『あんぱん』が“ドキンちゃんとバイキンマン”の意味 成功までの雌伏は“朝ドラあるある”に
『アンパンマン』誕生の前にホームドラマ。メイコと健太郎親子と蘭子(河合優実)とのぶと嵩が部屋に集まるとにぎやか。健太郎が嵩の義弟になって、ファミリー(大家族)感がある。メイコはすぐ結婚してしまったから、第95話の時点で蘭子はひとりで暮らしているのだろう。
『あんぱん』最高のキスシーンの舞台をなぜトイレに? のぶと嵩がたどり着いた幸せの形
朝田のぶ→若松のぶ→柳井のぶ。第89話でのぶ(今田美桜)がついに「柳井のぶ」になった。 NHK連続テレビ小説『あんぱん』第1…メイコは上京してきた当初、のぶの長屋の向かいの部屋を斡旋してもらい、「お手洗いから星が見えるところに住めるらあてもうワクワクする」とはしゃいでいた。長屋もアパートも同じ大家で(土地持ちなんだろう)共同トイレなのか。気になっていたところ、第95話でのぶと嵩が長屋の外に出て月夜を見ながら、嵩の漫画家への夢に思いを馳せていた。こんな空間があるのなら、なぜ第90話ではトイレの中だったのか。晴れた夜には星空が見えるという意外とすてきな場所とはいえ、戦後数年の共同トイレはキスの場には向いていない気がして。筆者としては唐十郎的逆さまの詩世界と納得させたのだが、第95話でふたりきりになれる静かな場所がほかにもあったことがわかるともやもやが再燃してしまった。再度、トイレの必然性について考えてみた。
『アンパンマン』にはバイキンマンとドキンちゃんがいる。ふたりはバイキンだ。しかもバイキンマンの初期のデザインは蝿をモチーフにしていたそうだ。この時代のトイレには蝿もいただろう。トイレにはバイキンや菌もいるだろう。だがやなせたかしはこういったバイキンとの共生を『アンパンマン』で描いているのだ。
やなせのインタビューをまとめた『何のために生まれてきたの? 希望のありか』(PHP研究所)ではバイキンについて熱弁している。「いま抗菌グッズというのが非常にたくさん出ているけど、全部を抗菌にしてしまうとね、大変なことになっちゃうんですよ」なんてことを言っていることからも、バイキンマンは必要悪なのだと思う。
「ようするに、我々はその戦い(アンパンマンとバイキンマンの終わることのない戦い)のなかで健康を維持しているという原則を、この話の中に入れてあるんですよ」と言うようにアンパンマンとバイキンマンの戦いにはどちらかが勝って終わることはなく永遠に続いていくのだ。なかなか深い話ではないか。
のぶのモデルはドキンちゃんと言われている。だからのぶと嵩のキスがトイレというのはやなせたかしの哲学そのものと言っても過言ではない。嵩とのぶは着々と『アンパンマン』への道をゆっくりとでも確実に歩んでいるのだ。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK