『恋の通訳、できますか?』は日韓合作の転換点に 福士蒼汰が刻んだ鮮烈なスパイス
序盤、ヒロは決して好感の持てる人物として描かれない。想定外の共演者だったムヒに対し、露骨にトゲのある態度を取る。福士蒼汰がこれまで積み重ねてきた爽やかなイメージを、あえて裏切るようなキャラクターだ。番組を成功させようと真摯に取り組むムヒに、ヒロは嘲るような言葉を投げかける。その言葉がムヒに届く前に受け止めるのが、通訳のホジンである。彼はあえて訳さず、ムヒを傷つけないように立ち回る。ヒロの攻撃的な言動があるからこそ、ホジンが「通訳」という立場を使ってムヒを守るという構造がはっきりと浮かび上がる。ムヒとホジンの関係に、ヒロの存在が“スパイス”として差し込まれることで、物語にはテンポと刺激が生まれている。
加えて、言語そのものが人物同士の距離を表す、という仕掛けが用意されている点も興味深い。ムヒに反発していた頃のヒロは、日本語のまま距離を保ち、通訳に頼る側にいた。しかし、彼女を意識するようになるにつれ、ヒロは韓国語を覚え、自分の気持ちを直接伝えようとし始める。話す言語の変化が、そのまま感情の距離の変化として可視化されていくのだ。
中でも強く印象に残るのが、思わず口をついて出る韓国語の一言、「カジマ(行くな)」。意味を正確に伝えようとしたというよりは、感情が先にこぼれ落ちたような短い言葉だったが、韓国ドラマを見慣れた視聴者ほど、福士蒼汰という俳優が放つ不意打ちの一言に心を掴まれるに違いない。どの言語で話すかが感情の距離を示す仕掛けとなっているこの構造においても、ヒロが話す韓国語は物語の“スパイス”となっている。
これらの言語の違いを物語の推進力としていく構造は、『ロマンティック・トリップ』のロケで訪れるカナダやイタリアの雄大な自然、そして異国の街並みという映像の力も加わることで、より鮮明になっていく。日常から切り離された風景の中で、登場人物たちは感情を抑えきれず、言葉や距離の揺らぎがより際立っていくのだ。
そのはじまりが、日本人には親しみのある江の島であることも印象的だ。売れない女優だったムヒが、過去の恋に区切りをつけるために訪れ、通訳のホジンと出会った場所。言葉は通じず、翻訳アプリも役に立たない。その状況の中でホジンは、訳す、訳さないという判断によって距離を調整し、ムヒを守る。この最初の選択によって、本作の基本構造<言語の違いが人間関係を形作っていく仕組み>は、すでに示されている。
日韓キャストの共演が珍しくなくなった今、『恋の通訳、できますか?』は、その“使い方”で差をつける。国の違いを声高に語るのではなく、言葉と感情、そして風景が呼応することで生まれる距離感を丁寧に切り取る。本作のロマンスは、その積み重ねの先に独自の距離感として描き出されている。
■配信情報
Netflixシリーズ『恋の通訳、できますか?』
Netflix独占配信中
出演:キム・ソンホ、コ・ユンジョン、福士蒼汰、イ・イダム、チェ・ウソン