トミー・バストウによる日本語表現の妙 『ばけばけ』『SHOGUN 将軍』で証明した適応力

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第11週「ガンバレ、オジョウサマ。」は、特別な寒さとなった松江の冬を乗り越えたヘブン(トミー・バストウ)がトキ(髙石あかり)とともに新年を迎えるシーンから始まった。

 ヘブンも日本に滞在する期間も長くなり、来日時はほとんど口にすることのなかった日本語も少しずつではあるが上達している。これまでは錦織(吉沢亮)くらいしか、きちんとしたコミュニケーションをとれる人物はいなかったものの、女中として働くトキや花田旅館の人々とも、日本語のみで会話が通じることも多くなった。

 そして、ヘブンが日本語で話す場面が増えるにつれて、演じるバストウの絶妙な塩梅でカタコトの日本語を扱う芝居の上手さも目立つ。ドラマではたどたどしく喋る姿がもはや板についているが、彼自身は10年以上も前から日本語の勉強をしていたという。そのうえで、ヘブンとしてさまざまな日本人と触れ合いながら、日本語で使える語彙を増やしていく姿はあまりにも自然で、まるで役柄と同じタイミングで日本語を学習しているようにすら感じられる。

 そんなバストウの芝居が日本の人々の目に留まるようになったのは、2024年にディズニープラスで配信された『SHOGUN 将軍』の出演に他ならない。彼が演じたのは主要人物であるポルトガル人のマルティン・アルヴィト司祭。徳川家康がモデルとなった吉井虎永(真田広之)に仕える“通詞”として、日本人と異人の間に立って堪能な英語と流暢な日本語を操り、異なる文化で生きてきた両者の仲を取り持つキャラクターだ。

 初めて登場した際は、日本に漂着した英国人航海士の按針/ジョン・ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)の通訳人を務めて、虎永との意思疎通を助けた。『ばけばけ』で演じるヘブンの風貌や喋り方とは異なり、理知的に2人の会話を取り持ちながらも、異国の地で窮地に陥っている按針へのフォローも欠かさない。

 その姿はどちらかと言えば、ヘブンと松江の人々の誤解を解くために奔走する錦織のようでもある。『ばけばけ』においては、率先して通訳を買って出る錦織や松江中学の生徒たちを翻弄している側だが、マルティンとしては城内の政治や大老たちの一声に翻弄される側。それでも、まだまだ日本に暮らす外国人が見慣れない時代において、マルティンが異国の地で“通詞”として人々をつなぐ様子をバストウはていねいに演じており、日本人と異人の関係を滑らかにする潤滑油として重要な役割を果たしている。

 日本の文化や映画に興味を惹かれて日本語を学び始めたというバストウは、多くの日本人俳優が出演しているハリウッド制作の時代劇にも決して浮くことなく馴染んでいた。特に物語のヒロインでもある戸田鞠子(アンナ・サワイ)との会話では、日本語と英語を巧みに使い分けながらも、彼女に特別な感情を持っているマルティンの心の内を匂わせる。按針とは、ポルトガルのカトリックとイギリスのプロテスタントという宗教上の信仰の違いから、最初は敵対する立場となってしまったが、物語が進んでいくにつれてお互いに心を通わせる瞬間もあった。

『SHOGUN 将軍』|SHOGUN で学ぶ歴史|EAST vs WEST|Disney+ (ディズニープラス)

 ただ、日本の文化に敬意を示しているマルティンでさえ、この時代においては物珍しく扱われ、完全には受け入れられていない居心地の悪さを感じていた。バストウが『SHOGUN 将軍』で演じている役柄は、今も異国の地で孤独を感じているヘブンの内情にも通ずる部分があると言えるだろう。

 バストウは続編が発表された『SHOGUN 将軍』シーズン2に続投することも発表されている。『ばけばけ』でのヘブンとしての姿を見慣れている人にとっては、本作でのマルティンの風貌や流暢な日本語は目新しく映るかもしれない。明治時代の松江から、再び戦国時代の終わりと江戸時代の始まりに舞い戻る。日に日に日本への理解を深めている彼の『SHOGUN 将軍』シリーズでの芝居からも目が離せない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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