『ばけばけ』“出生の秘密”をなぜドラマにしなかった? トキの人物像が詰まった脚本の狙い
では、なぜこの事実を三之丞に語らせたのか。橋爪は「三之丞はずっと親の愛情が足りずに育ってきた人だと思います。三之丞はトキが本当の娘だと知ってしまい、さらには親の死が迫っている。それでもまだ自分に愛情が向いていない中で、彼がどんな行動をとるか、というところから考えていきました。なので、あのセリフはトキのためというより、どちらかというと三之丞のためにあるもので、それをトキがどう受け止めるのかが最大の見せ場。それをさらっと受け止めるのがふじきさんらしさであり、このドラマの方向性を体現するシーンになったと思います」と話した。
妻のタエ(北川景子)と共に、トキと親子として振る舞える日が来ることを望んでいた傳。だが、最後に残したのは「わしとおタエの子ではない」というメッセージだった。
「最初に松野家にトキをあげると決めたときに『絶対に(事実を)墓場まで持っていくぞ』と決めた彼の覚悟であり、トキへの愛情だと思います。あそこで本当の親だと明かせば自分は満たされるかもしれないけれど、トキはずっと十字架を背負って生きていくことになってしまう。けれども自分がすべてを抱えることによって、トキは“本当の家族は松野家なんだ”と、今まで築いたものを崩さずに生きていくことができる。『娘じゃない』と言うことで、娘に最大の愛情を与えるシーンです。同時に、これからも生きていくタエにとっては、将来の可能性を断ち切られることにもなるので、彼女に対する申し訳なさもあったと思います」
人の生死を描く繊細なシーンだけに、当日は撮影現場にも緊張感が漂った。橋爪は「役者の感情が乗るシーンなので、積極的には話しかけず、現場の生の空気を壊さないことを考えていました」と明かし、「絶対に失敗できないシーンなので、『一回で撮るぞ』とスタッフも気合いが入っていて、ピリっとしていました。ディスカッションをしてシーンに臨んだというよりは、それまで積み上げてきたものがたくさんあったので、(役者から)出てくるものを私たちは待つ、という感覚でした」と振り返った。
角度を変えて何度か撮影する中で、大事なショットはすべて一発OK。橋爪は「もちろん台本通りに進行しますが、台本には書いていない隙間の部分で、“相手がどう芝居をしたら、こちらはどう返して”というやり取りが強く出る場面だったと思います。すごく緊張感を持ちながらも、温かく包み込まれるような……不思議なシーンでした。このドラマの中では珍しく重めのシーンでしたが、重たいだけじゃ終わらない、『ばけばけ』らしい場面になったと思います」と語った。
傳という大きな存在を失い、物語は新たな局面へと展開されていく。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK