『ぼくほし』の“美しさと怖さ”をいつまでも忘れない 私たちの日常と地続きだった幸せな世界
本作は、「優しい世界」の具現化のような作品だ。健治の使う「ムムス」や「ポポム」といった独自のオノマトペや、独特の言い回しは、それこそ彼がうっとりと聴き入る堀田真由/幸田珠々の声色のような穏やかさで、世界全体を包み込んでいる。一方で、「優しい世界」の外側の、底知れぬ恐ろしさが際立つ作品でもある。
教育虐待や、ヤングケアラー問題等、生徒たちが学校の外で抱える様々な問題は、スクールロイヤーが簡単に解決できるような話では到底なく、健治は生徒が「本当の幸い」に辿りつくための道しるべとなる方法を懸命に模索し、呈示することしかできないという現実を描いてもいる。最も印象的だったのは、第10話において自覚なく少年事件に巻き込まれた優等生・斎藤が当然の結果であるはずの「不処分」になるには、健治が「よだかやジョバンニ」の自己犠牲の精神に則ってスクールロイヤーを辞めることしか方法がないという事実に突き当たる展開だ。そこで際立つのは、そうせざるを得なくなる社会のおかしさだった。それは健治が言う通り「この世の仕組みはきちっとしていそうで、案外すかんすかん」であり、「外の世界」は「思う以上に注意が必要」であることを身に沁みて感じさせる。
本作は健治と珠々による「祈り」で終わる。私は健治の、家から濱ソラリス高校へと向かうまでの景色が好きだ。彼の日常だけでなく、掃除する人の挨拶や、赤ちゃんを巡る人々の光景など、各々の日常が垣間見える。校門では警備員・小島(諏訪雅)が心配そうに、校門でいつもピタリと立ち止まる健治を見ていて、彼の愛する珠々は、「少し離れたところから銀の鈴を振っている」。なんて幸せな日常で、なんて幸せな世界なのだろう。そしてその日常は、こちらの世界と地続きだと思うのだ。「この小さな物語の幾きれか」は、間違いなく私たちの日常の断片で、だからこそ、本作を観て感じた世界の美しさと怖さをいつまでも忘れないと思う。
何事にも臆病で不器用な主人公が、共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣されることになり、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。
■配信情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
TVer、Netflix、FODにて配信中
出演:磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡(INI)、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本:大森美香
音楽:Benjamin Bedoussac
主題歌:ヨルシカ「修羅」(Polydor Records)
監督:山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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