不穏な展開のオンパレード! 『エイリアン:アース』第1話から期待を超える素晴らしさ

鍵を握る存在となる“ハイブリッド”

 「未来において不死の存在は3種となる。体の一部がマシンである人間“サイボーグ”。人工知能AI体“シンセ(シンセティック)”。そして人間の意識を取り込んだシンセ“ハイブリッド”」……という文から幕を開ける本作は、なんと不老不死の実験によって生まれた「人間の意識がシンセティックに移行された存在“ハイブリッド”に大きな焦点を当てている。

 『エイリアン』シリーズといえば、作品ファンの間で悪名高いウェイランド・ユタニ社が存在するが、本作ではその他の企業も前に出ていて、特にこの不老不死の実験をする新たな企業プロディジー社が物語の中心的な立ち位置となってくるのだ。“天才少年”と呼ばれる創業者兼若き天才CEOのカヴァリエ(サミュエル・ブレンキン)が率いるチームは「ネバーランド・リサーチ・アイランド」と呼ばれる島で、一人の少女の意識をシンセと呼ばれる人工知能AI体に移し、“ハイブリッド”を生み出す。彼女の元の名前はマーシーだが、移行されたボディの呼び名は「ウェンディ」(シドニー・チャンドラー)。施設名(ネバーランド)はもちろん、移行の際にカヴァリエが彼女の不安を取り除くために天井に移したアニメ映像も含め、本作はかなり『ピーター・パン』の要素を含んでいることを隠さない。ウェンディが実験成功例になると、その後に同じような“ハイブリッド”になるための子供たちが集められる。彼女の協力もあり、みんながハイブリッド化した。そんな彼らは「迷子たち(ロストボーイズ)」と呼ばれ、それぞれのボディネームも『ピーター・パン』の迷子たちに因んだ名前となっている。

 彼らは基本的にもともと重病を患った子供たちで、健康的な身体が手に入ることを楽しみにしていた。ウェンディの話を聞く限り、少なくとも両親は実験隊として我が子をプロディジーに差し出しており、ハイブリッド化した後は家に帰れないし家族にも会えないことが事前に取り決められている。しかし、ハイブリッド第1号の「ウェンディ」の進化は目覚ましく、生き別れた兄への想いを募らせ、彼の動向を見守るために街のカメラを自由自在に操るどころか機械のコードを書き換えて好きなように動かすこともできるようになった。そのほか身体能力も高く、どのハイブリッドも速くて強くて“壊れない”。だからこそ、大切な兄……戦術部隊の衛生兵であるハーミット(アレックス・ロウザー)を死から守るために、「ウェンディ」が墜落現場の救助作戦に志願し、“ハイブリッド”たちが現場に派遣されることになる。

 上手いなと思うのが、本来なら死にもしない“最強”の存在である“ハイブリッド”がエイリアンに立ち向かう構図は安心感が勝って恐怖を感じにくい。しかし、その“ハイブリッド”の中身が11歳くらいの子供たちであることで話が変わってくるのだ。彼らが「モンスターだ!」と怖がることで、私たちにもそれが伝わるようになっている。実際、不死身の彼らもエイリアンに遭遇したらトラウマものだろうし、周囲には人間の捜索隊も大勢いるため(そして大勢死ぬ)、依然として襲われることへの恐怖がちゃんと持てる設計になっているのが素晴らしいのだ。

「もうこれヤバいって!」と頭を抱えたくなる不穏な展開のオンパレード

 『エイリアン:アース』が素晴らしいのは、第1話の時点で不穏な要素をちりばめたのに対し、第2話の時点で焦らさず、それをガンガン実行していくスタイルであることだ。地球に墜落したユタニ社の船は、そのまま商業施設と居住区域が混じり合っているような100階建ての建物に突っ込み、それだけで大惨事。いつまた陥落事故が起きてもおかしくない状況で怪我人を避難させたり、救助したりと忙しいのに地球外生命体の恐怖に怯えなくてはいけない。宇宙船でエイリアンと閉じ込められた時の閉鎖感が、そんなふうに崩れかけてまともな移動が困難になってしまった建物でしっかりと再現されているのが良い。

 そしてとにかく、エイリアンが大暴れする。逃げ遅れた一般市民をものの数秒で蹂躙したり、捜索隊をめちゃくちゃにしたり。一度は拝んでおきたい、インナーマウスで獲物(人間)の頭に突き刺すシーンもある。また、CGだけでなくスーツアクターによるアクションも本格的に展開されていた点も特筆すべきだろう。しかし興味深いのは、エイリアンのシグニチャーでもある唾液がまだ酸性ではなさそうな点だ。なぜ、唾液が垂れても溶けないのか、非常に気になる。とはいえ、第2話の時点で相当な被害が出ていて、最終話までに一体どの程度の人が犠牲になるのか今から不安(期待)が募ってしまう。また、何より最悪(最高)なのは、エイリアンだけが人間を脅かす存在ではないこと。先述した他の地球外生命体もその頭角を現し始め、しっかり脅威であることをアピールしている。極め付けには、第2話のラストで見つかったエイリアンの卵……。その数の多さに頭を抱えてしまう。もう無理だって!

 そんなふうにエイリアンや“ハイブリッド”が活躍する本作だが、その合間に描かれる“人間味”のあるシーンも注目したい。第2話のタイトルでもある「ミスター・オクトーバー」ことレジー・ジャクソンの野球ボールをウェンディの兄、ハーミットが手を取る場面。父との思い出など、人生で大切な瞬間をくれた時間を振り返るようなシーンが「人間らしさ」を語る機能を担っており、自分を「人間だ」と主張するウェンディや、彼女を指導するカーシュ(ティモシー・オリファント)の語る死生観など、「何が人間を人間たらしめるのか」というテーマが本作に内包されていくような予感がする。

 このウェンディとハーミットの再会シーンも素晴らしい。死んだと聞かされていた妹がシンセの中に入って生き延びていただけでなく、目の前に現れたことを信じられなかったハーミットが特別な質問をして、彼女が正解を言い終わる前にもう確信して彼女の肩に頭を寄せる。ドラマ『このサイテーな世界の終わり』で知られるアレックス・ロウザーの繊細な演技が光る瞬間だった。しかし、そんな平和な瞬間も束の間。突如現れたエイリアンに、ハーミットは襲われ、一緒に階下に落ちてしまった! 卵もあるし、他の地球外生命体も野放しだし、建物が崩れてしまう危険性もあるし……「もうこれヤバいって!」と心の中で叫びながらも、その状況が面白くて仕方ない『エイリアン:アース』。これからどんな方向に物語の舵が切られるのか、楽しみである。

■配信情報
『エイリアン:アース』
ディズニープラス スターにて独占配信中
出演:シドニー・チャンドラー、アレックス・ロウザー、ティモシー・オリファント、エッシー・デイヴィス、サミュエル・ブレンキン、バボー・シーセイ、デヴィッド・リズダール、エイドリアン・エドモンドソン、アダーシュ・ゴーラヴ、ジョナサン・アジャイ、イラーナ・ジェームズ、リリー・ニューマーク、ディエム・カミラ、モー・バーエル
クリエイター:ノア・ホーリー
製作総指揮:リドリー・スコット、デイビッド・ツッカー、ジョセフ・イベルティ、ダナ・ゴンザレス、クレイトン・クルーガー
©2025 FX Productions, LLC. Courtesy of FX Networks and Hulu

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