永作博美が“希望”を与える存在に 『時すでにおスシ!?』が伝えるポジティブなメッセージ

 もちろん、機械などがシャリを握る回転寿司チェーンや、スーパーマーケットのパック寿司のように、廉価で手軽に味わえる、大衆的な値段での提供は、いまもおこなわれている。「すしアカデミー」のようなカリキュラムは、伝統的な技術を短期間で指導するという意味で、寿司職人になる敷居を低くすることに繋がるはずだ。将来的に卒業生が専門的な研鑽をさらに積んで芸術的な方向に行くか、それとも多くの人に楽しめるような寿司づくりに尽力するかは分からないが、いずれにせよ徒弟的な寿司のベーシックな技術を広く開放することには、意義があるだろう。

 だが海弥のように、長年の修行や下働き時代を経てきた人物からすると、そんな短期間で技術を習得させることには、葛藤もあるのではないか。そこを割り切って考えるとしても、完成度の点でアカデミーのカリキュラムを受けた学生が、熟練の職人に及ぶことは、当然ないだろう。しかし、それを分かったうえで、なんとか寿司づくりの“魂”を学んでほしいと考える彼は、誠実な人物だと考えられるのだ。

 みなとは、そんな海弥の厳しい指導を受けるとともに、船男(佐野史郎)、胡桃(ファーストサマーウイカ)、蒼斗(山時聡真)らが明確な目的意識を持っていることを知ることで、すっかり自信をなくしてしまう。親としての責任を重視し、“自分のために生きる”ことを忘れていたみなとは、「急に自分のために生きろと言われても、どうしたらいいか分からない」と述懐する。

 だが、そういった理由で鮨アカデミーの受講を断念しようとするみなとを、海弥は慰留しようとする。指導している間、作業をするみなとの“手”を見ていたのだと。「何千、何万回と、相手を心から思って料理を作ってきた……そんな“手”に見えました」と語るのである。

 注目すべきは、みなとと海弥の共通点である。みなとはなかなか自分に自信を持てないでいるが、子どもを育てあげるという一つの目的のもと、長年尽力してきたことは事実。そのひたむきな年月を経てきたことは、じつは寿司職人として修行を積んできた海弥と、本質的に同じものであるかもしれない。

 だとすれば本作は、かつて日本社会において、“男の仕事”だとされてきた寿司職人や、“女の仕事”だとされてきた家事を結びつけ、“名人”として崇められるような職人と同じくらい、家事を日々こなす人々に社会的な評価と尊敬を払うべきだという思いが、作品の根底に存在するのではないかと考えられるのだ。

 おそらく本作は、みなとが鮨アカデミーで学んでいくなかで自信を取り戻し、そこで知り合った友人たちとともに、新たな世界への扉を開いていく姿が描かれるのだろう。そしてそれは、人生を生きるなかでさまざまな“悔い”を残し、“新たにやりたいことを始めようとしても、「時すでに遅し」なのではないか”と考える視聴者に、希望を与える内容になるのだと予想できる。

 その意味では、本作の題材は鮨にあるというよりは、より普遍的なものを描こうとしているのだと考えられる。年をとってから新たなことにチャレンジするのは、確かに難しいかもしれない。しかし、年月を過ごしたからこその知恵や工夫、思いが、そこにはきっとあるはず。世の中は刻々と変わっていくが、それを武器に羽ばたくこともできるのではないか。

 そうした、多くの人をエンパワメントするポジティブなメッセージが、『時すでにおスシ!?』では語られていくはずだ。新たな年度を迎えたいま、何かに挑戦したい人々を鼓舞する役割を期待したいところだ。

■放送情報
火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:永作博美、松山ケンイチ、ファーストサマーウイカ、中沢元紀、山時聡真、杏花、平井まさあき(男性ブランコ)、後藤淳平(ジャルジャル)、猫背椿、関根勤、有働由美子、佐野史郎
監督:坪井敏雄、岡本伸吾、金子文紀
脚本:兵藤るり
編成プロデュース:松本友香
プロデュース:益田千愛、鈴木早苗
主題歌:Creepy Nuts「Fright」(Sony Music Labels Inc.)
音楽:青木沙也果
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tokisushi_tbs/
公式X(旧Twitter):@tokisushi_tbs
公式Instagram:tokisushi_tbs
公式TikTok:@tokisushi_tbs

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