『あんぱん』が“ドキンちゃんとバイキンマン”の意味 成功までの雌伏は“朝ドラあるある”に
のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が結婚し、NHK連続テレビ小説『あんぱん』第19週「勇気の花」(演出:橋爪紳一朗)では、メイコ(原菜乃華)が健太郎(高橋文哉)との長い恋を実らせて結婚、子どもがふたり生まれた。
のぶと嵩が結婚してから5年が経過。嵩は漫画家1本でやっていく決心がなかなかできないが、手嶌治虫(眞栄田郷敦)と偶然出会って、ついに退職届を出した。いよいよ漫画家・柳井嵩の爆誕か。いずみたくをモデルにしたいせたくや(大森元貴)も登場し、嵩がクリエーターとして活躍する舞台は整ってきた。早く『アンパンマン』を描いてほしい。読者はジリジリしながら待っている。
モデルのある朝ドラあるあるで、早く有名なものを手掛けてほしいと期待するがなかなか誕生しない。『あんぱん』の脚本家・中園ミホが書いた『花子とアン』(2014年度前期)も『赤毛のアン』を翻訳するのは終盤だ(第1話で翻訳している未来の姿は出てくる)。『まんぷく』(2018年度後期)もカップラーメンを発明するのは終盤だった。
『らんまん』(2023年度前期)も植物図鑑を出したのは終盤だ。朝ドラファンは待っているものがなかなか出てこないとぶつぶつ文句を言いながらも見続ける。作り手の作戦にまんまと乗せられているのである。いや、これもまた朝ドラを観る楽しみのひとつなのだ。
年下の手嶌治虫が『鉄腕アトム』を書いて注目され、さらに新企画も準備中で、嵩ときたらまともに作品を描いていない。描かなければはじまらないのに。ただ、百貨店の宣伝部の仕事のほかに副業をやっていて、その稼ぎが本業を超えるほどになっていた。と思うと、嵩は才能がないわけではない。仕事として成立する実力はあるのだ。
「でもうちにはわかる。ちっぽけな嵩がいつか天才もびっくりするような作品を作るって」
のぶは根拠なき信頼を嵩に寄せていた。いまの嵩にはのぶが自分のことを盲信してくれていることだけが支えだった。とても理想の夫婦関係である。
嵩が百貨店を辞めても、のぶが働いて支えるつもりでいるのだが、のぶの職場にも暗雲が立ち込めている。代議士・鉄子(戸田恵子)と出会った頃は、恵まれない子どもや女性たちの声を政治に反映させようとしていたが、いざ代議士になると、その地位を守るために意に沿わない社交に時間を費やすようになり実務が伴わなくなった。鉄子は戦争のない社会を作りたいというのぶの思いを「甘い」とあしらう。のぶは歯がゆくてならない。鉄子の右腕だった世良(木原勝利)が独立して、いまやのぶが右腕であろう。のぶにも高い理想があるし、嵩のためにこの仕事を失いたくないだろうけれど、この仕事を続けていていいのか考えはじめているように見える。でもそんな悩みを嵩には言わず、ひたすら嵩を応援している。ハチキンおのぶが最近すっかりおとなしい。これからの嵩も気になるが、これからののぶも気になる。