『こんばんは、朝山家です。』は万華鏡のようなドラマだ 小澤征悦と中村アンの“リアリティ”

 父親と母親というのは、子どもを見る視点がちょっぴり異なるものなのかもしれない。“普通”のレールに乗せてあげることこそが、子どもの幸せだと信じる父と、“普通”から逸れたとしても、その子自身の幸せを探し出してあげることこそが大切だと考える母。家庭によって違いはあれど、『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の賢太(小澤征悦)と朝子(中村アン)のような組み合わせは、意外と多い気がする。

 
 思えば、わたしの両親も、2人と同じような感じだった。たとえば、就職活動をしていたとき。父は、わたしが受けている会社がどんな実績をあげているのか、世間からどう評価されているのかを重点的に調べて、客観的なデータをもとにアドバイスをしてくれた。一方、母は会社の看板や安定性よりも「あなたがやりたいことができる場所なの?」とわたしの気持ちに寄り添ってくれていた。

 だから、晴太(嶋田鉄太)のWISK検査(=子どもの知能を測定するための検査)の点数に一喜一憂している賢太と、点数から晴太の心情を察してあげようとしている朝子を見たとき、「うちの両親みたいだな」と思った。父親と母親は、子どもを思う気持ちが同じでも、アプローチが異なるのだろう。学生のころは、「お父さんはわたしの気持ちに寄り添ってくれない」と不貞腐れていたこともあったが、このドラマを通して、父も父なりにわたしの人生を真剣に考えてくれていたのだと気づいた。

 ただ、発達障害の晴太にはさまざまな特性がある。気圧がおかしい日は脳がモヤっとしてしまうから無理に起こしたらいけないし、学校でずっと座っていることもできない。初対面の人とはうまく関われるが、距離の取り方が下手なので継続的な関係を築き上げることができない。これは、晴太のわがままでもなんでもなく、彼の特性だ。それを理解して寄り添おうとしている朝子からしたら、賢太の“父親ならではの厳しさ”が、時に無神経に映ってしまうのだろう。

 賢太は、バカがつくほどのポジティブだ。嫌なことがあってもすぐに忘れることができるし、“どうにかなるでしょ精神”で生きてこられた人なのだと思う。ただ、自分にとっての当たり前が、子どもにとっての当たり前とはかぎらない。他者と関わるときは、相手の立場になって考えることを忘れてはならないのだ。

 賢太は、20年来の友人・中野(松尾諭)に対しても、厳しすぎるところがある。頑張ることが当たり前だと思ってきた賢太からしたら、心がポキっと折れて頑張れなくなってしまった中野のことが信じられないのだろう。すぐに他人に甘えようとする中野を、自身の息子と重ねている部分もあるのかもしれない。

 「修学旅行にどうしても行きたくない!」と訴える晴太に、“最後の手段”として「転校すればいい」と教えたのも中野だった。この発言は、たしかに軽率な部分があるし、責任が取れないのに勝手なことを言うべきではない。ただ、中野は本当に追い込まれた経験があるからこそ、晴太に“逃げてもいい”という選択肢を示してあげたのではないだろうか。

 『こんばんは、朝山家です。』は、まさに万華鏡のようなドラマだ。観るたびに、キャラクターにへの印象がどんどん変わっていく、たとえば、最初は中野のことを、「他人に甘えてばかりで努力をしない人」だと思っていた。しかし、次第に頑張っても頑張っても報われないから、努力を休むことで自分を守っているのでは? と思うように。

 そして、素晴らしいのが小澤征悦と中村アンだ。彼らは、キャラクターの二面性……というより、もっと深い“実は”な部分を見事に体現している。優しくて朗らかで人当たりが良く見えるが、実は自分勝手で何も考えていない賢太。一方で、ずっとイライラしているため、「怖い人なのかな?」と思われがちな朝子は、実は誰よりも繊細で愛情深い。この“実は”を、2人はふとした表情の陰りや声色の揺れ、ちょっとした間の取り方で表現している。

 これこそが、小澤と中村の凄みと言えるだろう。キャラクターの表と裏を切り替えるのではなく、常に両方を抱えている人間として存在しているからこそ、“リアリティ”が生まれる。そして、そのリアリティが視聴者の心を強く揺さぶるのだ。彼らの“実は”を知るたびに、わたしたちの視点は少しずつ変わっていく。その揺らぎを楽しませてくれるこのドラマは、やはり万華鏡のように鮮やかで、奥深い。

こんばんは、朝山家です。

足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。

■放送情報
『こんばんは、朝山家です。』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:15〜放送
TVerにて、放送終了後見逃し配信
U-NEXT、Prime Videoにて全話配信
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
演出:足立紳、小沼雄一、安村栄美
チーフプロデューサー:山崎宏太
プロデューサー:寺川真未、宮本日奈美、加藤伸崇(S・D・P)、坪ノ内俊也(R.I.S Enterprise)
協力プロデューサー:足立晃子
ビジュアル撮影:浅田政志
タイトルロゴ:寺内暁
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
©ABCテレビ
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/asayamake/
公式X(旧Twitter):@drama_asayamake
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