Drake、Diploも参戦のゲーム実況 eスポーツの波に乗り、ゲームは時代のメインストリームになるか
日本を代表するポップシンガーである宇多田ヒカルが、歌番組でゲーム『テトリス』の腕前を披露して話題になったのを覚えているだろうか。その後も彼女はテトリス大会に出場、ニンテンドーDSのCMに出演と、ゲーマーとしての一面を我々に見せ続けてくれた。そして当時の世間のリアクションは、「芸能人なのに!」「人気歌手なのに!」、そして「女の子なのに!」という類のものだった。
それから20年近くが経とうとする今、ゲームを取り巻く状況は大きく変わった。それを思わせるのが人気ゲーム『Fortnite』(フォートナイト)をめぐる熱狂だ。Fortniteは大勢のオンライン・プレイヤーたちが徐々に狭くなるフィールドの中で武器や建築素材を集めながら、生き残りをかけてお互いに戦うという「バトル・ロワイヤル」形式のゲームだ。無料でプレイできることもあり、世界中で数百万人が同時にプレイする大人気ゲームとなっている。またこのゲームは、歌手やDJ、メジャーリーガーといった有名人がプレイしているということでも何度も話題になっている。
そんな中でも先日、大きな話題になったのが人気ラッパーのDrakeの参戦だ。ゲーム・プレイはストリーミング配信され、それを60万人以上がストリーミング視聴している。録画されたプレイ映像はYouTube上だけでも660万回以上再生されているのだ。
こちらはFortniteプレイについてツイートする、人気音楽プロデューサー・DJのDiplo。
これはゲーム・メーカーたちがプロモーションのために有名人かつゲーマーという”珍しい”ケースを起用している、というわけではない。多くの有名人たちが、既にヘビーゲーマーなのだ。こちらのFortuneの記事タイトル、なんと「Fortnite中毒はメジャーリーグにおける問題になりつつある」だ。本業である野球に支障をきたしており、集中するためにFortnite絶ちを行っている選手の話が紹介されている。
宇多田ヒカルがゲームをして育った90年代と比べると、ゲームに対する世間の印象はすっかりと変わった。テトリスのようなパズルゲームも含めると、スマートフォンでゲーム・アプリで遊んでいない人はかなり珍しい存在だろう。カジュアルなゲームがスマホを通じてどんどんと普及し、ゲーム自体の垣根を下げる一方で、専用コンソールやPCを使ったゲームのプレイヤー人口も増え、マーケットは爆発的に拡大している。
SuperData社の発表ではFortniteは4月だけで2億9600万ドルの収益を出し、コンソール、PC、モバイルにおける消費者のデジタル・ゲーム消費全体は4月だけで90億ドルを越えている。ちなみに前年の4月は74億ドルだった。eスポーツ大会は規模も賞金もますます大きくなる一方だ。人気プレイヤーたちのゲーム実況ビジネスを支えるTwitchは、ゲームプレイ配信に対する広告収入だけでなくオーディエンスから直接お金を受け取るシステムも導入され、「ビジネスとしてのゲーミング」をどんどんと拡大させている。前述のDrakeがFortniteを一緒にプレイした、26歳の人気ゲーマーNinjaはなんとTwitchだけでも毎月約4000万円弱の収入を得ていると報道されている。先日開催された世界最大のコンピューター・ゲーム見本市E3と同時に開催されたのが「Fortnite at E3 Pro Am」というFortniteのトーナメントだ。これには50人のプロのストリーマーと50人の他ジャンルの有名人が参加した。こちらで参加者のリストが見られるが、多くの役者、歌手、NBA選手、ラッパー、UFCファイターが参戦している。
一人一台、高性能なデバイスを持ち歩くようになった現代において、今後はますますゲームが身近な存在になっていくだろう。それと同時にeスポーツをさらに成長させようとする業界が、ゲーム業界の外から有名人を起用する機会が増えるだろう。逆に本業のプロモーションにゲーミングを取り組んでいくアーティストやタレント、プロアスリートも増えると予想される。既にプロ・サッカーチームがプロモーションのためにeスポーツのプロ・ゲーマーと契約を結ぶといった例が出てきている。ゲーム業界外の有名人や大手ブランドとのコラボレーションでさらにゲームがメインストリーム化することは確実だろう。
■塚本紺
ニューヨーク在住、翻訳家・ジャーナリスト。テック、政治、エンタメの分野にまたがる社会現象を中心に執筆。参加媒体にはDigiday、ギズモード、Fuze、GetNavi Webなどがある。
Twitter:@Tsukamoto_Kon