松山ケンイチの“プロフェッショナルぶり”再び 『時すでにおスシ!?』が描く大人の青春

 お母さんの手が好きだ。柔らかくて、温かくて、優しくて。触れられると安心して、思わず泣きそうになってしまうその手には無限の可能性がある。

 4月7日に放送された『時すでにおスシ!?』(TBS系)第1話。子育てを終えた50歳の主人公、待山みなと(永作博美)の第2の人生が幕を開けた。

 20代〜30代の女性を主人公に、現代社会で直面する仕事や子育てのリアルな悩みを描いてきたTBS系火曜ドラマ。みなとは、これまでこの枠に登場した主人公たちの未来の姿でもある。真新しい制服やスーツに身を包んだ若者が街に溢れる春。みなとは“お母さん”を卒業した。長年シングルで育ててきた一人息子の渚(中沢元紀)が就職を機に家を出ることになったのだ。亡き夫によく似た立派な背中を見送り、達成感を味わったのも束の間、ひとりぼっちになった家で喪失感に襲われる。

 平均寿命が右肩上がりに伸びている現代。仮に100歳まで生きるとしたら、50歳のみなとはちょうど折り返しを迎えたばかりだ。永作を筆頭とする芸能人はもちろん、一般の中高年も昔に比べると見た目や中身が若々しく、みなとだって今から何でもできるような気がする。だが、そんなにすぐ“お母さん”の癖が抜けるわけもなく、ついつい渚に様子伺いのメッセージを送っては「暇なの?」と言われる始末。これといってやりたいことも見つからず、“空の巣症候群”に陥りかけたその時。みなとに舞い込んできたのが、わずか3カ月で寿司職人になれるという、鮨アカデミーへの入学の誘いだった。

 人生100年時代において、重要なテーマとなっている「大人の学び直し」。必要な状況やタイミングに応じて、社会人が教育機関で新たなスキルや技術を習得する、いわば“リカレント教育”はヨーロッパから始まり、日本でも少しずつ普及し始めている。特に鮨アカデミーのような養成学校はその多くが民間企業によって運営されており、大学や専門学校に比べて入学にあたっての心理的なハードルが低い。みなとが入学を決意したのも、完全なる勢いだ。

 本当は一緒に行くはずだった友人の泉美(有働由美子)は入学直前に怪我で断念。不安になりながらも一人で鮨アカデミーの門を叩いたみなとがそこで出会ったのは、勤務先のスーパーで密かに店員たちから「さかな組長」と呼ばれている大江戸海弥(松山ケンイチ)だった。理屈っぽい弁護士、心優しきパティシエ、風変わりな裁判官に続いて、堅物な鮨職人を演じる松山。徹底した役づくりに定評のある彼は、何かしらのプロフェッショナルを演じるのに長けている。大江戸がみなとたち生徒に“学習の到達点”として寿司を握る場面では、その鮮やかな包丁さばきと滑らかな手の動きに思わず見惚れてしまった。

 大江戸は技術はもちろんのこと、鮨へのリスペクトがあり、生徒の指導にも一切手心を加えない。相手が女性だろうと年上だろうと関係なく、気が弛んでいる生徒には容赦なく叱咤を飛ばす。そんな大江戸の授業を、世代も境遇もバラバラなクラスメイトたちと並んで受けるみなと。誰かと一緒に学ぶこと、何かを覚えるのに集中すること、ましてや誰かに怒られることなんて大人になるとなかなかない。そこには確かに青春の萌芽がある。

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