実写映画『ルックバック』リピート鑑賞で気付かされる“原作との違い” 音が生み出す身体性
藤本タツキによる同名マンガを原作とした実写映画『ルックバック』では、『万引き家族』(2018年)や『怪物』(2023年)などで知られる是枝裕和が監督・脚本・編集を手掛けており、その作家性が驚くべき化学反応を起こしている。
本稿では実写映画版の演出を詳しく分析し、原作との“見せ方の違い”を浮き彫りにしていきたい。
実写映画『ルックバック』の設定やストーリーは、藤本による原作マンガを忠実に汲み取ったものとなっている。
物語の主人公は、藤野と京本という2人の創作者。小学校の学年新聞に4コママンガを載せていた藤野は、圧倒的な画力をもつ同級生・京本の存在に触発される。やがて2人は一緒にマンガを描くようになるが、京本が美大に進学することを決めたことで、別々の道へ。しかしプロとして連載を始めた藤野のもとに、思いもよらない連絡が飛び込んでくる……。
たんなる創作行為の全肯定ではなく、作品が他人にもたらす影響の大きさについて、ポジティブとネガティブをひっくるめて描いているのが同作の独創性。実写版はそうしたテーマ性を引き継ぎつつ、物語を新たな角度から描き出している。
たとえば原作との違いで目立つのは、キャラクターに生々しい身体性が付与されている点だ。序盤では子役の七瀬ふうりと岡田六花によって、小学生時代の藤野と京本の姿が生き生きと演じられている。
また廊下を走って怒られたり、放課後に買い食いをしたりするところなど、原作にはなかった学校生活の描写がいくつも登場。そのほか2人が連れ立って山に取材に行ったり、海ではしゃいだりする描写などもあり、創作者としての顔だけでなく、“普通の子ども”としての顔を映しだす意図を感じられた。
さらに印象的なのは、“音”という要素だ。紙の上で線を引く音が繰り返し響いており、藤野と京本の身体と結びついた、地道な努力の重みが表現されている。
こうした演出には、是枝監督の作家性が色濃く反映されているように思われる。是枝監督といえば食事シーンや料理を作るシーンの多さに象徴されるように、生活に根付いた身体のあり方を丁寧に描写しようとする作風だ。今回の映画『ルックバック』ではその演出によって、登場人物たちがあらためて血肉の通った存在として描き直されていた。
そもそも原作者の藤本自身、キャラクターの身体性をとても重視するタイプの作家だ。だからこそ是枝監督による演出が空回りせず、むしろ原作の魅力をより強化する方向に作用しているように思われた。
また、もう一つ大きな原作との違いとして、“京本の目線”を前景化していることが挙げられるだろう。原作やアニメ版は基本的に藤野の目線で物語が綴られており、受け手が感情移入するのもどちらかといえば藤野の側だった。しかし実写版では、京本が藤野との出会いで何を得たのか、なぜ美大進学を決断したのかということがより詳細に描かれている印象だ。
これを象徴するようなシーンが、終盤に登場する。京本の部屋に足を踏み入れた藤野は、京本が手掛けてきた風景画の数々を目にするのだが、そこで目まぐるしいイマジネーションにいざなわれるのだ。
この場面は久野遥子によるロトスコープアニメーションによって表現されており、まさに鮮烈の一言。思い出のなかの藤野と京本に生命の躍動が与えられており、物語の結末に大きな意味をもたせる名シーンとなっている。
是枝監督の作家性や役者たちの演技、久野のアニメーションなどによって、新たな息遣いを与えられた『ルックバック』の物語。藤野と京本が生きた世界に、別の角度から深みが与えられており、強い意義を感じさせる実写化となっている。原作を読み、衝撃を受けたことがあるファンにこそ鑑賞してみることをオススメしたい。
■公開情報
『ルックバック』
全国公開中
出演:出口夏希、蒔田彩珠、七瀬ふうり、岡田六花、菅田将暉、宮藤官九郎、野呂佳代、池田良、佐々木みゆ、山田真歩
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:坂東祐大
撮影:上野千蔵
企画・プロデューサー:小出大樹
後援:秋田県にかほ市
配給:K2 Pictures
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社
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