『風、薫る』見上愛×上坂樹里がついに同じ画面に 行き場をなくした2人の第1歩
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第9話は、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が東京でついに出会う、物語の大きな節目となる回だった。娘の環(宮島るか)を連れて逃れてきたりんと、宣教師・メアリー(アニャ・フロリス)との別れに向き合う直美。行き場をなくした2人が、それぞれの苦しさを抱えながら、次の一歩を探していく姿が描かれた。
亀吉(三浦貴大)たちに追われながら、虎太郎(小林虎之介)の助けもあって、りんは環を連れてなんとか東京へたどり着く。だが、ようやく逃げ切ったと思っても、頼りにしていた叔父・信勝(斉藤陽一郎)も商売がうまくいっておらず、今の家を出なければならない状況にあった。仕事を探そうにも、幼い子どもを抱えた女性が簡単に働き口を見つけられる時代ではない。東京は希望の場所というより、まず生きていくための場所なのだと、この回ははっきり描いていた。
りんはこれまで、士族の矜持や見栄を抱えながら生きてきた人物だ。だからこそ、誰かの世話になることや、施しを受けることを簡単には選べない。けれど、環を連れて街をさまよい続けても、日が暮れるだけで何も変わらない。その姿には、誇りを守っていればどうにかなる段階を、もうとっくに過ぎてしまっている切実さがあった。自分1人の問題ならまだ耐えられる。だが、守るべき子どもがいるとなれば話は別だ。その現実が、りんを少しずつ追い詰めていく。
一方の直美もまた、違う形で居場所のなさを抱えていた。教会で自分を見守ってきた宣教師・メアリーが日本を離れると知り、一緒に連れて行ってほしいと願う。だが、そこで返ってきたのは救いの言葉ではなかった。日本を出て、その先で何をするのか。その問いは、居場所を変えながら生きてきた直美に重くのしかかる。それでもメアリーが伝えたかったのは、もう誰かに連れて行ってもらうのではなく、自分で自分の行き先を決めるべきだということだったのだろう。
りんは見栄や誇りだけでは環を守れず、直美もまた、逃げるように居場所を変えるだけでは前に進めない。そんなふうに、それぞれがこれまでの生き方の限界に突き当たったところで、2人は東京で出会うことになる。そして直美は、りんに「私はあなたじゃなく、この子に食べさせたいの」と言う。自分の体面ではなく、まず環を生かすこと。その現実を前にして、りんの心は大きく揺れたはずだ。
2人とも、決して強くも器用でもない。自分のことで精いっぱいで、きれいごとだけでは生きていけない状況にいる。それでも、そんな2人だからこそ、苦しんでいる相手を放っておけないのだろう。自分に余裕がない中でも誰かに手を差し伸べようとする。その優しさが、この作品らしさにつながっているように思えた。
第9話は、東京で生きることの厳しさを描きながら、りんと直美が出会うまでを丁寧に積み重ねた回だった。行き場をなくした中で差し出された直美の手は、りんにとって大きなものだったはずだ。ここから2人がどんな関係を築いていくのか。『風、薫る』という物語が、ここから本格的に動き出していきそうだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK