坂口健太郎主演『シグナル』に見るTVドラマの最先端 映像から作劇まで、制作の工夫を読む

 坂口健太郎が初主演を務めるドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系/関西テレビ制作)の評判が上々だ。テレビウォッチャー(毎日2400人から回収)の満足度調査では、5段階評価で満足度3.74を記録(高満足度の基準は3.7)。SNSでは、主演の坂口健太郎の鬼気迫る演技や、ゲスト出演した長谷川京子の悪女ぶりが話題となったほか、スピーディーな展開や主題歌を評価する声も多かった。

 17日に放送された第2話では、刑事・三枝健人(坂口健太郎)らが、15年前の女児誘拐殺人事件の真犯人と目される看護師・圭子(長谷川京子)を、取り調べによって時効までに自白させようとする様子が描かれた。さらに、この事件から数年後に長期未解決事件捜査班が発足し、警部補となった三枝健人が配属されることに。謎の無線機で過去を生きる刑事と通信ができる三枝健人は、次回から本格的に長期未解決事件を解決していくのだろう。

 今後、さらに盛り上がりそうな『シグナル』。その魅力を、改めて制作面の工夫から読み解いてみたい。

カラーグレーディングによる映画のような映像

 『シグナル 長期未解決事件捜査班』を見てまず驚くのは、映像がまるで海外のサスペンス映画のように暗く沈んだルックになっていることだ。このルックは、映像の色味を調整するカラーグレーディングと呼ばれる技術によるもので、鑑賞者の心情を誘導する効果がある。特にハリウッドでは長らく研究されている技術で、たとえばロマンス映画では暖色系の赤いトーンが、ホラーやサスペンスでは青いトーンに調整されることが多い。民放の連続ドラマでは、2009年の『MR.BRAIN』で初めて、デジタル技術を駆使した全編ノンリニアカラーグレーディングが行われたとされている。(参考:Lustre による全編グレーディングが、 TBSドラマ「MR. BRAIN」の印象的なルック作成に貢献

 『シグナル』が高い緊張感を持続し、作品全体にシリアスな雰囲気を生み出すうえで、カラーグレーディングが果たしている役割は大きいだろう。加えて、同作ではドローンによる空撮やCGなどの最新技術もさりげなく、しかし効果的に用いられている。第2話では、過去が変わったことによって、主人公らが手にした写真や文字も変わっていく様子が、CGでリアルに表現されていた。本作はSF的要素を含んだドラマであるため、今後もさらに印象的な映像技術が見られるかもしれない。

クリフハンガーを重視した海外ドラマのような展開

 『シグナル』の第1話では、捜査によって女児誘拐殺人事件の真犯人と目される看護師・圭子に辿り着くまでが描かれ、彼女を逮捕できるのか否かは翌週に持ち込まれた。いよいよ大詰めというところで話を終了し、次回への期待を膨らますのは、クリフハンガーと呼ばれる作劇手法の一つで、近年の海外ドラマのサスペンスでは使っていない作品を探す方が難しいほど一般化している。

 日本のテレビドラマでは、途中から見ても話についていける一話完結のサスペンスが主流だが、『シグナル』は第2話の半ばまで第1話の事件を引っ張り、開始から20分近く経ってからオープニング主題歌が挿入されるという変則的な作りとなっており、海外ドラマのクリフハンガーを意識していることが伺える。一話完結であれば全話を観る必要がないため、リアルタイムの視聴率を稼ぐのに効果的だとされているが、ストリーミングサービスの普及や見逃し配信によって視聴環境が変化している現在では、視聴者は必ずしもリアルタイムでTVを見る必要はなく、『シグナル』のような作りもまた成立するのではないだろうか。まとめて一気に見る“ビンジウォッチ”であれば、むしろ後者の方が見応えがあるはずだ。

 さらに『シグナル』では、インターネット限定で「チェインストーリー」と呼ばれる短編を公開している。「チェインストーリー」は各話の間にあったこぼれ話を映像化したもので、作品の世界を拡張することに一役買っている。テレビ放送の枠組みだけでは描けないものを、インターネットを使って配信する手法は、両メディアの特性を考える上でも興味深い。

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