『ブラッサム』渡部篤郎が生き抜いた“清治”という男 制作統括が“最期”の真意を明かす

石橋静河が主人公を演じるNHK連続テレビ小説『ブラッサム』は、作家・宇野千代をモデルに、激動の時代を自らの意思で生き抜いた女性・葉野珠の生涯を描くオリジナルストーリーだ。
第2週の最大の山場となったのが、圧倒的な存在感を放っていた珠の父・清治(渡部篤郎)の死である。清治は、雨の中に幼少の珠(村上蘭)を裸足で買い物に行かせるなど、かなり厳しい父親として描かれていた。しかし、制作陣は彼を単なる「ひどい父親」として描くことはしなかった。制作統括の村山峻平は、時代背景に対する思いについて語る。

「あの時代は、女性がものすごく制限されている世の中でした。しかしその裏で、男性はどうだったのか。家父長制や長男優位主義が圧倒的にある中で、嫡男として家を継がされた人間が本当に幸せになれるのかと言えば、必ずしもそうではありません。そこから自由になりたいという清治の渇望は、あの時代においては『違う人』であり、自分勝手に見えるかもしれない。でも清治は、自分が成し得なかった自由を珠に託していたのかもしれない。渡部さんは、清治の中にある息苦しさやこぼれ落ちていくものを、変に自分を美化したりなすりつけたりすることなく、本当に集中して演じてくださいました」(村山)
病に冒される清治の前に「もう一人の清治」が現れるという演出。実は、この展開は当初の台本にはなかったものだという。
「演出の盆子原誠と脚本家の櫻井剛が話し合う中で出てきたアイデアです。清治の『なりたかった自分』『もう一人の自分』を最後に表出させないと、視聴者も消化不良になってしまう。ギリギリ分かるか分からないかという、絶妙な演出になりました」(村山)

また、宇野千代の自伝的小説『生きて行く私』(角川文庫)においては、父親の最期について、大雪の中で包丁を振り回す姿が描かれているが、そこにも絶妙なアレンジが加えられた。
「ドラマではパラパラと降る雪にしています。いなくなった後、残された家族がどう清治を受け止めて次へ向かっていくかを考えたとき、やはり『春』という世界観、春の雪というニュアンスで見たいなと思ったからです」(村山)
セリフが少ない中で、言いようのない陰影と凄みを出せる俳優として起用された渡部篤郎。村山は、カメラが回っていないところでの渡部のプロフェッショナルな素顔に感銘を受けたという。

「『俺はできるぞ』とひけらかすことは決してありません。難易度の高い乗馬のシーンも練習なしでサラッとこなしてしまいますし、病床のシーンでは子役の負担にならないよう、裏で動きを優しく教えてあげていました。渡部さんが自然とそういう環境を作ってくれるからこそ、俳優部もスタッフも『渡部さんのために良い画を撮ろう』と集中力が高まる。現場に素晴らしい一体感を作ってくださいました。亡くなるシーンに向けて減量をされていたのかどうかは分かりません。仮にしていても『俺、減量したんだよね』とは絶対に言わない方ですから」(村山)
そんな渡部は、清治が退場するシーンの撮影前日、主演の石橋静河と密に会話を交わしていたという。
「これまでの清治と珠の距離感の中で、あのシーンでどう心が通じるのか、あるいは通じないのか。計算ではなく、自然にお互いの信頼関係の中であの空気感が生まれたのだと思います」(村山)
予定通り第2週で退場となった渡部だが、清治の存在感はこの後も珠の中に残り続ける。今後の展開について、村山は「宇野千代さんの人生をそのままトレースするのではなく、あくまで『葉野珠』という主人公のオリジナルドラマとして丁寧に描いていきたい」と力を込める。

「ドラマを作っていく中で、毎日流れるタイトル映像の見え方が、その日の物語によって変わることに気がつきました。それは、俳優陣のお芝居が素晴らしいからこそ、タイトル映像の珠を見て『咲き誇れ、私でいいんだ』と思えるということです。理屈ではなく、感情で動かされる。それこそがドラマというコンテンツの凄さなのだと改めて感じています」(村山)
圧倒的な父の死を乗り越え、珠の人生はここからさらに大きく動き出していく。亡き父の残した複雑な思いを胸に、珠は今後どのように自らの人生を獲得していくのだろうか。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK





















