『ブラッサム』珠の初恋にまさかの結末 石橋静河の涙と「はるがきた」に滲む切なさ
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第3週「化粧と、初恋」で、珠(石橋静河)は島村(工藤阿須加)との初恋、そして失恋を味わうこととなる。週始めの第11話と週終わりの第15話を繋ぐのは童謡「はるがきた」。尋常小学校の代用教員として働くことになった珠が小学校への道で心弾ませながら口ずさんでいた「はるがきた」が、教師をクビになった挙句、島村から拒絶された帰り道に珠の大粒の涙とともに悲しく響く。
児童の模範になるべき立場の教師が逢い引きというふしだらな行為を行っていると、謹慎処分をくらった珠。1カ月が経っても音沙汰がなく、連絡を待ち侘びた珠が、学校に行ってみると、そこには別の女性教師が授業を教えていた。ばつが悪そうな島村を教室に返し、上野教頭(阪田マサノブ)が正式に珠へとクビを通告する。大正の始め、まだ教員同士の恋愛は御法度。男は見逃されお咎めなし、女の方だけが免職という罰を受ける判断を学校は下したのだった。
どこで間違ってしまったのか。月明かりの井戸端で珠は「うち……人を好きになっただけじゃ」とリョウ(国仲涼子)につぶやく。島村はどう思っているのか。もう一度だけ会って話がしたいと珠は島村に手紙を書くが、返ってきたのは「この手紙が私たちの最後です」という絶縁を図る島村からの返事だった。ここで怒りに身を任せたり、嘆き悲しむのではなく、「これじゃあ、何も分からん」と本心を聞きに、たまらず島村の元へと駆け出すのが珠である。
これまでとは異なる険しい声色で「全部間違いじゃった」と珠を拒む島村。戸を開け近所に目をやる仕草からも、これ以上事を荒立てたくない、自分はこのまま教師でいたいという思いが滲み出ている。珠を拒み、持ち込まれた調理道具を押し付け、「帰れ!」と珠を突き飛ばす島村。珠は包みからこぼれた包丁を拾う。島村との楽しいひと時が蘇る珠に対して、軽く錯乱状態の島村は包丁を握る珠を見て「正気じゃない……正気じゃないわ!」と腰を抜かしながら叫んだ。
包みを抱き、とぼとぼと帰路を歩く珠。新学期、希望に胸が弾んでいた「はるがきた」は、どんよりとした今にも途切れそうな歌声となっている。けれど、へこたれない、力強さも感じさせる歌声へと短い間にも変化を見せていく。歌い終わりに、石橋静河の右目からぽろりと溢れ出す大粒の涙も素晴らしかった。
なお、宇野千代の自伝『生きて行く私』(角川文庫)を読むと、朝鮮からの土産物に母に買っていた包丁を錯乱した佐伯=島村が、短刀と見間違え自分を脅すつもりだったと勘違し、拒絶されるという展開。このキーアイテムである包丁を、料理のしない島村のために珠が持ち込んだ調理道具の一つにしたのは見事だ。
珠の初恋が幕を閉じても、町中に広まった悪い噂が消えるわけではない。第4週「岩国と、共に」の予告では、「岩国を出るわ」という珠のセリフもあり、第1週で珠(加賀まりこ)が秘書の藤川優子(松たか子)に言った「私はここから逃げた人間なの」に繋がってくる。
10月14日に『ブラッサム』主題歌である、YOASOBI「咲き誇れ」がリリースとなった。これまでも星野源「アイデア」やRADWIMPS「賜物」といった、全編を通すことでまったく違った表情を見せる楽曲は数多くあり、今回の「咲き誇れ」もその例に当てはまる。ただ、メロディーや雰囲気がガラッと変わるのではなく、約90秒もしくは70秒の朝ドラサイズを活かしながら、何度も歌声が、メロディーが咲き誇る、見事な4分6秒へと昇華されている。放送前に開かれたマスコミ向けの会見にて、YOASOBIの2人とともに同席していた制作統括の村山峻平チーフ・プロデューサーは「咲き誇れ」の制作において、レコーディングスタジオに訪れるなど密にコミュニケーションを図りながら、朝ドラサイズのバージョンを作っていったことを明かしていたが、それがひしひしと伝わるテイク、メロディー構成となっている。『NHK紅白歌合戦』への出場と『ブラッサム』とのコラボレーションを期待せずにはいられないが、同時にやがて訪れる『ブラッサム』の山場でかかるかもしれない「咲き誇れ」の大サビを想像すると、胸に来るものがあった。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK