、ヒメヒナ。彼女たちが昨年1stワンマン「HIMEHINA 1st ONE-MAN LIVE『心を叫べ』」を開催した思い出の地・EX THEATER ROPPONGIで、リアルライブ『田中音楽堂オトナLIVE 2020 in TOKYO 「歌學革命宴」feat.鈴木文学堂』を開催した。


 VTuberの音楽活動は2018年以降、従来の「歌ってみた」動画に加えてオリジナル曲のリリースが一気に増え、リアルライブ/VRライブも開催数が急増。様々なバーチャルタレント/アーティストが活躍する状況が続いている。中でもヒメヒナは、代表曲として知られるオリジナル曲「ヒトガタ」のMVと、「劣等上等」のカバーの動画再生数が、現在までにそれぞれ900万回、1,200万回を超えるなど、音楽活動でも屈指の人気を誇る2人組だ。

 このライブは、田中ヒメが定期的に行なうアコースティックライブ配信「田中音楽堂」に、鈴木ヒナによる朗読劇「鈴木文学堂」を合わせたリアルライブ形式の特別編。普段は息の合ったコンビネーションを活かしたユーモアいっぱいの企画動画なども多数投稿する彼女たちが、ファンにはお馴染みのギターのDoraを筆頭に、キーボード、ベース/ウッドベース、ドラムが揃った4人編成の生バンドを迎えて、いつもとは違う “大人な”一面を披露する。

 まずは冒頭、オシャレになりたい!ピーナッツくんが影ナレーション役で登場。ヒメヒナの動画から彼の視点で面白い瞬間を切り抜き形式で紹介し、いよいよ本編がスタート。

 いつになく静謐なオーケストレーションやピアノに乗せて、田中ヒメが<僕らはひとつだと/未来を願って/歌うよ今/世界を>と、「ヒバリ」の本来の歌詞を変更して歌いはじめると、リズミカルなドラムが鳴り、まずは鈴木ヒナが登場。観客と一緒にライブのカウントダウンをはじめ、会場一体となった「田中」コールで袴姿の田中ヒメが登場した。ウッドベースも使ったジャジーな演奏に乗せて、「今宵人の世に立ち、歌うため箱の身を選んだ」と「ヒトガタ」の歌詞も一部引用しながら、ホーンを大胆に加えたジャズアレンジの「ヒバリ」でライブをスタート。天井に吊るされたシャンデリアを筆頭にしたステージ装飾や、フォーマルな衣装に身を包んだバンドの姿など、会場の雰囲気はさながらジャズクラブのようだ。

 以降もジャズやファンクを基調にしたこの日だけの“大人な”アレンジでライブが進行。序盤は「シャルル」を筆頭にしたボカロ曲のカバーが続き、スカアレンジに変わった「劣等上等」、エレガントな「乙女解剖」など、ひとつひとつの楽曲が原曲とは大きく変化したアレンジで歌われていく。また、田中ヒメとバンドメンバーが横一列に並んで演奏することで、ステージ上の全員に次元を超えた一体感やグルーブのようなものが生まれていた。

 中でも序盤で印象的だったのは、彼女たちの代表曲「ヒトガタ」。もともと、ヒメヒナの楽曲はロックやEDMを中心にしたトラックと、ハスキーでパワフルな田中ヒメの歌声と、より柔らかな鈴木ヒナの歌声とのコントラストが特徴となっており、MVなどをで見せるキレのあるダンスにも定評がある。また、たとえば「うたかたよいかないで」では〈過去を過ぎ去ると書かずに/駆けて来ると書いて読んだなら〉〈うたかた/の文字を蹴散らして/並べて/たたかう/にしようよ〉というフレーズが登場するなど、文学的な技巧を凝らして「人の心」を表現した歌詞も大きな魅力になっている。そして、初のオリジナル曲「ヒトガタ」は、「人型」「偽型」といったバーチャルな存在ゆえの言葉を加えながら、そんな2人の音楽の魅力を凝縮した楽曲として知られている。そんな楽曲だからこそ、生バンドにより洒脱な雰囲気に変わったこの日の「ヒトガタ」は、普段との振り幅を強く感じる瞬間だった。


 以降は4月15日に発売される1stアルバムのジャケットお披露目やZeppライブツアーの発表を経て、鈴木ヒナによる「鈴木文学堂」がスタート。彼女による朗読劇の導入部分と、ヒメヒナの2人で歌唱して観客のライトが一面琥珀色(オレンジ)に変わった「琥珀の身体」の演奏を経て、以降は鈴木ヒナの朗読と田中ヒメの歌が交互に行なわれ、「アイロニ」「地球最後の告白を」「I LOVE YOU」など、様々なカバー曲をオリジナルアレンジで披露。隣り合った朗読/楽曲の言葉が連動することで、全体を通してこの日だけの物語が立ち上がる雰囲気や、朗読/歌のそれぞれで繊細に感情を表現する姿はまさにこの日ならではだ。朗読中のBGMも生演奏で行なわれ、観客の静けさまでもが舞台演出のようになっていた。


 そして「鈴木文学堂」のラストでは、「生きるため箱の身を選んだ2人は、どうして生きているのか、どうしてここにいるのか、よく分からないまま、がむしゃらな旅を続けている。(中略)私の名前は、鈴木ヒナ。いつも隣にいるのは、田中ヒメ。目の前に広がるみんなの笑顔と、白い光が教えてくれる。今この場所こそが、ずっと探していた夢景色なのだ、と」と、鈴木ヒナが朗読を終えた途端、観客のライトが一面真っ白になり、ファーストワンマンライブの光景を歌詞にしたアルバム収録予定曲「夢景色」がスタート。2人がお互いに向き合ったあと、観客の方を向いて立ち上がり、「見渡す限りの光の畑/ここにいてと言われた気がしたんだ」と歌う様子は、音楽と朗読劇を融合させたこの日のハイライトだった。

 以降は袴姿のまま2人のライブがはじまり、カッティングギターを活かしたファンクに変貌した「夜咄ディセイブ」では2人と観客がジャンプ。続く「あいがたりない」では、2人が「みんなまだまだ声出せますか?」「大丈夫ですか?」と伝えたあと、原曲ではミライアカリのレコーディング時の声が挿入されていた「大丈夫です」というフレーズを2人で揃えて「あいがたりない」を披露。「ララ」ではイントロから観客の合唱が生まれた。

 本編最後は、昨年の1stワンマン直前に公開された「うたかたよいかないで」。「別れ」と「心からの感謝」の歌が、終わりが近づくライブの風景と絶妙にリンクする。

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